アラブの国のシングルマザーと未婚の妊婦の交流描く「モロッコ、彼女たちの朝」 ステレオタイプな男性が登場しない理由

2021年8月14日 09:00

マリヤム・トゥザニ監督
マリヤム・トゥザニ監督

北アフリカのモロッコを舞台に、シングルマザーと未婚の妊婦という、それぞれ孤独を抱える女性がパン作りを通して心を通わせていく姿を上質な映像と共に語る「モロッコ、彼女たちの朝」が公開された。監督は英国で映画製作を学び、本作が長編デビューとなるマリヤム・トゥザニ。物語は、トゥザニ監督がかつて家族で世話をした未婚の妊婦との思い出が基になっている。アラブの国モロッコで女性監督として初めて、2019年のカンヌ国際映画祭では「ある視点部門」に正式出品、「クィア・パルム」にノミネート。アカデミー賞のモロッコ代表にも選ばれた。オンラインでトゥザニ監督に話を聞いた。

▽あらすじ
臨月のお腹を抱えてカサブランカの路地をさまようサミア。イスラーム社会では未婚の母はタブーとされ、美容師の仕事も住居も失ってしまった。ある日、彼女は小さなパン屋を営むアブラと出会い、彼女の家に招き入れられる。アブラは夫を事故で亡くし、幼い娘との生活を守るため心を閉ざして働き続けていた。パン作りが得意でおしゃれなサミアの存在は、孤独だった母子の日々に光を灯す。

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――アブラのようにひとりでお店を切り盛りしたり、自立して生活する女性はモロッコで多いのでしょうか?

この映画に出てくるような規模のパン屋を一人で切り盛りしている女性は少なくありません。結婚していても女性が主体となって運営しているお店も多いです。もちろん地域で状況は異なり、女性がオーナーではない場合もありますが。以前、短編映画のリサーチをしているときに、このような店舗で休憩をし、そこで一人の女性に話を聞くことができました。非常に個性の強い女性で、私が知らなかったモロッコ社会の側面を彼女から学ぶことができたのです。アブラを演じたルブナ・アザバルにベルギーからモロッコに来てもらって、彼女のような女性たちと多くの時間を過ごしてもらいました。彼女たちがどのような生き方、どういった女性なのかを知ってほしかったのです。

また今回、パンやペストリー作りのプロに、女優たちへの指導をお願いしました。女優ふたりには演技ではなく、本当にパンを作れるようになってほしかったのです。毎日ふたりが生地の準備をして、我々はそれを食べました。この映画はふたりの女性のアップ、手の動きを多用して、パン作りの感覚的なものを見て取れるようにしたかったのです。映像でそれを反映するためには、女優たちがリアルを知っていることが重要でした。

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――イスラム圏の国は男性中心の社会で、女性の地位が低いという報道があったり、それらの国を舞台とした作品では男性が家父長的でマッチョなキャラクターであることも多々あります。しかし本作にはそのようなステレオタイプで女性を抑圧するような要素を持つ人物が出てきませんね。

実際の社会にいる人は、そのようなステレオタイプよりも複雑なものだからです。確かに、アラブ圏の作品では、家父長的な描かれ方をする男性が出てくるのではないか、と思われるかもしれません。でも、私自身は男性のキャラクターが真心を持ったものにしたかったし、この映画に出てくるスリマニのような男性を私は実際に知っており、そういった美徳を見せたいと思ったのです。

昨今、男性と女性の対立構造を描きたがるような傾向があると私は思うのですが、必ずしもそれは正しいことではないと思います。対立する必要はなく、共に前に進むために、解決案を見つけていければよいのです。私たちの社会は複雑で様々な人間がおり、その真実を描くことが大事だと思っています。

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――インタビュアーの個人的な話になりますが、約20年前にモロッコの地方都市エッサウィラの映画館で「アルマゲドン」を見ました。観客は男性ばかり、キスシーンでは口笛や拍手が上がるなど、日本の映画館との違いに驚いた記憶があります。時代は変わって、今のモロッコの映画館や映画界はどのような状況なのでしょうか。

モロッコは映画館の数がとても少ないのです。現在、4000万人に対して、40スクリーン程度ではないでしょうか。大きな街に映画館がないこともあるので、私のようなフィルムメイカーにとっては、作品を見せる場所がないので悲しいです。映画館があっても、シネコンでハリウッド大作が占めるので、小規模な映画を上映する場所がなかなかないのが現状です。しかし、今回はラッキーで、一般公開し、いろんな方々に見てもらうことができ、そこから対話も生まれました。楽観的に考えられれば良いのでしょうか、今、映画館が次々と休館しているので、存続と、新たに劇場を生み出すことが必要です。

モロッコの人々はモロッコの映画が大好きなのです。特にコメディを好みます。一時期、エジプトの作品に人気が集まりましたが、それがアメリカ映画に代わりました。いわゆる作家主義的な作品はなかなか上映することができないのが現状です。もちろん配信サービスはありますが、映画館で映画を見るということは何物にも代えがたいものがあるのではないでしょうか。

――日本でモロッコの長編劇映画が劇場公開されるのは、今作が初となります。あなたが映画監督を目指したきっかけを教えてください。

これまでにいくつかドキュメンタリーを作っていましたが、私がフィルムメイカーを目指したのは、父が死んだときに、初めてのフィクション短編を作ったのがきっかけです。そこから脚本に着手しました。その後ドキュメンタリーに戻ろうと思っていましたが、もともと言葉を書いたり、ストーリーを綴ることが好きだったので、そこに映像が加わると、自分が語りたいことが一番表現できると気付いたのです。それまでに時間がかかりましたが、2本目のフィクションがこの作品です。

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――今年のカンヌ映画祭のコンペティション部門に「Casablanca Beats」が選出されたあなたの夫ナビル・アユチも映画監督で、この「モロッコ、彼女たちの朝」のプロデューサー、共同脚本としてかかわっていますね。

ナビルと主にフィルムメイカーの道のりを歩んでいくことは、とても美しいことです。お互い補完し合えるのです。もちろんぶつかることもありますが、生産性があり、互いの背中をより押すためのものです。「モロッコ、彼女たちの朝」をふたりで製作することになったのも、計画していたのではなく、自然な成り行きでした。互いの作品作りにかかわりあうことが好きですし、脚本をお互いに読んで、もう一つの目が作品を豊かにし、なにかを分かち合えるのです。私はナビルのビジョンと感受性が好きで、彼のアドバイスも私が求めていることを指摘してくれるので、自分の映画作りで欠かせない人なのです。

(映画.com速報)

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