【コラム/細野真宏の試写室日記】「ウェディング・ハイ」。バカリズムが「コンフィデンスマンJP」的な脚本を書いたらどうなる?
2022年3月10日 10:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今のご時世、なかなか笑うこともしにくくなっていますが、今月公開作品の試写会の中では最も多くの笑い声が聞けた作品がありました。
それが、この「ウェディング・ハイ」なのです!
ただ、この映画のタイトル、どこかで見たような、と思う人もいるでしょう。
それは、きっと堺雅人が主演したフジテレビ系列の連ドラ「リーガル・ハイ」ではないでしょうか。
「リーガル・ハイ」は、「コンフィデンスマンJP」シリーズも手掛ける古沢良太のオリジナル脚本による弁護士ドラマです。
一方の本作は、中村倫也×関水渚が扮する夫婦の結婚式で繰り広げられる騒動(?)をオリジナル映画として描いているのです。
「オリジナルのコメディ映画」を企画した松竹は、「いろいろな人たちの想いが爆発する場所」として「結婚式」を舞台に考え、「コメディ映画」と言えばということで、バカリズムに依頼しています。
そして仕上がった脚本は「王道的」でありながらも非常に独創的。これはバカリズムにしか書けないような面白いネタに富んでいるものでした。
さらに注目すべきは、物語の構造自体が大きな伏線回収を有している点など、まさに大ヒットしている「コンフィデンスマンJP」シリーズと似ているのです!
バカリズム脚本映画で記憶に新しいのは、オリジナル作品でフジテレビ映画の2021年5月公開作「地獄の花園」でしょう。
今回の「ウェディング・ハイ」は松竹映画ですが、製作委員会にはフジテレビ関連のポニーキャニオンが入っています。
そもそも、「コンフィデンスマンJP」シリーズのような、大きな伏線回収をする作品は過去にもある手法なので、これは「出来が良く面白いものを作ったもの勝ち」と言える面があります。
そんなわけで「ウェディング・ハイ」は、【バカリズムが「コンフィデンスマンJP」的な脚本を書いたらどうなる?】という視点で見ると、より楽しめると思います。
まず、本作は、バカリズム脚本で「最高傑作」と言えるほど完成度は高いです。
映画業界では、常に「ヒットメーカー」の存在を求めていますが、ようやく「バカリズム脚本」というのが大きな脚光を浴びる状況が生まれるのでは、というレベルです。
登場人物は多く、俳優陣も何気に豪華になっています。
しかも、意味のない人物は少なく、それぞれの登場人物が背景も含めキチンと描かれていて、彼らの自然なセッションが非常に面白いのです!
これまで結婚式というのが大きな舞台となる映画は見慣れていなかったので未知数でしたが、「結婚式=いろいろな人たちの想いが爆発する場所」は、設定として非常に的確な仕掛けでした。
そして、もう一つ注目すべきは、本作のメガホンをとったのが、かつてお笑い芸人を志し、「勝手にふるえてろ」「私をくいとめて」が東京国際映画祭で観客賞を受賞した大九明子監督という点でしょう。
これまでの大九明子監督の作風は、こじんまりとしたイメージがありました。しかし、バカリズム脚本×大九明子監督の効果か、本作は大九監督初の300館以上での大規模公開作品となっています。
これは、なかなかチャレンジングな試みで注目に値すると思います。
私は、本作の登場によって改めて「コンフィデンスマンJP」との比較ができ、作風の違いが明快に分かりました。
「コンフィデンスマンJP」の方は、フジテレビの田中亮監督がメガホンをとっていますが、やはりテレビ局のドラマディレクターはかなりの頻度で連ドラを作り続けていて、様々なセンスが磨かれている面があると思います。
「コンフィデンスマンJP」は、一言でいうと映像表現が「シャープ」なイメージです。
その流れで言うと、「ウェディング・ハイ」は、「ホームメイド」なイメージです。
もちろん、どちらが優れている、というわけではなく、これは好みの問題かと思われます。
ちなみに、私はどちらも好きでした。
バカリズム脚本×大九明子監督という組合せは、私はかなり良い化学反応を生み出していると感じています。
「ウェディング・ハイ」が面白いのは、登場人物の多くのキャラが立っていて、そもそも「誰が主演なのか?」さえも分からなくなっている点です。
一応は、ウエディング・プランナー役の篠原涼子が「主演」ということですが、言われないと分からないかもしれません(笑)。ある種の自虐ネタも含め、体当たりの演技をしています。
本作は「誰もが面白いと感じるような力作」だと思います。
そして、「コメディ映画の醍醐味」として、映画館のような大きな場所で多くの人たちと笑いを共有することに意味がある作品でしょう。
予備知識は一切不要なくらい丁寧な作りとなっているので、良い意味で「見る上でのハードル」が低くなっています。目下「余命10年」が“泣ける映画”として大ヒットしていますが、果たして“笑える映画”はどうなるのか。
公開日も今週末3月12日(土)の“大安吉日”にこだわっているバカリズム脚本×大九明子監督による新しい化学反応が、どこまで世の中に浸透するのか注目したいと思います。
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