【ホラー映画コラム】「ディヴァイド」閉塞空間で悪化する人間模様を突き詰めた地獄のような作品
2021年7月30日 20:00
Twitterのホラー界隈で知らぬ者はいない人間食べ食べカエル氏(@TABECHAUYO)によるホラー映画コラム「人間食べ食べカエル テラー小屋」では、“人喰いツイッタラー”が、ホラー映画専門の動画配信サービス「OSOREZONE」の配信中のオススメ作品を厳選し、その見どころを語り尽くす! 今回は、食べ食べさんが「地獄のような作品」と語る「ディヴァイド」ご紹介。
ある日突然、ニューヨークが爆撃を受けて壊滅状態に! エバ(ローレン・ジャーマン)ら男女9名は、何とか生き延びて地下シェルターに逃げ込むことに成功する。だが地上は完全に崩壊し、シェルターから出るに出られなくなった彼らは、備蓄された食料を頼りに絶望的な日々を過ごす事になる。果たして、生きて再び外の世界を拝むことは出来るのか……。
本作の見どころはズバリ「閉塞空間で悪化する人間模様」である。ただひたすらにこれを突き詰めた地獄のような作品だ。逃げ場のない空間に男女9人。外は完全に崩壊。助けが来る見通しもない。このままずっと中にいれば、当然だが次第に追い詰められていき、待ち受けるのは死あるのみ。一体どうすれば……。そんな最悪の強制ステイホームを、約110分間(結構長い!)に渡って描いてくれる。
途中で謎の襲撃者などといった見せ場的なイベントも発生するが、それらはかなりアッサリと流される。その分、余った時間を全て壊れゆく人間関係に費やす。全編が閉鎖されたところで起きたら厭なことの詰め合わせセットな作りで、よくそこまで描いてくれちゃったな!と叫びたくなる程にしんどい描写が満載だ。
例えば、死体が発生→しばらく放置したら腐敗してきて死臭が物凄いことに→このままじゃ耐えられないから遺体を切断してトイレに流そうとする等といった、おぞましい展開のつるべ打ちで観る者の精神を試す。直接死体を切るシーンは映さないけど、葛藤するところはガッツリ時間を割いて描くので、下手にグロを押し出すより余程後味が悪い。時間が経つにつれ衛生環境と人間模様がダブルで最悪になっていき、そのうちなんとなく画面越しに臭気が漂ってくる錯覚を覚える。
そんな息の詰まるような環境の下、次第に登場人物たちの関係性が終わっていく様子を、思わずもう勘弁してください!と懇願したくなるほど丁寧に描く。閉じ込められた人たちが段々と弱り、痩せ細り、薄汚れて、髪が抜けていく描写も地獄ぶりに拍車をかける。とにかく、あらゆる角度から徹底的に不快感を煽ってくる。観客の気分を落とすためなら絶対に手は抜かない!という作り手の情念をヒシヒシと感じる。
そんな最悪のシチュエーションを極めた本作を手掛けたのは、フランス出身の鬼才クリエイター、ザビエ・ジャンだ。ジャン監督と言えば、ホラーファンの中では「フロンティア」の監督として多くの人に認知されていると思う。よくあるトーチャー系かと思わせてからの想像を超えるぶっ飛び展開を盛り込んだこの作品は、多くのホラー好きの度肝を抜いた。他にも、カエル人間と灯台守の戦いを描いたホラー「コールド・スキン」など、彼の手掛ける作品は一筋縄ではいかず、良い意味で捻くれてネチネチとした悪意に満ちたものが多い。本作は比較的シンプルに厭な展開を突き詰めたタイプの作品だが、その分彼の悪意が超ドストレートに伝わってくる。
また、役者陣も錚々たるメンバーが揃っている。主人公エヴァを演じるのは、「ホステル2」のローレン・ジャーマン。その他、テレビドラマシリーズ「HEROES/ヒーローズ」のピーター・ペトレリ役などで知られるマイロ・ビンティミリアや、「ターミネーター」「エイリアン2」等でお馴染みマイケル・ビーンの兄貴など充実の顔ぶれ。逃げ場のない空間で次第に人間性が失われていく様を見事に演じ切り、理性が暴力に押し込まれて秩序が崩壊する展開に凄まじい説得力を持たせている。役者のスキルがこれ以上ないほどに試される作りだが、本作のキャストたちは見事それに応えた。
地獄じみたドラマを作ることに長けたクリエイターと、地獄じみたドラマに説得力を持たせる熟練の役者陣が組み合わさった事で、鑑賞後は間違いなく気分が落ち込む最高にダウナーな作品が誕生した。絶望と絶望で絶望を挟んだ展開を経て、最後に待ち受けるあのシーン。そして終わり間際に流れる、物悲しく耳に残るテーマ曲。なんて最悪で、そして美しい終わり方だろうか。何か死ぬほど落ち込む映画を観たいと思う事は、きっと誰しもあるはずだ。そんな時は本作を観てはいかがだろうか。ドン底まで気分を叩き落としてくれること請け合いだ。
最後に余談だが、筆者の務める職場は、ここ最近で人間関係がかなり終わってきている。だが、この原稿を書くにあたり本作を見直したことで「これよりは終わってないな」と思い、少し気持ちが軽くなった。救いのない映画も、時には人の心を救ってくれることがある。
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