フィリピンのスラムに辿り着いた“困窮邦人”たちの人生とは ドキュメンタリー「なれのはて」予告
2021年11月12日 12:00
第3回東京ドキュメンタリー映画祭で長編部門のグランプリと観客賞をダブル受賞した、フィリピン・マニラのスラムで生きる高齢の日本人男性たちを追ったドキュメンタリー「なれのはて」の予告編が披露された。“困窮邦人”と呼ばれる彼らが、全てを捨ててマニラにやってきた過去を振り返り、いまの思いを語っている。
本作の題材は、マニラの貧困地区、路地の奥でひっそりと暮らす、“困窮邦人”と呼ばれる高齢の日本人男性たち。彼らは周囲の助けを借りながら、わずかな日銭を稼ぎ、細々と毎日を過ごしている。警察官、暴力団員、証券会社員、トラック運転手……かつては日本で職に就き、家族がいるにも関わらず、何らかの理由で帰国しないまま、そこで人生の最後となるであろう日々を送っている。「20世紀ノスタルジア」(1997)、「ストロベリーショートケイクス」(06)などで助監督を務めた粂田剛監督が、マニラの地で寄る辺なく暮らす4人の姿を、7年間の歳月をかけてカメラにおさめた。
予告編の冒頭では、元暴力団の谷口俊比古さんが、フィリピンに身を隠すことになった“ある事件”について問われ、「はっきり言ってそんなのが表沙汰になったら、ヒットマンが飛んでくるよ」と、詳細を口にできない理由を明かす。フィリピン人の妻子と仲むつまじく暮らす元トラック運転手の平山敏春さんは、日本の家族を捨ててフィリピンにやってきた。新しい家庭を築いた平山さんは、「日本のことを考えるのはやめようと。考えても仕方がない」と、自身に言い聞かせるように話している。
暗い牢獄を思わせる、コンクリートむき出しの小部屋に住む嶋村正さんは、元警察官。フィリピンで厳しい余生を過ごすことになった嶋村さんに、「不思議な人生ですね」と声をかけると、「戻れるものなら、戻りたいね」と、後悔をにじませる。元証券マンで、フィリピンにハマり居ついてしまった安岡一生さんは、内縁の妻クリスティと暮らしている。日本にいる子どもたちについては、「(フィリピンに来てから)話もしたことがないな、全然。別れた女房とも全然、一度も(連絡をとっていない)」と、遠い目で語る。4人が抱える事情や、それぞれの人生模様を垣間見ることができる映像となった。
世界の危険地帯を取材する、ジャーナリストの丸山ゴンザレスは、「『豊かな青春、惨めな老後』。かつてのバックパッカーには有名なこの言葉を思い出した。自分の“なれのはて”が惨めなのか、幸せなのか、これまでの選択と、これからのルートを今の日本社会を生きる身として特に思わずにはいられない」とコメントを寄せている。
「なれのはて」は、12月18日から東京・新宿K's cinemaほか全国で順次公開。
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