教え子にクロエ・ジャオ アレクサンダー・ロックウェル監督が伝えるインディーズ魂
2021年10月30日 07:00
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「イン・ザ・スープ」「フォー・ルームス」など米インディーズ界のカリスマとして一世を風靡したアレクサンダー・ロックウェルの「スウィート・シング」が公開された。頼る大人をなくした姉弟の悲しくも希望に満ちた旅路を、16ミリフィルム撮影による美しいモノクロ&パートカラー映像で描いたファンタジーだ。監督の実子が主人公の姉弟を演じている。ロックウェル監督が、2020年第70回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門で最優秀作品賞を受賞し、25年ぶりの日本劇場公開作となる本作について語った。
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少し前からお話すると、「フォー・ルームス」の頃から僕はロサンジェルスに移り、何本かそこで作ったのですが、次第にハリウッドをベースにした映画制作に行き詰まりを感じるようになりました。当時は、映画を撮る自由もお金もない状態だったんです。そこで、僕自身が、僕の映画に一番存在してほしいと思うものを、自分の資金で撮ってみようと考えました。それで作ったのが、僕のふたりの子供、ラナとニコを主役にした、「スウィート・シング」の映画の前身に当たる「Little Feet」という60分の映画です。
その映画を作ったことで、僕はまたニューヨークに戻ることに決めました。そして、ニューヨークに戻ったあと、ラナが「また映画を撮るべきよ」と言ったんです。それがきっかけで、「Little Feet」の次のステージを撮るのはどうだろうと考え始めました。「Little Feet」ではまだ子供たちも小さくて、彼らの詩に満ちた毎日をスケッチしたわけですが、「スウィート・シング」では子供たちの世界が大人の世界と衝突し、摩擦を起こします。親たちは困難に直面して苦しんでいて、子供たちは自分で自分の道を切り開かなくてはならない。彼らは自分たちの心と詩を守るために逃走する。そんな映画です。
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今では良質な白黒フィルムがもうないので、カラーフィルムで撮って、後から彩度を落とし、コントラストを上げるやり方が一番気に入っています。カラーの映画は、僕にとっては情報が多すぎるというか、惑わす要素が多すぎるんですね。モノクロ映画にある純粋さが、映画に夢やマジックをもたらしてくれるんです。
ところが今回、偶然、色を抜く前のカラーのフィルムを見てしまったんです(笑)! それは、バスルームの中でビリー(ラナ)が夢の中のビリー・ホリディに出会うシーンなんですが、その色彩の美しさを否定できませんでした。まるで命が爆発するような感覚だったんです。「こういう命の爆発を、ラナが海に潜るときや、ビリーと一緒にいるときに入れたら、ほとばしる感情を祝福するようなシーンになるんじゃないかい」と感じたんです。
キックスターターというクラウドファンディングを使いました。90年代には、今よりもインディーズ作品の制作資金は集めやすかったんです。「イン・ザ・スープ」は僕の実体験も入っていて色々なトラブルはあるものの、監督に全てを預けて出資してくれる人たちがいました。「イン・ザ・スープ」はそうした理解ある日本人のプロデューサーのおかげでできました。ところが今は、小さな制作費の映画でも市場価値を考えなくてはならず、少しの資金でも集めるのは難しくなっています。ハル・ハートリーもそう言っていますね。
それで、映画づくりの自由を守りながら、制作費を集める方法として、クラウドファンディングを選んだわけです。500人に及ぶ出資者が集まり、金額はまちまちですが高額な人は10,000ドルも出資してくれました。キックスターターのキャンペーンにはウィル・パットンやサム・ロックウェル、ジェニファー・ビールスといった「イン・ザ・スープ」の頃からの友人たちが協力してくれて、それでたくさんの人がこの映画について知ってくれたことも大きかったですね。
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あまり政治的なことは言いたくないのですが……。今、映画界を支配している人たちが何を優先的に考えるかというと、「最低限の労力でいかに最大限のお金を生み出せるか」という点です。つまり「商業製品」を作ろうとしている、そんな世界になっていますね。
僕らが“インディーズ作家”として映画を作っていた頃は、まるでロックンロールのようにワーッと叫び声を上げて歓喜に浸りながらやっていました。今の時代はどうなっているかというと、大多数の映像作家たちが「あれは言っちゃダメ」とか「これじゃ予算的にムリ」とか「これは誰かの気分を害することになるからダメ」とか考えて、作家たちの声に蓋をかぶせているような状態になっています。そんな中で、「スウィート・シング」のような作品は、歓喜が爆発していて、叫び声をあげていて、泥んこになりながらもその喜びを祝福している、そういう映画になっていると感じています。
今は確かに難しい時代ですが、その中にも希望はあると思っています。歴史にはサイクルがあります。例えば、70年代にデニス・ホッパーが「イージー★ライダー」を作る前の時代は、映画界は大作ばかりでした。そこからインディーズの時代が始まったわけです。僕らは今、「現代の大作」が支配する時代のただなかにいますが、歴史のサイクルで、「もっとパーソナルでシンプルな物語が見たい」という人たちが増えてくると思うんです。クロエ・ジャオなど僕の教え子たちにも、自分の愛するものを作ることへの情熱が、きっと感染しているのではないかと思いたいですね。
この映画を観て、楽しさを感じて帰っていってほしい。暗い部屋の中の少しの裂け目のようなものであっても、光を感じてほしい。僕たちが生きているのはコロナの時代であり、国を動かす人が恐ろしいショーを繰り広げている時代です。この映画はそんな闇の中の一筋の光であり、そこでは自由と愛が息づいています。人々が孤立している時代の中で、特にラナの世代の若い人たちは、人と交流したり一緒にいたりすることに困難を感じているでしょう。そうした子供たちが愛しあい、一緒に輝いているところを見るのは素晴らしいことではないでしょうか。
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