【「MONOS 猿と呼ばれし者たち」評論】集団と暴力をめぐる埋もれた記憶を顕在化させる、圧倒的な“共振力”
2021年10月24日 18:00
圧倒的な共振力を備えた衝撃作だ。雲海が眼下に広がる高地などの光景が醸し出す異界感。登場人物を介して視点を緩やかに移す叙述法で没入感を増すドラマ。オーガニックな楽器音とノイジーな合成音を精妙に配置したサウンドトラック。これらの要素が手練れの演出により共鳴し合って交響曲のごとき荘厳な世界を構築し、その重層的な響きが観客の深い部分を揺さぶって共振させるのだ。
アンデスの4000m超の高地で集団生活を送る十代のゲリラ兵8人、通称モノス(猿)。組織上部との連絡係である“メッセンジャー”が時折赴いて彼らを厳しく訓練する。モノスは米国人女性の人質“博士”を託されてもいる。15歳になった“ランボー”を祝うシーンが象徴するように、若者にとって遊びと暴力は隣り合わせだ。支給されたアサルトライフルを玩具のように無駄撃ちする(それが悲劇の引き金にもなる)。
物語は南米のコロンビアで1964年から半世紀続いた内戦を下敷きとする。ただし、そうした歴史的背景を知らなくても鑑賞にはほぼ支障がない。ブラジルに生まれ米国で報道と映像制作のキャリアを積み、本作が長編劇映画2作目となる監督のアレハンドロ・ランデスは、国や世代を超え多様な観客に響く仕掛けをいくつも施した。監督はウィリアム・ゴールディングの小説「蠅の王」へのオマージュを公言しているが、隔絶された若い集団の中で暴力が支配的な力になるという展開も近い。変容した兵士らがボディペイントでカモフラージュして標的に迫るシーンは「地獄の黙示録」を思わせもする。
「2001年宇宙の旅」を想起させる要素も。スペイン語のmonoは「猿」のほかに「単一の」という意味もあるが、セメント鉱山の名残だという巨大建造物が山頂近くに屹立する様はまさにモノリスのよう。かのスタンリー・キューブリックの傑作は、猿人が放り上げた骨が人工衛星に変わるマッチカットでも有名だが、本作にも、高地のゲリラ拠点内にいた博士が出口の覆いを開けるとジャングルに移っているという鮮やかなマッチカットがある。
観客の目となる登場人物の視点を緩やかに切り替えていく叙述のスタイルも効果的だ。モノスの隊長と付き合う“レディ”、独裁的な傾向を強める“ビッグフット”、脱出を試みる博士、ある決断をするランボーといった具合に、シークエンスで主体となるキャラクターが移り変わり、各人物への同化を促すかのよう。それにより喚起されるのは、観客自身の体験と創作物で見聞きした情報が混然一体となった“集団と暴力”をめぐる古い記憶を、夢を見ながら思い出して追体験する、震えるような感覚だ。「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」でも音楽を担当したミカ・レヴィによる、瓶に息を吹き込んだホイッスル音や雷鳴のようなティンパニの連打といった自然に近い音と、電気的に合成し加工した人工音を組み合わせたスコアも、そうした埋もれた記憶の顕在化が生み出す共振に一役買っている。
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