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ソ連崩壊から30年、欧州・中東・アジアの歴史・文化が交わる“多様性のるつぼ”「中央アジア今昔映画祭」12月開催

2021年10月24日 16:00

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中央アジアを俯瞰する、温故知新のシネマトリップ
中央アジアを俯瞰する、温故知新のシネマトリップ

全国のミニシアター6館(ユーロスペース、横浜シネマリン、名古屋シネマテーク、出町座、第七藝術劇場、元町映画館)で「中央アジア今昔映画祭」が、12月に開催される。今年12月はソビエト連邦崩壊から30年。この節目に、ソ連から独立した5カ国と、これらの国と深いつながりを持つアフガニスタンを加えた6つの国の新旧9作品8プログラムを一挙上映する。

中央アジアはユーラシア大陸中央部の内陸地域で、カザフスタン、キルギス(クルグズスタン)、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンの5カ国から成る。中国の新疆ウイグル自治区とは不可分の関係にあり、タタルスタンやバシコルスタンといったロシアのムスリム地域、アフガニスタンとも非常に深いつながりを持っている。東アジアと西のイスラーム・西欧世界の交点にあった中央アジアは、テュルク系遊牧集団による征服やイスラーム化といった歴史を経て、複雑に文化が交わる場所として長い道のりを歩んできた。20世紀は長くソビエト連邦の支配下にあって社会主義体制をとってきたが、1991年のソ連崩壊と前後して5カ国が独立国となり、以後、国際社会での存在感を増している。古くから“多様性のるつぼ”として存在し、社会主義体制の導入と崩壊によってさらに大きな変化を遂げた中央アジア。独立から30年という節目を迎え、その唯一無二の道のりと変幻自在の世界観を映画で追る試みだ。

ラインナップのうち5作品は日本初公開、1作品は日本劇場初公開で、中央アジアの巨匠バフティヤル・フドイナザーロフのデビュー作「少年、機関車に乗る」と遺作「海を待ちながら」、本国トルクメニスタンで上映禁止となった幻の傑作「黄色い雄牛の夜」、希少な中央アジア製ミュージカルコメディ「テュベテイカをかぶった天使」、カンヌ国際映画祭女優賞受賞作「アイカ」などバラエティ豊かな作品群が揃っている。

▼「中央アジア今昔映画祭」 上映作品ラインナップ
■「テュベテイカをかぶった天使」※日本初公開
監督・脚本:シャケン・アイマノフ 脚本:ヤコフ・ジスキント
出演:アミナ・ウルムザコワ、アリムガズィ・ラインベコフ、ビビグリ・トゥレゲノワ
ソ連/1968年/カザフ語、ロシア語/カラー/88分
カザフ映画の父と称されるS・アイマノフの代表作の1本。中央アジアの風景とソビエト建築が並ぶ大都市アルマティを舞台にした、貴重な中央アジア製ミュージカル。当時のファッションやダンス・ミュージックも見どころ。
〈story〉地理の教師テイラクは、親切で思いやりがあり、常に伝統的な帽子テュベテイカを手放さないことから、皆に「テュベテイカの天使」と呼ばれている。ある日、母親が彼に会いに田舎からアルマティにやって来る。コスモポリタンな大都会に圧倒されつつも、彼女は息子の花嫁を探すために大胆な行動を開始するが…。
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■「ジャミリャー」※日本初公開
監督:イリーナ・ポプラフスカヤ 脚本:チンギス・アイトマートフ
出演:ナタリヤ・アリンバサロワ、スイメンクル・チョクモロフ、ナレーション:チンギス・アイトマートフ
ソ連/1969年/ロシア語、キルギス語/モノクロ+カラー/78分
原作はキルギスの世界的文豪・アイトマートフの「この星でいちばん美しい愛の物語」。雄大な自然を背景に、迫力の乗馬シーンや野心的な演出を随所に盛り込んだメロドラマ。「キルギスの奇跡」と呼ばれる黄金時代の幕開けを予告する1本。
〈story〉出征した夫を待つジャミリャーは、夫の弟である少年セイトたちと暮らしている。彼女のことが大好きなセイトは、男達が近づくと割って入り邪魔をする。彼女は悲しみと孤独に苦悩しつつも明るく振舞っていたが、村に負傷兵ダニヤルが現れ、心が揺れはじめる。やがて二人の魂は結びついていき…。
■「少年、機関車に乗る
監督・脚本:バフティヤル・フドイナザーロフ 脚本:レオニード・マフカモフ
出演:ティムール・トゥルスノフ、フィルス・サブザリエフ、ナビ・ベクムラドフ
ソ連/1991年/ロシア語、タジク語/モノクロ/100分
作品提供:ユーロスペース
中央アジアの大平原を舞台に機関車で旅する兄弟の珍道中。ユーモラスな詩情にあふれたレール・ロードムービの最高傑作。タジキスタンが誇る巨匠、バフティヤル・フドイナザーロフ(「ルナ・パパ」)のデビュー作。
〈story〉仲間と悪さをして過ごす17歳のファルーと、土を食べる癖を持つ7歳のアザマットの兄弟は、祖母と3人暮らし。兄弟はある日、遠くに住む父親に会うため機関車に乗って旅に出る。トラックとの競争や、ポットをたくさん持った変なおじさんの出現、悪ガキの襲撃などなど、機関車はハプニングに遭遇しながらもガタゴトと走っていく。
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■「黄色い雄牛の夜」※日本初公開
監督:ムラド・アリエフ 脚本:ブラート・マンスーロフ、アシルムラド・マミリエフ
出演:マクサト・ポラトフ、アクゴゼル・ヌリィエワ、タチマメド・マメドヴェリエフ
トルクメニスタン、ロシア/1996年/ロシア語、トルクメン語/カラー/121分
カンヌ国際映画祭のコンペ候補となるも、本国トルクメニスタンで上映禁止処分を受け、お蔵入りとなった幻の傑作。首都アシガバートの人口3分の2が犠牲になった1948年の地震とその時代を回想した、壮大な愛の群像劇。
〈story〉少年セルダルは優しい母や兄弟と幸せに暮らしている。音楽の才あるヌリィや家族同然のアルダルなど友達にも恵まれ、学校で問題が起きれば、人格者のチャパイ校長が上手く取りなしてくれる。だが時はスターリン政権下。ある日、不穏分子として睨まれていた祖父が当局に連行され、皆の尊敬を集めるペルマノフも目をつけられる。そして、運命の時が迫る…。
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■「海を待ちながら」※日本初公開
監督:バフティヤル・フドイナザーロフ 脚本:セルゲイ・アシケナージ
出演:エゴール・ベロエフ、アナスタシア ・ミクリチナ、デトレフ・ブック
ロシア、ベルギー、フランス、カザフスタン、ドイツ、タジキスタン/2012年/ロシア語/カラー/110分
2015年に急逝したフドイナザーロフの遺作。半世紀で10分の1にまで干上がってしまった、カザフスタンとウズベキスタンにまたがる大湖・アラル海を舞台に、彼の中央アジア人としての思いが投影された壮大な夢の物語。
〈story〉船長のマラットはアラル海を航海中に大嵐に遭遇し、妻や仲間を失い、一人生き残った。心に傷を負った彼はある決意を胸に、今では干上がってしまった海に戻り、荒野に佇む自分の船と対面する。そして船を引きずって水のない海を横断する無謀な旅に出る。贖罪を求め彷徨うマラットはどこに行き着くのか。
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■「40日間の沈黙
監督・脚本:サオダート・イスマイロワ 脚本:ウルグベク・サディコフ
出演:ルシャナ・サディコワ、バロハド・シャクロワ、サオダート・ラフミノワ
ウズベキスタン、オランダ、ドイツ、フランス/2014年/タジク語、アラビア語/カラー/88分
中央アジアで人生の節目に行われる儀式、40日間の沈黙の誓いを通して描かれる、伝統と今、幻想と現実が交錯する世界。ウズベキスタンの気鋭の映像作家が美しく瞑想的な映像で紡ぐ、女性達の内なる闘いの物語。
〈story〉山奥の孤立した村。ビビチャは「沈黙の誓い」を立てるため祖母の家に身を寄せる。家には叔母の幼い娘が同居しており、街からは叔母が出戻ってくる。そうして葛藤を抱えた四世代の女性が一つ屋根の下に住むことに。過去に縛られ、今は恐怖や疑いに苦悩するビビチャ。彼女は沈黙の旅の末に何を見つけるのか。
■「彼女の権利」※日本初公開
監督:サオダート・イスマイロワ
ウズベキスタン/2020年/モノクロ+カラー/15分
1920年代から1980年代にかけてウズベキスタンで撮影された映画に映る女性たちをコラージュして作成された短編作品。スターリン政権下の同国で新しい労働力を生み出すために行われた女性解放運動「フジュム」を中心に構成された、イスラーム教徒の女性の歴史を見つめる15分。(「40日間の沈黙」と同時上映)
■「アイカ
監督・脚本:セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ 脚本:ゲンナージイ・オストロフスキー
出演:サマル・エスリャモワ、ジィパルグリ・アブディラエワ、セルゲイ・マズル
ロシア、ドイツ、ポーランド、カザフスタン、中国、フランス/2018年/ロシア語、キルギス語/カラー/114分
作品提供:キノフィルムズ
第71回カンヌ国際映画祭女優賞、第19回東京フィルメックス最優秀作品賞。手持ちカメラの臨場感ある映像で描かれる一人の女性の現実。2000年代以降にロシアで急増した中央アジア移民労働者の実態をリアルに映し出した緊迫のドラマ。
〈story〉25歳のキルギス人女性アイカは、モスクワの病院で出産するが、生まれたばかりの子供を残して病院から姿を消す。借金を抱える彼女は職を得ようとするが、ロシアでの労働許可の期限は既に切れており、まともな仕事に就くことができない。やがて、借金取りに返済を迫られた彼女は、ある決断をする。
■「カーブルの孤児院」※日本劇場初公開
監督・脚本:シャフルバヌ・サダト
出演:クドラトラ・カディリ、セディカ・ラスリ、マシフラ・フェラージ
デンマーク、フランス、ルクセンブルク、アフガニスタン/2019年/ダリー語、ロシア語、ヒンディー語、ウルドゥー語/カラー/90分
1991年生まれのアフガン人監督が描く、思春期の少年達の群像劇。今に続くアフガニスタンの諸問題が見える。ボリウッド映画を踏襲したミュージカルシーンや、中央アジアの文化要素が入ったシーンなど、アジアの交差点の特色も映える。
〈story〉1989年、長年にわたって軍事介入していたソ連軍の撤退が迫る中、街の映画館は相変わらず賑わっている。インド映画が大好きなクドラットは学校にも行かずダフ屋をしていたところを捕まり、孤児院に入れられる。そこには不良もいるが、理解ある教師がいて、親友もでき、モスクワにも行ける。だが、国には新たな混乱が訪れようとしていた。
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