「マトリックス」との出合い、アジア系俳優の描写――ジェシカ・ヘンウィックが語る「レザレクションズ」
2021年12月25日 13:00
「マトリックス」の新章「マトリックス レザレクションズ」に出演するジェシカ・ヘンウィックが、ニューヨークのSVAシアターで開催された上映会後のQ&Aに登壇。「マトリックス レザレクションズ」(公開中)への思いを語ってくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
「マトリックス」シリーズの生みの親であり、シリーズ全作品を監督しているラナ・ウォシャウスキーがメガホンをとり、ネオ/トーマス・アンダーソン役のキアヌ・リーブスをはじめ、キャリー=アン・モス、ジェイダ・ピンケット・スミス、ランベール・ウィルソン、ダニエル・バーンハードらが続投。ヘンウィックは、伝説の救世主ネオを崇拝するバッグス役を演じている。
まず明かしてくれたのは「マトリックス」との“出合い”。初めての鑑賞体験は、海賊版のDVDだったようだ。
「『マトリックス』公開当時は、私はまだ7歳。劇場で見ることができなかったんです。マレーシアに住んでいた12、3歳の頃には『マトリックス リローデッド』が公開されていました。インタビューの場では『海賊版DVDで見た』とは言いたくなかったから『VHSテープを見つけた』と言ってきましたが、実際はストリート・マーケットで車のトランクに積まれているものを購入したんです。その海賊版には『マトリックス』の写真が貼られていて、当時(同作は)ポップカルチャーとして流行っていたから、すぐに気づきました。年齢的には、まだひとりで見てはいけなかったんですけど……結局見てしまいました(笑)。当時、すごく怖かったことを覚えています。(『マトリックス』におけるアンダーソンが尋問されるシーンの)唇が閉ざされて話せなくなるシーンはとても怖かったし、(虫の形をした)ロボットが這うようにしてへその開口部に入っていく光景は悪夢だった。それは、ずいぶん長い間、私の心に留まっていました」
「マトリックス レザレクションズ」はコロナによるパンデミック以前から撮影がスタートし、一時中断を経て、再撮影が行われている。
「初めて感染者が現れた時、私たちはサンフランシスコで撮影を行っていて、政府がロックダウンを行う2日前に撮影が中止になったんです。それからドイツのベルリンに行き、政府がロックダウンをする前に、1週間分の撮影を敢行しました。その後、スタッフと俳優全員は、3カ月間も自宅で待機。ようやく撮影が再開し、最後まで撮り終えることができたんです。本作は(スタジオ映画の中でも)パンデミックのギリギリまで撮影を進め、パンデミックの最中、最初に撮影現場に戻った映画なんです。ある意味、パンデミックの状況下で撮影するための詳細な計画を、これから作品を手掛けることになる他の映画人たちに示すことができたと思います」
すぐに撮影現場に戻ってくることができたのは、非常に喜ばしい事だ。しかし、撮影をするうえでの「保険」は、きちんと機能していたのだろうか。
「実は、撮影現場の人々全員に選択の余地があったんです。俳優全員は撮影に対して「YES」と答えましたが、何人かのクルーは離れていきました。撮影監督は、ジョン・トールでしたが、パンデミックのブレイク後、彼が戻ってくることはありませんでした。基本的に小さなグループで撮影を進め、現場ではそれぞれが色をわけたストラップを着用していました。そして特定の色の人々とは、現場で密接しないようにしていたんです。やがて滞在場所に戻るわけですが、その後は何もできませんでした。外出することもできません。キャスト、クルーと親交を深めるくらいでしたけど、それも感染しないようにマスクしながらの“限られた時間”でした。だから、一種の孤立を感じたこともありました」
テレビシリーズ「Marvel アイアン・フィスト」「ゲーム・オブ・スローンズ」などでアクションの経験はあったものの、「マトリックス」の戦闘シーンには特別な思い入れがあったそう。「伝統的な戦闘の形式に囚われていないこと」に魅力を感じていたそうだ。戦闘シーンの多い役どころを引き受けてから、最初に行ったのは「身体能力のテスト」だった。
「ロサンゼルス空港近くの倉庫で、戦闘の振付を担当するチャド・スタエルスキに会いました。彼は今や『ジョン・ウィック』の監督として知られていますが、『マトリックス』ではキアヌのスタントダブルを担当していました。それ自体がクレイジーなストーリーですよね。彼はその倉庫で、私のパンチやキックが“いかに届くか(=相手に打撃を与えるか)”を見ていました。次に利き手、利き足ではないバージョン、逆回転での動作を行うことで、基本的な戦闘スタイルをを評価してもらいました。すると、彼は『直感的に、速く、緊張感のある戦闘スタイルをやるべきだ』と言ってくれて、私たちはそのスタイルを訓練することになったんです」
下準備は万全だったが、撮影現場では予想だにしない出来事も経験した。
「ラナ監督は、セットに来る前に物事を決めておくことを好まないタイプです。ですから、撮影当日に戦闘シーンを書き換えることも多々ありました。この映画のために、ある戦闘スタイルを3カ月間、別の戦闘スタイルも2カ月間学びましたが、セットでは急に『ここでキックボクシングをやってみたら?』と言われたこともありました。幸運にもキックボクシングができたので良かったけれど、気まぐれで全てが変わってしまう感じ。正直なところ、肉体的ではなく、精神的に最も困難な撮影になったと思います」
話題は、本作を含めた「ハリウッドのアジア系俳優の描写の変化」に転じた。「このトピックは、キアヌ(祖母が中国系のハワイアン)には持ちかけなかったけれど……すべきでしたね。彼がどう思っているのか、興味があります。彼は物静かで、プライベートな人物だから」と後悔を吐露した後、オーディションについて振り返った。
「本作のオーディションは、全ての人種を受け入れていました。通常のハリウッド映画であれば、主演がアジアにルーツを持つ人物であれば、おそらく、新たに別のアジア系俳優をオーディションで雇うことはないと思います。常にアジア系俳優は1役……そんなメンタリティが私に植え付けられていました。もっとも、ラナ監督はそんなことを何も気にしていませんでした。私以外にもプリヤンカー・チョープラー(インド出身)も出演していますよね。もともと『マトリックス』は、公開当時から時代を先取りしていて、多様性のある映画でした。ラナ監督はその頃から、常に前向きに物事を考えていたと思います。あの頃、ウィル・スミスがオーディションを受けていましたけど、ネオ役としての出演を断ったのはクレイジーだと思いません? 彼が出演していたら、全く別の映画になっていたはずです」
「モーフィアス役だって、当初は……誰でしたっけ。忘れてしまいました……」とヘンウィックが呟くと、ある観客が「バル・キルマーだ!」と叫んだ。するとヘンウィックは「そう、ウィル・スミスとバル・キルマーだったら、全く異なる映画になっていました。彼らを尊敬していないわけではないのですが、別の映画になっていたはず。だからこそ、そんな多様性と歴史のあるシリーズに参加できたことが本当に良かったんです」と振り返っていた。
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