【「オフィサー・アンド・スパイ」評論】仏史上に残る最大級の謀略事件をオール・フランス・チームで映画化した意欲作

2022年6月4日 17:30


「オフィサー・アンド・スパイ」
「オフィサー・アンド・スパイ」

ベネチア映画祭で銀獅子賞(審査員賞)を受賞したロマン・ポランスキー監督の最新作。19世紀末のフランスで起こったユダヤ系軍人ドレフュスにまつわる冤罪事件を題材にしている。

1894年、フランス陸軍に所属するユダヤ系のドレフュス中尉(ルイ・ガレル)が逮捕された。ドイツ軍に軍事機密を流したスパイ容疑だった。中尉は士官学校の校庭で多くの兵士や市民が見つめる中、軍刀をへし折られ勲章をむしり取られる屈辱を味わい、孤島ディアブルの刑務所(映画「パピヨン」の舞台でもある)に送られた。そんな折、諜報局長として新任したピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)は証拠を検分した結果、ドレフュスの無実とエステラジーという少佐への容疑が浮上する。真相に迫ろうとするピカールだったが、信頼失墜を恐れた軍部は、筆跡鑑定家ベルティヨン(マチュー・アマルリック)や部下のアンリ少佐(グレゴリー・ガドゥボワ)らを使ってピカールたちを妨害し隠蔽のために裏で動き出す。

根強いユダヤ人差別を背景にしたドレフュスの冤罪は、当時フランス世論を二分した大謀略事件として今も語り継がれている。映画にも登場し、仏題でもある「J'accuse(私は弾劾する)」の見出しで新聞に公開書簡を寄稿した作家エミール・ゾラは、一時はその罪に問われ英国に亡命、帰国後に一酸化炭素中毒による謎めいた事故死を遂げた。事件を取材した記者テオドール・ヘルツルは後に論文「ユダヤ人国家」を発表、イスラエルに祖国を再建するシオン運動に発展するなど、ドレフュス事件は後世に大きな影響を残した。

作中のピカール大佐は、暴漢の襲撃、強制捜査、愛人の暴露、弁護人の殺害など、次々とトラブルに見舞われながらも、全く動じず公正を貫く強い人物像。その上反ユダヤ感情を心に忍ばせる難しい役柄だが、デュジャルダンは外見含めて演じ切り久々のハマリ役となった。元々ハリウッド俳優によるポーランド撮影の英語作品、との案もあったが製作陣はこれを回避、最終的にはフランス人スターが大挙出演(マチュー・アマルリックの贅沢な使い方!)、ロケはパリ市内でセリフは仏語と、オール・フランスにこだわった作品に仕上がった。

ちなみに本作は、元チェルシーのオーナーでユダヤ系オリガルヒ、ロマン・アブラモヴィッチ氏が創設した映画基金キノプライムの第1回作品となる。また余談だが、タランティーノ作品の出演で知られ日本でもタレント活動をしていたジュリー・ドレフュスは、父方がこのドレフュス本人の子孫にあたるそうだ。

(本田敬)

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