【「ナイル殺人事件」評論】名探偵ポワロのイメージをアップデート。大胆で刺激的な名作ミステリーの再探訪
2022年2月27日 13:30

名探偵、エルキュール・ポワロは優れた観察眼で難事件を解決に導く冷静な傍観者だ。言い換えれば、アウトサイダーだからこそ怨念渦巻く殺人事件を分析できたのだと思う。しかし、ケネス・ブラナーが前作「オリエント急行殺人事件」(17)に続いてポワロ役と監督を引き受ける本作では、冒頭から、ポワロの個人的なヒストリーが物語に関わっている。正直、これには驚いた。「LOGAN ローガン」(17)の脚本家として知られるマイケル・グリーンが、アガサ・クリスティの原作に加筆した”若き日のポワロに起きた痛恨の出来事”と”後にトレードマークとなる口髭の理由”についてのエピソードが、やがてナイルで起きる連続殺人と深い部分でリンクするとは。
ナイル川を遡る豪華客船、カルナック号には、親友のジャクリーンから恋人のサイモンを略奪婚により手に入れた富豪令嬢のリネットが乗っている。そこにストーカーと化したジャクリーンが姿を現す。リネットの元婚約者で医師のウィンドルシャムがいて、リネットの名付け親であるマリーと、彼女に秘かな愛を捧げるナースのバワーズがいる。さらに、オリエント急行ではポワロの推理に協力した親友のブークが、同じく乗船者のジャズシンガー、サロメの姪、ロザリーとの結婚を画家の母親、ユーフェミアから反対されて苦悩する息子として登場する。全員が、愛を手に入れようとして、その思いを遂げられずに苦しむロマンチストなのだ。そして、ポワロ自身も。ブラナーが「若々しいアプローチに魅せられた」と語る新説「ナイル殺人事件」は、こうしてポワロをも巻き込んで燃えたぎりながら悠久の大河を遡って行く。
銃弾のトリック、消えたネックレス、血痕の中身、等々、事件の鍵になるアイテムと使い方については割りと素早く処理して、監督のブラナーは精密に建造されたカルナック号のデッキをステディカムと共に駆け抜ける。灼熱の遺跡ツアーも用意して観客の目を蒸気船という密室から解放することも忘れない。CGIで描かれる河岸や川底での野生の営みがサービスショットとして用意されている。
そして、口髭。ポワロはなぜ、あの大袈裟な口髭をトレードマークにしたのか? 密室殺人の動機や、同じ船に乗り合わせた人々の愛にまつわる背景に繋がる謎の開示、と言うか、大胆な仮説が、名探偵のイメージをアップデートしてくれる、これはけっこう大胆で刺激的な名作ミステリーの再探訪である。

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