吉田恵輔監督、特集上映を締めくくり「幸せな3日。これが俺のピーク」
2021年11月7日 13:00
第34回東京国際映画祭「Nippon Cinema Now人間の心理をえぐる鬼才 吉田恵輔」で最新監督作「空白」が11月6日、東京・日比谷のTOHOシネマズ シャンテで上映され、吉田恵輔監督がティーチインを行った。
本作は万引きがスーパーの店長に見つかり、追いかけられた末に車にひかれた娘の父親(古田新太)が、店長(松坂桃李)を激しく追及し、モンスターと化していく姿を描く。20年前に起こった実際の事件からインスパイアを受けた。
3日間に渡る特集上映の最終日。吉田監督はのっけから「幸せな3日間でした。これが俺のピーク。後は落ちていくだけなので、見届けてくれれば、と思います」とジョーク混じりで舌好調。「唯一の友達というか、相方のようなやつが亡くなって、1年くらいモヤモヤとしていた。急に大事な人がなくなった人たちはどうやって折り合いをつけているのか。折り合いがつかない人の話を書いて、折り合いをつけようと思った。それと、20年前に万引した少年が警察官から逃げて、電車にひかれてしまった事件が合わさり、書いているうちにテーマが増え、登場人物が増えていった」と明かす。
題名同様、物語には書かれていない“空白”もあるが、「世の中は答えが分かるものが多くない。それが分断の原因になっている。相手側の気持ちになって考えたら、言い方も変わるんじゃないかな。想像力を大事に生きないと世の中は大変なことになるというメッセージを込めた」と語った。
観客から「昼間の食堂で大事なシーンがあるが、意図は?」と聞かれると、「大事なことを夜の居酒屋で話すことにしている。ジョン・ウーは鳩を飛ばすが、自分は居酒屋。今回も夜にしたかったが、(娘の)納骨の後だったので、昼間の時間帯になった。今後の映画も居酒屋のシーンに注目してほしい。遮光できるし、通行人が通ることもなく、撮りやすい。カット割りはほぼ一緒に撮ることにしています」と話した。
ラストシーンのライティングについては「地図を見て、光が差す方向を計算して、ライティングした。ずっと天気がよかったが、後半はハレーションを切っていない場面は生かしている。簡単なテクニックなので、ほかの監督はパクらないでね(笑)。しゃべられなきゃよかった、と思いました」とマル秘テクも披露。
「キャストが素晴らしかった。監督から見て、素晴らしいシーンは?」との質問には「松坂さんと(おせっかいなアルバイト店員役の)寺島(しのぶ)さんのキスシーンが大好き。あまりに熱量と芝居がすごいので、2回目は撮れないなと思い、ワンカットで撮った。古田さんは全部すごい。お葬式のシーンで片岡(礼子)さんがハマってしまって何度か撮り直したが、古田さんは肩しか映っていないのに、涙目になりながら毎回全力で演じて、サポートする姿が印象に残っている」と振り返った。
20カ月ぶりに映画を見たという英語圏の外国人からは「パワフルで感動的な作品。マスコミ、学校のシステムについて思っていることは?」と問われると、「すべてが悪いと思っていないが、今回はその部分を抽出して描いています。個人的な話だが、高校で留年している。お前が嫌いだから赤点と言われ、いまだに教師への憎悪が消えていない。上野のバイク街でマスコミの取材を受けた時には、バイクの盗難について『盗難予防していない人も考えが甘い』と言ったら、そこだけ切り取られ、バイク泥棒として紹介されました」。
「空白」は何度か見ると、見方が変わる作品だといい、「さっきはピークだと言いましたが、未発表の来年公開作品があるので、見ていただきたい。それで、結構、落ちたな、落ちてないなと確認してもらえれば」と締めくくった。
第34回東京国際映画祭は、11月8日まで、日比谷、有楽町、銀座地区で開催中。
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