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野田洋次郎「自分を役者だとは思っていなかった」 俳優業の転機、音楽活動との関係性を語る

2021年8月1日 13:00

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山田洋次監督との撮影の日々を語った野田洋次郎
山田洋次監督との撮影の日々を語った野田洋次郎

人気ロックバンド「RADWIMPS」の野田洋次郎が、日本映画界を代表する巨匠、山田洋次監督最新作「キネマの神様」に参加。実直で温かみのある青年役を好演し、さらなる新境地を切り開いている。NHK連続テレビ小説「エール」で朝ドラ出演も果たすなど、俳優としての活躍も目覚ましい彼だが、「山田組を経験したことで初めて、自分も“役者だ”と言っていいのかなという気持ちになれた」と告白する。本作の撮影を経験できたことがひとつの転機となったと明かす野田が、「山田監督のような方がいるならば、僕もできる限り、ものづくりをやっていきたいと思った」と山田監督からもらった“未来への力”や、音楽活動と俳優業の関係性について語った。(取材・文/成田おり枝、写真/山口真由子)

■困難を乗り越え「届けられることが、うれしい」

松竹映画の100周年を記念した作品で、原田マハの同名小説を山田監督が映画化した本作。かつて撮影所で働き何よりも映画を愛していたが、今や家族にも見放されたダメ親父のゴウを主人公に、時代を越えて繰り広げられる愛と友情、家族の物語をつづる。主人公・ゴウの過去と現代を菅田将暉志村けんさんが二人一役で演じる予定だったが、志村さんが2020年3月29日に急逝。志村さんの遺志を継ぎ、沢田研二が現代のゴウを演じた。野田は、過去パートにおいて、映写技師で、ゴウの盟友のテラシンに扮している。

画像3(C)2021「キネマの神様」製作委員会

志村さんの急逝、撮影の長期中断、公開延期など、映画のお披露目までに度重なる困難に直面した。野田は「過去パートの撮影が終わるくらいのタイミングで、志村さんが倒れられたというお話を聞いて。世の中は緊急事態宣言が出るというタイミングで、みんなが絶望的な気持ちを持っている時期もありました。でも現場の誰もが、『この作品の完成を見たい』と思っていました。困難はたくさんありましたが、完成して、こうしてみなさんにお届けできることが、とてもうれしいです」と喜びを噛み締める。

演じたテラシンは、ゴウの才能を信じ、励まし続ける男。映写技師として、観客に映画を届けることを喜びとし、その道をひたむきに歩んでいる人物でもある。優しさと温かさのにじみ出る芝居で観客を釘付けにする野田だが、「テラシンは、ゴウの才能を確信していて、彼が生み出そうとするものを全身全霊で愛している。その愛を伝える役だなと思っていました」と分析。現代パートのテラシンを小林稔侍が演じており、「稔侍さんが、過去パートの撮影を見に来てくださったことがあって。背中をバンと叩いて、『ものすごくいいよ』と声をかけてくださったんです。ホッとしたし、救われた思いがしました」と感謝。スクリーンには、野田と小林が演じたテラシンが、見事に同一人物の“過去と現在”として映し出されている。

画像2
■「山田監督のような方がいるならば、僕もできる限りやっていきたいと思えた」

野田は「『男はつらいよ』が大好きで。僕は6歳からアメリカに行っていたんですが、日本が恋しくなると『男はつらいよ』を見ていました」と山田監督の大ファンだったそう。山田監督と過ごした日々も、特別なものとなった。

劇中でテラシンがギターを弾きながら、ゴウと会話をする場面があるが、これは野田のミュージシャンとしての力量を信じた山田監督からの提案によって出来上がったシーンだという。野田は「本当は“レコードをかけながら話をする”というシーンだったんです。でもある日、山田監督が『ギターを弾きながらやってみるというのは、どうかね』とおっしゃって。僕のミュージシャンとしての気持ちを尊重してくださって『もし君の気持ちが乗るようだったら、一度トライしてみたいんだけど』と言ってくださった」と述懐。

「でも、とても難しい曲で」と苦笑いを浮かべながら、「撮影が終わると、家に帰って2、3時間はそのシーンの練習をしていましたね。しかもセリフを話しながら、さも当然のようにギターを弾かなければいけない。頭がパンクしそうになっていました」と言いながらも、楽しそう。撮影の合間に「現場のBGMとして、ギターを弾いていた」こともあったそうで、「なにか和みになればいいなと思って、弾いていたんです。すると、それを聴いた監督が『それはなんだい。その曲も弾いてみようか』と(笑)。山田監督は、その場でいいと思ったものをどんどん採用して、試していく。音楽的で即興性があって、ものすごく面白かったです」とエキサイティングな現場だったという。

野田が、山田監督の演出に感じたのは「明確で、緻密で、映画への愛があふれている」ということ。「山田監督は、リアルを追求する方。“その場で生きている人間がどうするか”ということを大事にされる方」と口火を切り、「俳優が現場に入る何時間も前から、スタッフと『こういう撮り方をしよう』と話し合いをされているし、撮影が終わってからも、次の日のアイデアを練っている。現場のみんなは、『監督の思いを実現させるためには、どうすればいいか』とついていく。ものすごく情熱にあふれた現場でした」と山田監督のエネルギーと映画への愛をひしひしと感じたという。

家族の日常や風景を撮り続けてきた山田監督は、現在89歳。本作に込められた映画愛はまさに山田監督の心そのもののようにも思えるが、その真摯に映画づくりに向き合う姿には、野田も刺激を受けたと続ける。「山田監督はおそらく、1作目を監督されたときと、なんら変わらない情熱で映画づくりをされている。ものづくりをする上では、妥協なんてしてはいけない。最後の1秒まで考え抜いて、自分の持てるすべてを出し尽くさなければいけない。改めて、そう気付かされました。僕が山田監督と同じくらいの年齢になったとき、あそこまでの情熱でものづくりをできているのだろうか……という気持ちにもなってしまいますが、山田監督のような方がいるならば、僕もできる限りやっていきたいと思えた。ものすごく励みになりました」

画像4(C)2021「キネマの神様」製作委員会
■音楽活動と俳優業の関係性とは?

「RADWIMPS」のボーカル&ギターとして絶大な人気を誇りつつ、2015年に主演映画「トイレのピエタ」で俳優デビューした野田。ドラマ「100万円の女たち」で連続ドラマ初主演を果たし、NHK連続テレビ小説「エール」では窪田正孝演じる主人公・古山裕一と友情を育む役どころで存在感を発揮した。俳優としても華々しく活動しているが、本人は「これまでは、自分を役者だとは思っていなかった」と告白する。

しかし「もう、そんなぬるいことを言っていられない。監督から緻密な演出を受けて、“演じる”ということの面白さも教わった気がしています。山田監督の現場を経験して初めて、“役者だ”と言っていいのかなという気持ちになれた。それくらい大きな出来事です。山田監督が、役者としての僕に全力で向き合ってくださった。それもとてもうれしかった」と本作は、役者・野田洋次郎としての転機となった様子だ。

画像5(C)2021「キネマの神様」製作委員会

とはいえ、自身の本質は「音楽家」だとキッパリ。「だいたい撮影に入ると、そこで感じたことを音楽にしたくなる」のだとか。本作の撮影期間に彼の心に浮かんだ思いは、そのまま今回の主題歌「うたかた歌」として完成。「RADWIMPS feat.菅田将暉」として、菅田と共に歌声を響かせている。

野田は「山田監督に感謝やリスペクトを伝えられたらとも思っていましたし、山田監督と音でつながれたらいいなと。また今回の撮影は、どこまでが現実なのか、どこからが映画なのか、だんだんと境界がわからなくなるような不思議な時間でした。そこで浮かんだ言葉は、台本の隅っこや携帯にメモしたりもしていたので、ぜひ、音楽として残しておきたいと思った」と主題歌ができるまでの経緯を説明。「ゴウとテラシンの2人がいて、完成する楽曲。映画の中で生きていた彼らが、ひとつの楽曲の中にも存在しているということに、大きな価値を感じています。また、菅田くんの持っている説得力みたいなものは、声や歌でもしっかりと存在している。稀有な存在だなと、改めて感じています」とうれしいタッグとなった。

「自分ひとりの人生だけでは、生まれてくる感情にも限りがある。俳優業を通して、物語や、その中で生きている人間の感情に触れると、湧き上がってくるものがある。新しい音楽が作りたくなる」と役者業は、彼の音楽世界をさらに押し広げてくれるものでもあるようだ。野田は「音楽は基本、スタジオや密室の中で、ひたすら自分の“内側”と格闘している感じ。一方の役者業は、“初めまして”の人たちと一緒に面白いものを作っていくという、自分の“外側”を意識するもの。内側と外側が入れ替わり、どちらもものづくりにつながっていくことが、面白いなと思っています」とにっこり。「常に、未体験のものに触れてみたいという思いもあります。これからも僕がこれを演じたら、どうなるんだろうと思えるような役に出合えたら、とてもうれしいです」と語っていた。

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キネマの神様」は8月6日から全国公開。

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