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セルゲイ・ポルーニンの“勇気”に惚れた――年下既婚男性との秘めた情事を描く「シンプルな情熱」監督に聞く

2021年6月24日 10:00

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ダニエル・アービッド監督
ダニエル・アービッド監督
(C)Philippe Quaisse / UniFrance

1992年、フランスで発売されるやベストセラーとなったアニー・エルノーの自伝的小説、「シンプルな情熱」。年下のロシア人の既婚者と出会い、不倫を続けるフランス人女性の心情を綴ったこの物語を、もともと原作のファンだったというダニエル・アービッド監督(『ファインダーの中の欲望』『わたしはパリジェンヌ』)が映画化した。ラブストーリーというよりは、狂熱的な思いに身を焦がすヒロインの視点から恋の妄想を描き、昨年の「カンヌ・レーベル」に選出された。

演じるのは、いまフランスで高く評価されている気鋭の女優、レティシア・ドッシュと、カリスマ的なダンサーとして人気を誇るセルゲイ・ポルーニン。激しいラブシーンを含め、ふたりが織りなす官能的なドラマが、観る者を酔わせる。

出版時にフェミニストたちのあいだで議論を巻き起こした本作のテーマと、話題を呼んだ配役について、アービッド監督が語ってくれた。(取材・文=佐藤久理子)

画像2(C)2019 L.FP. Les Films Pelleas - Auvergne - Rhoone-Alpes Cinema - Versus production
――あなたはこの原作を最初に読んだとき、アニー・エルノーと同じ心境だったと語っていますが、それはどういった状況だったのでしょうか。

散歩をしているとき、ぶらりと本屋に入ってこの本を見つけたのですが、そのとき自分も恋をしていたのです。それでこの本に惹かれて読み、とても心を打たれました。その後周りで恋をする友だちがいるたびにこの本をプレゼントしていました(笑)。でもすぐに映画化したいとは思いませんでした。むしろ映画化はできない類のものと思っていた。というのも、これは恋に落ちた彼女に起こった感情の万華鏡のようなものだからです。でもあるときプロデューサーから、ラブストーリーに関する自分の好きな本を映画化したらと誘われ、いろいろ探した結果、最終的にこの本になったのです。彼はわたしが肉体的なラブシーンを描写するのに長けていると言ってくれたのですが、実際題材を探してみると、セックスが重要な要素を持つものは案外少なかった。

この物語のヒロインはとても勇気があります。恋に落ち、1年間いかにして彼女がこの恋にのたうちまわっていたかを語る勇気がある。そこに心を動かされました。この映画を作ることは、そんな彼女の勇気に対するオマージュでもありました。

画像3(C)2019 L.FP. Les Films Pelleas - Auvergne - Rhoone-Alpes Cinema - Versus production
――愛と欲望は別という人もいますが、あなたはエレーヌがこの男性のことを愛していたと思いますか。

はい。それに原作者のエルノー自身がわたしに、これは彼女の人生のなかでもっとも大きな恋愛だったと打ち明けてくれました。わたしにとって愛と欲望は同じです。それがいかに育っていくかは、人それぞれですが。エレーヌの場合、最初から彼女はほとんど存在しないような人に恋をする。彼女が恋すれば恋するほど、彼は抽象的な存在になっていく。一緒に買い物にいったりする相手ではない、彼女の妄想のビジョンなのです。でも人は本当に恋をしたとき、幻想や夢の中にいるような状態になり、つねに恋しさを感じている。ここまでの思いに陥ることは稀であり、とても恵まれたことだと思います。わたしはその幸運な状態を映画におさめたかった。でもこの作品にはどこか冷めたところもある。それはこの物語が恋愛の思い出を描いているからでもあります。

――彼女が最後に迎える境地も、ミステリアスなものがありますね。

彼はどこも変わっていないけれど、彼女が変わるからです。でも恋愛の状態というのは、常にミステリアスで解明できないものだと思います。

画像4(C)2019 L.FP. Les Films Pelleas - Auvergne - Rhoone-Alpes Cinema - Versus production
――レティシア・ドッシュセルゲイ・ポルーニンという素晴らしい配役について聞かせてください。

レティシアは自分で戯曲を書き、演出もする、とても多才な人であり、知性と勇気があります。わたしはそんな彼女の資質を必要としました。もちろん素晴らしい女優でもあります。彼女とセルゲイはふたりとも、どこかパンクなところがあり、裸になるのを恐れていませんでした。そしてとてもエレガントです。

わたしにとってラブシーンは欲望、美しさ、優雅さなどを表現するもの。セックスそれ自体を映すことが目的ではありません。感情をフィルムに収めることです。たとえば美術館の彫刻や絵画を観たとき、そこに裸体が沢山あっても、人々は性的なものとして見るのではなく、美や気品を感じるでしょう。わたしにとってこの映画も同じなのです。それだけに、光にはとても気を使いました。セルゲイが初めてラブシーンを演じた日、セットに入って『ここは病院の部屋なの?』と驚いていました(笑)。映画では少し和らいでいますが、現場はそれだけ眩しいほどの光があったのです。

画像5(C)2019 L.FP. Les Films Pelleas - Auvergne - Rhoone-Alpes Cinema - Versus production
――彼が映画でこのような大役を演じたのは初めてですが、どのような経緯で決まったのでしょうか。

最初はロシア人の俳優を探していました。でも裸になりたくない人や、この映画が女性の視点から描かれていることを怖がる人が多かった。でもセルゲイに会ったとき、彼はとても開放的で、何も恐れていなかった。すぐに引き受けてくれました。そんな彼の勇気に惚れましたし、もちろんこれまで彼がやってきたことも素晴らしいと思いました。

そして彼とレティシアなら、行きたいところまで行けると思ったのです。実際とてもうまくいきました。セルゲイはとても親切で、女性に敬意を払ってくれる人です。それに監督を尊重して、なんでもやってくれました。彼ほど素晴らしい男性に会ったことがないですよ(笑)。映画作りをとてもリスペクトしてくれた。セットではレティシアといつも冗談を言い合っていました。だから撮影はとても楽しく、自由な雰囲気のなかでできたのです。

シンプルな情熱」は、7月2日からBunkamuraル・シネマほか全国公開。

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