この言葉が、あなたに届くでしょうか――「モロッコ、彼女たちの朝」監督が主人公のモデルへ宛てたオープンレター
2021年8月18日 14:00
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モロッコを舞台に、シングルマザーと未婚の妊婦のという、それぞれ孤独を抱える女性がパン作りを通して心を通わせていく姿を描く「モロッコ、彼女たちの朝」(公開中)。マリヤム・トゥザニ監督が、主人公のモデルになった女性へ宛てたオープンレターが公開された。
カサブランカで女手ひとつでパン屋を営むアブラと、その扉をノックした未婚の妊婦サミア。思いがけぬ出会いが、2人の人生に光をもたらしていく。
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大学卒業後、実家へ戻っていたトゥザニ監督のもとに、主人公サミアのように、行くあてがないという妊娠8カ月の女性が訪ねてきた。イスラム教圏のモロッコでは婚外交渉が違法で、未婚の女性が病院で出産しようものなら逮捕されかねない。両親とトゥザニ監督は面識のない彼女をかくまい、出産までを世話した。
そして彼女は、「未婚の母の『罪の子』としてではなく、よそで幸せな人生を送れるように」と、出産後すぐに子どもを養子に出し、地元へ帰っていった。それ以来、居場所も連絡先も分からないという。そんな彼女へ向けて、トゥザニ監督は本作が公開された際に、モロッコの複数の新聞にオープンレターを掲載した。そこには、17年の時を経て、トゥザニ監督自身が母親になって初めて気づいた、当時の彼女の痛みや苦しみに寄り添った思いが綴られ、彼女からの返事を今も待ち続けている。
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この言葉が、あなたに届くでしょうか。私はこれをあなたのために書いているようで、実は自分のために書いているのかもしれません。
私の息子は2歳半になりました。あなたの息子さんは17歳になっているはず。私は、毎晩のように、息子のまぶたが閉じるまで彼の目をのぞき込んでいます。すると、これまで幸せだった瞬間、共有した時間など、様々な美しい記憶が浮かんでくるのです。息子の小さな声に起こされれば、抱きしめ、なぐさめ、キスをします。小さな子どもたちにとっては、時に夜というものはとても恐ろしい存在ですから、息子は私に身体を押し付け、私の首元に顔をうずめてきます。そして、再び眠りにつこうと、「ママ」という言葉を呪文のようにささやくのです。そのママという2つの“音節”を耳にすると、それが私の存在を形作っているように感じ、感謝の気持ちで胸がいっぱいになります。彼の小さな心臓の鼓動に、私自身が揺さぶられているのです。
ええ、これはあなたから盗まれてしまったものです。
こうした夜も、そして朝も、あなたから奪われてしまった。この無邪気で、か弱く、不安定な「脆さ」こそ、あなたを成長させるだけでなく、同時にあなたの魂に突き刺さり、血管を流れるようにあらゆるものを超越していくはずだったのに。永遠の一片のように。
彼が「ママ」と呼ぶのを聞くことは、これからもないでしょう。そして、彼の声を知ることも。その声が変化し、知らずのうちに形を変え、子どもの頃とは別の力で何かと共鳴するのを感じることも。
彼の笑い声を聞くこともないでしょう。例え生きることが苦痛を伴うものだったとしても、彼の笑いがあなたの心に響き、笑いをもたらしてくれるはずだった。彼の笑いこそ、あなたの心の奥底まで行き渡る素朴で美しいものであり、幸せの源であったはず。こうしたことがあなたから奪われてしまったことに、心が痛みます。
妊娠を隠しながら、疲れ果て、取り乱したあなたが私たちの家のドアを叩いたのは17年前のこと。あなたの顔は、私の記憶の中では曖昧でぼやけていますが、目だけは別です。あなたのきらめくような目は、生きる喜びに満ち、私たちもつられて微笑んでしまうようでした。生後8カ月のお腹で孤独や恐怖を抱えていても、その目のきらめきが消えることはなかった。
そして、彼がこの世に誕生しました。あなたは、彼と別れて自分の道を進むほうが簡単だと思っていたのでしょう。あなたは、その揺るぎない、計り知れない愛を以って、彼を愛した。彼を手放した日の、あなたの凛々しい目を忘れることはできません。今となれば、どれだけ心を引き裂かれる思いだったか分かります。
あなたがどこにいるのか、どうなっているのかわかりません。もしかしたら他に子どもがいるかもしれないし、他の幸せが人生にもたらされたかもしれない。また笑うことができているかもしれません。それでも、取り返しのつかないことはあるものです。あなたの得た傷が、永遠に癒えることが無いことを、私は知っています。
あなたの存在が、私から離れてはいないことを知ってほしいのです。あなたの傷は、私のものになりました。あなたの犠牲が私の中に刻まれ、長い年月を経て再び現れたのです。自分が母親になったとき、私はあなたに再会し、あなたの痛みの記憶がかつてないほど鮮明に、そして激しくよみがえりました。監督になったとき、私はこの物語を伝えなければならないという強い思いに駆られました。あなたと、自分の子どもを愛する権利を奪われ、自らの“アダム”や“イブ”を諦めることを強いられた、すべての女性たちの物語を。
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