【「燃えよ剣」評論】岡田准一以上の適任者はいないと感じさせる土方歳三の生き様
2021年10月10日 12:00

激動の幕末で、たった6年間しか存在しなかった「新選組」がどのような末路をたどったのか、歴史ファンならずとも多くの人が知っているはずだ。司馬遼太郎の傑作小説を原田眞人監督のメガホンで映画化する「燃えよ剣」は、徳川幕府が大政奉還により朝廷へ政権を移譲するなか、最強の剣客集団を作り上げ、最後まで戦い抜いた新選組副長・土方歳三の生き様を描いているが、一貫しているのはバラガキ(ならず者)と呼ばれていた頃から、「剣に生きる」ことに対してどこまでも誠実であり続けたということだ。
これまでに、土方を演じてきた俳優は数多くいる。栗塚旭(「燃えよ剣」1966年の映画版と70年のドラマ版)を筆頭に、ビートたけし、山本耕史、渡哲也、地井武男、近藤正臣、中井貴一、役所広司……。それぞれの作品で多くのファンを唸らせ、楽しませてきたが、今作で土方に息吹を注いだ岡田准一は次元の異なる高みへ到達したのではないだろうか。
武州多摩の農家出身だった土方は、バラガキと呼ばれながら武士になることを夢見て剣の道を追い求め、武士よりも武士らしく筋を通す生き方を貫いた。洗練とはかけ離れた足運び、身の丈に合わない刀を欲して姉夫婦に資金をねだる言わば覚醒前の「トシ」時代から、戦いに疲れ、虚しさを感じながら我が身を奮い立たせ、箱館で壮絶な死を遂げるまでを見るにつけ、土方を生き切ることが出来るのは、原田監督に「超一流の武芸者が俳優のふりをしているような人」と言わしめた岡田以上の適任者はいないとすら感じさせる。それほどまでに、剣技の構築と指導も担った岡田の役割は大きく、原田監督が求めるものを具現化してみせたと言っていい。
原作の愛読者であれば、新選組内に漂う男色の気配が後に内部崩壊を招いていくさまが余すところなく描かれていることこそ「是」とするかもしれない。その実、大島渚監督は司馬の短編集「新選組血風録」収録の「前髪の惣三郎」と「三条磧乱刃」を原作に映画化した遺作「御法度」では、男色の視点で艶やかに描いている。だが原田監督は今作ではその要素を極力排除し、土方を介して「剣に生きる」という眼差しを注ぐことで、「生き抜く誠」を表現してみせた。観る者も、そんなことは些末な問題だということをスクリーン全体から浴びるように感じ取ることになるだろう。
それもこれも、岡田をはじめとするキャスト陣が役を生き切ったからこそだが、なかでも伊藤英明が芹沢鴨を魅惑的に体現している。劇中のセリフ「俺は桜田門外で死ぬはずだった」が印象的で、死にきれなかったからこそ酒と女性に逃げ、ついに訪れた儚さが滲む散り際は見事で、爛々と輝いてさえ見えた。
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