【「シェイン 世界が愛する厄介者のうた」評論】シェインの愛さずにはいられない素顔とアイルランドの歴史が浮かび上がってくる
2022年5月22日 08:00

「ここには人生のすべてがある」---アカデミー賞【脚本賞】受賞作「ベルファスト」でカトリーヌ・ヴァルフが演じた母はロンドンへの引っ越しを躊躇し続けた。生涯を過ごすはずだった場所を離れることは、快適な生活も生きてきた軌跡も失うことだと感じていた。行き先がロンドンとなれば尚更だ。
1957年12月25日に生を受けたシェイン・マグウアンは、アイルランド移民の子。ダブリン生まれの父と、元歌手で伝統的なアイリッシュダンサーでもあった母、聡明な妹、牧場を営む叔父たちに囲まれて少年期を過ごす。故郷には豊かな自然があり、ピカイチではないけれど詩情を綴った文人がおり、ユニークな絵を描く画家もいた。そして何より人生に欠かせないビールがあった。すべてが揃っている土地を離れたくないと願った少年にとって故郷からの旅立ちは複雑だった。
ロンドンの名門ウェストミンスター校をドラッグ所持で追放された彼は路上へと飛び出していく。ピストルズが叫びクラッシュが観客の唾を浴びていたパンク全盛の1982年、シェインは我が道を行くことを選ぶ。大好きな詩人や文豪たちへの敬意とバンジョーやバウロンの音を融合させ、アイリッシュ魂をぶち込んだ。時には故郷の言葉で歌うバンドの名は“ポーグ・マホーン”、ゲール語で“オレのケツを舐めろ!”の意。でも、この名ではBBCには出られない。やむなくザ・ポーグスとして1984年にアイリッシュパンクの記念碑的となるファーストアルバムをリリースする。
UKチャートにも登場すると、エルヴィス・コステロがプロデューサーを買って出る。1988年、サードアルバムの一曲「ニューヨークの夢」が世界的大ヒットを記録すると、休む間もなくツアーへと突入。ドラッグにどっぷり浸かった狂気の2年間は身と心を蝕みすべてがブルーに染まった。帰還した姿を見た妹はもはや兄は居ないと感じた。まさに廃人寸前…。
「LONDON CALLING ザ・ライフ・オブ・ジョー・ストラマー」のジュリアン・テンプル監督が、ユキヒョウの素顔を追いかけるようにシェイン・マガウアンに迫ったドキュメンタリーの原題は「黄金の壺:シェインとの数ラウンド」である。アイルランドに古くから伝わる、懸命に努力した者だけが見つけられる“黄金の壺”伝説に由来する。
ドラッグで骨が弱り、50歳にしてすべての歯がなくなった。気が短くて頑固、馴れ馴れしい奴にはつっけんどんで、警戒心も人一倍、笑顔の裏にある打算はすぐに見破る。こんな厄介者に向き合えるのは、気の置けない仲間だけ。ミュージシャンや政治家、家族との貴重なラウンドからは、愛さずにはいられない素顔と激動を続けたアイルランドの歴史が浮かび上がってくる。
人物ドキュメンタリーやアーティストの軌跡を描く実話作の評価を決定づける最大の要因は、描かれる人の面白さに拠ることは論を待たない。紛れもなく絶滅危惧種に値する人物シェインもその一人である。
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