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脚本家・港岳彦は“傑作”にどう挑んだのか? 阿部寛×北村匠海「とんび」製作秘話

2022年5月4日 13:00

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「とんび」(公開中)
「とんび」(公開中)
(C)2022「とんび」製作委員会

港岳彦をご存知だろうか? これまで「あゝ、荒野 前篇」「あゝ、荒野 後篇」「宮本から君へ」「MOTHER マザー」といった作品に参加してきた注目の脚本家だ。そんな港が新たに脚本を手掛けているのが、阿部寛北村匠海が共演し、瀬々敬久が監督を務めた「とんび」(公開中)だ。

同作は、幾度途切れても必ずつながる親子の深い絆が描かれる。舞台は、広島・備後市。市川安男/ヤス(阿部)は、愛妻・美佐子とのあいだに待望の息子・旭/アキラ(北村)を授かる。しかし、美佐子の事故死により、ようやく手に入れた幸せは無残にも打ち砕かれてしまう。親の愛を知らずに父になった安男は、仲間たちに助けられながら、不器用にも旭を愛し育てていく。

4月8日に封切りを迎えた「とんび」。劇場を訪れた人々からは「今年で一番泣いた」「会場が感動と共感に包まれていた」「不器用なお父さんの姿に涙が止まらなかった」との声が上がり、各レビューサイトでも続々と高評価が寄せられているのだ。

港は、自ら「傑作」と評する原作小説とどのように向き合ったのだろうか。脚本化のこだわり、完成作についての感想、オリジナル要素について語ったコメントを紹介していこう。

画像2(C)2022「とんび」製作委員会

同作はこれまで、2度にわたりドラマ化(2012年にNHKで放送された作品では堤真一池松壮亮、13年のTBSドラマでは内野聖陽佐藤健が共演)。映画版の脚本を手掛ける際に意識したのは「僕の脚色の方針は単純で、小説を読んだ時の涙と感動を、まじりっけなしにそのまま映画館の観客のみなさんにお伝えする、ということでした」と明かしている。

原作小説については「それぞれの人物の造形、心理描写、昭和の市井の人々の暮らしを彩るディテール……。エピソードの一つ一つも、型通りではなくて、『人間らしさ』をしっかり掘り下げていて、その人が確かに生きているというリアリティがある。その上、全編に熱いヒューマニズムが滾っていて、各章ごとに涙がこぼれました」という。

画像3(C)2022「とんび」製作委員会

また「完成した映画は、とにかく俳優の映画になっているところが素晴らしいと思いました」と言及する。「やっぱり阿部寛さんのヤス! 豪胆だけど気が小さくて、ピュアで人間臭い。出てくるだけでもう面白いし、お芝居で何度も泣かせられました。大好きです」と賛辞を贈りつつ、作品を支えた俳優陣への思いを述べる。

「北村拓海さんは“いくつもの手”で育てられた素直さと、ああいう父親を持った屈折の両方を兼ね備えた青年を繊細に演じてらして素晴らしかった。北村さんの瞳って見る者の心に強く訴えかける何かがあるんですよね。さんの演じるキャラクターには、令和の現在に通じる女性像を託したのですが、非常に見事に、そしてチャーミングに現在の観客との橋渡しをしてくださったと思います。安田顕さんのいかにもああいう地方にいそうな実在感も良かったし、やっぱり薬師丸ひろ子さん! 互いを母娘だと名乗らずに結婚を祝う『夕なぎ』の場面は屈指の名シーンではないでしょうか」

画像4(C)2022「とんび」製作委員会
画像5(C)2022「とんび」製作委員会

原作、ドラマ版との大きな違いは「ヤスの死」を描いているという点。オリジナルブロックとして描かれた結末に、多くの人々が劇場で涙した。このシーンを追加した理由も打ち明けている。

「お客さんが劇場を出たときに、そこが地続きの現在であって欲しいとの思いから令和のシーンが加筆されました。ヤスの晩年を知りたかったし、その後のアキラの人生も見てみたかった。アキラのその後には、自然と重松清さんの歩みを重ね合わせてしまいました。『とんび』の人々は遠い過去の存在ではなく、今なおどこかで生きている同時代の人々なんだという思いがあったんでしょうね」

画像6(C)2022「とんび」製作委員会

これまで手がけてきた脚本作の中で「『とんび』くらい親戚から『見たよ、泣いたよ』と言われる作品はありません」と話す港。「ただ単に泣かされたというのではなく、見た人が自分の父や母や身を置いてきた共同体について語りたくなる、そんな映画なんだなと感じています」と劇中で描かれる“普遍的で純粋な愛の形”について語りつつ、改めて作品に込めたメッセージを伝えてくれた。

「『とんび』はヤスの人生そのものを丸ごと描こうとした作品です。人はこの世に生まれ、生きて、愛して、そして死を迎えていく。その折々に、忘れ難いドラマが生じて、人生を彩ってくれる。映画を見ている観客の皆さんの人生にもいくつもの忘れ難いドラマがあり、この映画を見ることで、ご自身のドラマが思い起こされてゆくのでしょう。それは映画を見る喜びの最高のもののひとつではないでしょうか。映画『とんび』、是非ともご覧ください」


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