クーデター後に新自由主義の実験の場となったチリの現状を山と共に語る「夢のアンデス」パトリシオ・グスマンに聞く
2021年10月10日 08:00
南米ドキュメンタリー映画の巨匠パトリシオ・グスマンがチリ弾圧の歴史を描いた「光のノスタルジア」「真珠のボタン」に続く、3部作の最終章で、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞とインディペンデント批評家賞をダブル受賞したドキュメンタリー「夢のアンデス」が公開された。アジェンデ時代の歴史、そしてクーデター後に新自由主義の実験の場となってしまったチリの現状を、人々のインタビューとアンデスの山とともに見つめる本作をグスマンが語った。
1973年9月11日、世界で初めて選挙によって選出されたサルバドール・アジェンデの社会主義政権を、米国CIAの支援のもと、アウグスト・ピノチェトの指揮する軍部が武力で覆した。ピノチェト政権は左派を根こそぎ投獄し、3000人を超える市民が虐殺された。グスマン監督もドキュメンタリー映画「チリの闘い」撮影後に政治犯として連行されるが釈放され、フィルムを守るためパリへ亡命した。
君の指摘は正しいよ、詩的な感じはないね。確かに前作に比べれば直接的だ。比喩的な表現も少ない。なぜそんな選択をしたのか自分でも分からないんだ。(取材対象である)主人公たちから話を聞き始めても、彼らは山脈から実質的な刺激を受けておらず、もっと直接的なものだった。そこで私も関わり方を直接的にしようと思ったんだ。
どんなドキュメンタリーを撮るときでも、誰が主役になるかは分からないんだよ。彼らは段階的に登場するわけだが、パブロは人格者だった。そして彼こそが驚くようなテーマになると確信した。また彼が重要人物だったのは驚くような映像素材を持っていたからでもある。そこで映画は自然に方向転換した。これはどのドキュメンタリーでも起きることだよ。ドキュメンタリーの結末なんてわからないもので、現実に導かれるものなんだ。
プロデューサーのレナーテ・ザクセ:チリで新しい現象が起きていると思います。例えばホルヘ・バラディトです。彼は比較的若い作家で、チリの歴史についての本を執筆しています。彼も三部作を書いており、その名も「チリの秘められた歴史」というものです。これは非常に興味深いことで、彼がチリの歴史について書いたこれらの本は、ベストセラーとなり、実際、近年で最も売れた本なのです。つまり、彼は歴史について語った人物であり、パトリシオが映画で描いたことを本の形式で同じようにやったのです。実際、国の過去の歴史への興味が新たに生まれているのです。
今だったら、ありえないだろうね。あの手のことをするのは、極めて危険なことだったと思うね。パブロは熟練の技の持ち主で、動き方も熟知していた。だが20年間もの間、毎年映像を撮っていたということは、常に危険がつきまとっていたということだ。大事に至ってないが、彼は2度攻撃を受けている。1度目はペンキを掛けられ、2度目は押されている。でもたいしたことではなかった。彼はどこに身を置き、カメラを構えればいいかということをよく知っていたんだ。あまり語られることのないスキルというもがある。それは何かを前にして自分の体とカメラをどこに置けばいいかと正確に判断する力だ。これは非常に重要なスキルで、学ぶべきものだ。
ええ。いろいろ問題はあるけど、そうだね。