【「トレーニング デイ」公開20周年】イーサン・ホーク、撮影当時のデンゼル・ワシントンは「僕とは別次元にいた」
2021年9月15日 16:00
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デンゼル・ワシントンにアカデミー賞主演男優賞(第74回)をもたらした映画「トレーニング デイ」が“公開20周年”の節目を迎えた。第46回トロント国際映画祭では、公開20周年を記念した特別イベントが開催され、監督のアントワン・フークア、キャストのイーサン・ホークが出席。当時の撮影を振り返った。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
ロサンゼルス市警の麻薬取締課に配属となった新人刑事ジェイクは、ベテラン刑事のアロンソとコンビを組み、麻薬捜査のいろはを教え込まれる。数々の大事件を解決し、麻薬に絡むあらゆることを熟知しているカリスマ刑事アロンソは、ジェイクの手本であり憧れの存在だったが、犯罪摘発のためにはいともたやすく法を犯していた。その姿に戸惑うジェイクをよそに、アロンソの行動はさらにエスカレートしていく。
2001年のベネチア国際映画祭でプレミア上映が行われ、その後「警察を題材とした映画」として高評価を獲得し、大衆文化の一部としても受け入れられた「トレーニング デイ」。公開当時は、ここまでの反響を予想していたのだろうか。
フークア監督「(最初に)それを知ることは難しかった。ある人から『腹を蹴られたような感覚になった』と上映後に伝えられたが、その感想が、気に入ったという意味なのか、それとも気に入らなかったという意味なのかわからなかった。だが、人々がデンゼルやイーサンの演技について語っていることを知って、(作品が)彼らにとって心を打つものであったことが感じ取れたんだ。だから、のちに多くの人々が僕のもとにやって来て、自分の胸の内を吐露してくれるまでは、(高評価だということが)わからなかったよ」
ホーク「当時、ベネチア国際映画祭でのプレミアで、友人のリチャード・リンクレイター監督が『この映画はクラシック作品になるよ』と言ってくれた。当時の僕は『我々に親切な言葉をかけてくれて、なんて良い奴だ』と感じたが、リチャードは『僕は優しさで言っているわけではない。この映画は時間とともに評価が継続されていくだろう。警察を主題としながら、異なった手法で、新しさを提示するのは難しい』と言ってくれた。でも、その時でさえ、僕らは今作に確信を持てなかった」
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当時のフークア監督は、スティービー・ワンダー、プリンス、トニ・ブラクストンらのミュージックビデオ、チョウ・ユンファ主演作「リプレイスメント・キラー」などを手掛けていた。
フークア監督「低収入所得者が住むような地域、ゲットー(スラム街)のようなところで育った僕は、そういう場所をよく熟知していた。でも、あの頃は型にはめられたくなくて、そういうストーリーを(次回作では)あえて避けようとしていた」
ところが、フークア監督のエージェント、デビッド・アンガーが「トレーニング デイ」の脚本を持ち込んだことで映画製作が始動する。その頃、ワシントンは、デビッド・フィンチャー、マイケル・ベイらとともに、ローリング・ストーン誌の「次世代の注目監督」として表紙を飾るフークア監督を見た妻ポーレッタから「この青年に、あなたは会うべき」と助言を受ける。この背景が、ワシントンのキャスティングへとつながったそうだ。
やがて、ワシントンと出会ったホークは、彼の演技に圧倒された。
ホーク「彼は、既に僕とは別次元にいた。それは、マイルス・デイビスの絶頂期、マイケル・ジョーダンの全盛期を見ているようなものだった。僕とフークア監督は、そんな彼について行こうとしているだけだった」
では、撮影前、ワシントンとはどのような関係性を構築していったのか。
「脚本を読んだ段階で、デンゼルが中心となった素晴らしい作品になることがわかっていた。そのうえで、世界観(警察、舞台となった地域)と僕の役柄がどれだけ重要かも把握できた。フークア監督は、撮影初日から終了まで、僕に敬意を払ってくれた。率直に言って、僕にはそんな敬意を払う必要はないと感じていたけどね。でも、フークア監督がデンゼルと同様に扱ってくれたことで、デンゼルと同じような良い俳優として参加することができた。デンゼルとの信頼関係を築くうえで、最も重要なことは良い仕事をすることだった。もし、それが出来ていなかったら、彼は僕を信頼しなかっただろう。なぜなら、彼は一生懸命に働いていたからだ。彼は人よりも思慮深く、想像力もある。おそらく、ほとんどの人が、彼の想像力がどのように機能するのか理解できないだろうが、彼はとても多面的な考えた方ができる人物だ」
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デンゼルの妻ポーレッタは、ホークのキャスティングにも関わっていた。当時、舞台でも活躍していたホークを見て、彼女はワシントンに出演を勧めていた。そのタイミングで、ジェイク役の候補は12人。だが、決め手に欠けていたようだ。ホークにオーディションの電話がかかってきたのは、別の用事で空港に向かう途中のこと。フライトをキャンセルしたホークは、ジェイク役のテストスクリーンに臨み、本作に参加することになったのだ。
フークア監督は、スヌープ・ドッグ、ドクター・ドレーらを出演させ、ヒップホップ文化、R&Bの世界観も劇中に取り入れている。
フークア監督「スヌープとドレーは僕の友人で、彼らのことが大好きなんだ。当時のスヌープは、もっと俳優の仕事をやりたがっていたし、僕も彼を映画でどう使うかを考えていた。ある日、車椅子に乗った人を見かけたことで、スヌープが車椅子に乗っている姿を思い浮かべたんだ。そこからスヌープのキャラクターを発展させ『車椅子の追跡シーン』が生まれた。このシーンは、イーサンが出演者としてキャラクターを作り上げ、僕が子どもの頃からよく見ていた光景(ドラッグディーラーが警官に追跡される場面)を取り入れただけなんだ。一方、ドレーは、当初、今作に俳優として参加つもりはなかった。でも、イーサンとデンゼルが出演契約を交わしたことで『出演を引き受けるよ』と言ってくれたんだ」
ちなみに、ホークは、グラミー賞翌日の午前5時半からの撮影に向けて、午前4時からヘアメイクの準備をするドクター・ドレーの姿を目撃。勝手に抱いていた“ヒップホップ業界のイメージ”とは異なる、ドクター・ドレーのプロフェッショナルな振る舞いに驚かされたようだ。
トロント国際映画祭での上映から4日後、アメリカでは同時多発テロが起こったため、公開を数週間遅らせることに。フークア監督は、当時のことを思い返した。
フークア監督「幹部社員としてワーナー・ブラザースを率いていたロレンツォ・ディ・ボナベンチュラを評価しなければいけない。彼は、株主に今作を見せて、全員のサイン(承認)をもらわなければいけなかった。株主たちは最初に鑑賞した際に、映画内の人種差別用語に気づいた。だが、ロレンツォがその人種差別用語を生かしたまま、今作を公開できるように、株主たちに強く勧めてくれた。同時多発テロは、我々が住んでいる世界が現実であることを今一度知らしめた。当時の人々は、何か“現実的なもの”を求めていたのだと思う」
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