サイレント・コメディ時代の切なくもピュアな青春に全力投球、木村達成の静かな本気が見せる輝き!【若林ゆり 舞台.com】
2021年12月25日 16:00
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1920年代、まだ映画が色も声も持っていなかった時代。動きだけで観客を笑わせ、楽しませようと、命がけでサイレント・コメディ映画(スラップスティック)を作っている人々がいた。そんな人々の悲喜こもごもを描いた、ロマンティックで哀切なコメディ「SLAPSTICKS」は、学生時代から熱心なサイレント・コメディ・ファンだったケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が当時のフィルムメーカーたちにオマージュを捧げ、93年に初演した傑作だ。
本作が、気鋭の演出家・三浦直之(ロロ)により新たに生まれ変わって上演される。しかも今回、主役のビリーを演じるのは、「ジャック・ザ・リッパー」などミュージカル界で顕著な成長ぶりを見せつける若手注目株、木村達成。これが期待しないでいられようか。ということで、稽古真っ最中の木村に話を聞いた。
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虚実を織り交ぜた物語は大きく分けて3つの層から成り立っている。“喜劇映画の父”と呼ばれたマック・セネット監督や、その恋人だった女優のメイベル・ノーマンド、太っちょの俳優ロスコー・アーバックルら喜劇映画人のドラマと、移りゆく時代の話。架空の人物である若き助監督・ビリーの不器用な恋と青春。そして18年後、青春を振り返りながら、サイレント映画の再評価を求める中年男、ビリーの話。木村が演じる青年ビリーは主人公でありながら、個性溢れる映画人たちを傍観しているような存在でもある。
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「ビリーはもう、振り回されっぱなし(笑)。ただ、核として変わらずにあるのは、映画への熱い思いなんですね。とにかく映画好きで『映画界に潜り込めさえすれば何とかなると思ってた』と、セリフでも言っているんですけど、実際に映画界に飛び込んで、あの人たちを見てどうとらえたのか。ビリーとしては、最終的には監督まで登り詰めてマック・セネット・コメディーズを引き継いでやりたかったのか、それとも別の会社を立ち上げてやりたかったのか、どうしたかったのかはわからない。けど、結局のところ挫折したんですよね。それは『その時代が終わったから』とか、『その時代に生きている人たちに認められなくなってしまったから』という諦めなのかもしれないし、あるいは『あそこに居続けたかった、あの世界観のなかで熱を持ち続けたかった』からなのかもしれない。まだ答えは見つかっていないんですけど、それがはっきりと思い浮かぶまで役を突き詰めていきたいと思います。口だけではなく、それを自分が体現できるようにならなきゃなと。それこそが、この『KERA CROSS』(KERAの作品を気鋭の演出家が上演するシリーズで、本作は第4弾)の意義だと思うし、僕を主演にと導いてくださった方たちへの最大の恩返しだと思うから」
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サイレント・コメディを作っていた登場人物たちは、映画に夢中になりすぎてそれ以外の部分はてんでダメという、破天荒なキャラクターだらけ。もしかしたら、ビリーよりそういった人たちの方が感情移入しやすいのかも?
「そうですね。自分も役者という仕事をさせていただいているなかで、何年経っても変わらないのは自分が演じる役に対する熱意とか、命を懸けて臨むということなんですよ。そこはこの当時の“映画バカ”の人たちと変わらないかな、と思います。まあ、その役のために死ねるかっていったら死ねないですけど(笑)、『たとえこの身滅びようとも、役に生きる』みたいな熱意は変わらない。だからビリーよりフィルムメーカーのメンバー、みんなが主役みたいな彼らの方が感情移入できるキャラクターばかりなんですね。だから最初、台本を読んだときは戸惑ったんです。でも、何年経っても変わらない、ビリーの映画に懸ける思いにはすごく共感できます」
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劇中ではサイレント・コメディの場面も見ることができるが、木村自身は映画を見ても「純粋に笑うことはできなかった」という。
「それは面白くないからじゃなくて、この脚本やマック・セネットの自伝本を読んでフィルターを通しちゃったから。どうしても『これ本気で、命懸けでやってたんだ』と考えると、笑えるところでも息を飲む瞬間、という方になっちゃうんですよ。たとえば山から岩が転がってきて『うわー!』みたいなシーンで、それは本物の岩ではないんだけど、当時の技術で岩を大きくしていく過程で何十キロにもなっていて。そんなものが後ろから転がってきて、当たりでもしたら本当に死んでしまいかねないんですよ。だから、演技であって演技ではないという迫真のナチュラルさがそこにはあって。『それが当時はお客さんの笑いを誘ってたんだろうな』と冷静に考えたりしました」
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木村がサイレント映画に見た「迫真のナチュラルさ」は、役者としての木村が演技に追い求め続けていることでもある。今回、“動”より“静”のキャラクターであるビリー役は、大劇場でやるミュージカルよりそれを実現しやすい役なのではないか。
「そこに関して、この作品を通して自分が行き着きたいところが見え隠れし始めたところなんです。それをいま言うと、『動かない勇気、やらない勇気、やりすぎない勇気』ということなんじゃないかな。やっぱり何かしゃべっていると、何もしないでいるのが怖くなって動くんですよね。だからそれをしない、『動かない勇気』なのかなって思っていて。もちろん場合によっては動かなきゃいけない瞬間っていうのもたくさんあるし、アクションを起こさなきゃいけないときもあって、つねにリアクションだけというわけではない。でも、『間が埋まってないな』という怖さで動いちゃうことはなくしたいんです。題材もサイレント・コメディなので、映画のなかではみんなコミカルに動いていますけど、彼らはしゃべらない勇気を取ったじゃないか(笑)。じゃあ、木村達成自身が何を取るかと言ったら『動かない勇気、やりすぎない勇気』なのかな、と」
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野球少年から一転して俳優を目指し、ミュージカル「テニスの王子様」の海堂薫役でデビューした木村は、ここ数年でめざましい進歩を遂げてきた。「ウエスト・サイド・ストーリー」のリフ役が、開幕直前に公演中止となって見られなかったのは悔しいが、その後、強烈な印象を残したのが「ジャック・ザ・リッパー」のダニエル役だ。
「あれは、自分の実力以上の作品にぶち当たったときに、奥歯をガーって噛みしめながら、死ぬ気でやった結果。いま振り返ってみると『キツかったなー』って思えることしかないんです(笑)。でも、高いハードルを与えられたからこそ、ジャンプできた部分も大きかった。全部の作品でそうなんですけどね。作品ごとに、その作品に入る前と終わった後ですごくいろいろ変わっている。いろんな考えが備わって『すごい成長を遂げられたなー』と思える。だから作品が始まる前のインタビューでいろいろ言っていても『たぶん作品が終わったころには考えも変わってくると思うんですけど』って、よく付け足すんですよ(笑)。僕は、子どもでもわかるようなハッピーエンドの映画が好きな、ガキっぽい人間なんですけど、こんな自分でも『全作品で作品ごとにすごい勢いで大人への階段登っていってるな!』って自覚できますから(笑)。これからもっといろんな作品に出会って、木村達成っていう人間をもっと深く、太く、大きく見せられるようになりたいですね。ときに謙虚に、ときにはオーバーな発言をすることもありますけど(笑)」
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「SLAPSTICKS」は、18年後のビリーが、過去の自分を振り返る話であり、ビリーという人間の成長物語でもある。では、もしも将来、18年後の木村達成がいまの自分を振り返るとしたら、18年後の自分にどう思ってほしい?
「いまの自分は、つねに自分の限界をたたき出していると思っています。自分の限界はもちろん決めたくないですけど、『いまできるのはこれ! いまの最大限やってます!』というのはつねに言えるところまで自分を追い込んでやっている。だから『いまのお前にはこれくらいしかできなかっただろうな』と、認めてあげられると思います、絶対に。『もっと行けよ』とは言わないですね。18年後、『行ける限界までは行った、よくやった。だからいまの俺がある』って、ちゃんと思いたい。だから、つねに本気です!」
「KERA CLOSS VOL.4『SLAPSTICKS』」は、2022年2月3日~17日に東京・日比谷シアタークリエで上演される。上記以外に21年12月25日~26日に東京・シアター1010、22年1月8日~10日に大阪・シアターBRAVA、1月14日~16日に福岡・博多座、1月28日に愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホールでも上演。詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/slapsticks/)で確認できる。
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