「全裸監督」の世界に飛びこんだ恒松祐里の覚悟 「人の心を動かせる女優になりたい」
2021年6月24日 09:00
山田孝之が“アダルトビデオ業界の風雲児”村西とおるを演じ、世界中を熱狂の渦に巻きこんだ「全裸監督」。「お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません」という村西の言葉が聞こえるようだが、前作から2年近くの時を経て、本日6月24日からNetflixでシーズン2が配信開始される。注目の新たなヒロインの座を射止めたのは、7歳の頃から子役として活躍し、「凪待ち」「スパイの妻 劇場版」など出演作が絶えない若手実力派・恒松祐里。新シーズンの“顔”となった恒松の重圧と覚悟、山田や黒木香役の森田望智に刺激を受けたというエネルギッシュな撮影現場、また濡れ場への挑戦について、話を聞いた。(取材・文/編集部)
“放送禁止のパイオニア”として時代の寵児となった監督・村西と仲間たちの狂乱を描き、一大旋風を巻き起こした本作。アダルトビデオ業界のトップに立った村西のさらなる野望が描かれるシーズン2で、恒松は村西の前に現れ、創作欲を刺激する女優・乃木真梨子役を務めた。彼女自身は、シーズン1にどのような感想を抱いたのだろうか。
「すごく面白い作品でした。出演者の皆さんが役を演じ切っている、全ての情熱をかけて演じているということが、画面からひしひし伝わってきました。こんなにも全力だからこそ、多くの人に受け入れられ、社会現象になる作品になったんだなと、納得しました。最終話のトシ(満島真之介)のシーンが印象的で、本当に全部が本気で、全部が全力で、だからこそ人間の良い部分も悪い部分も、ド直球で画面から伝わってくるのがかっこいいなと思いました」
そしてシーズン2のヒロイン役のオファーが、恒松に舞いこんだ。大きな成功をおさめた作品の続編に、新たに参戦するプレッシャーは想像を絶するものがあり、劇中には激しい濡れ場もある。この大きな挑戦を前に、恒松は「本当に驚き、たくさん悩みました。でも怖いとか逃げたいよりも、やりたい、逃したくない……が勝ちました」と胸中を明かす。葛藤する彼女を突き動かしたものは、「演じたい」と思わせてくれたキャラクターの魅力だった。
「自分としては出演への抵抗はなく、父と母に相談したら『良いチャンスなんじゃない?』と賛成してくれました。以前も、ラブシーンがある作品のお話が何度かあったんですが、家族は毎回賛成してくれていて、そういう話に対する免疫があったというか(笑)。ただ将来、そうしたシーンを見て、私の大切な人が傷ついたら嫌だなあと思い、悩んでいました。ですが、コロナ禍で何が起こるかわからない世界にあって、『もしかしたら明日このお仕事ができなくなるかもしれない』という状況のなかで、チャンスを頂けて……、台本もすごく素敵で、『演じたい』と思った役を捨ててしまうのはもったいないなと感じました。『演じられる役はやっぱり演じたい』という思いが強くあったので、家族の支えもあり、今回はチャレンジしようと決めました」
乃木真梨子という役へのアプローチとしては、少ない映像資料やインタビューを見て、イメージを膨らませていった。実在の人物でありながら、フィクションの要素が多いため、バランスをとることが難しかったようだ。
「乃木さんの実際の映像から話し方のテンポや雰囲気を感じとりながらも、新しい役づくりをしていかなければいけなかったので、すごく難しかったです。私が演じた乃木は、掴みどころのない役というか……。心の奥で抱える野望や悩みはありますが、それを表に出すわけではない。見ている方に委ねる部分も多いのですが、『私のなかではちゃんと作っておこう』と思って、演じていましたね。最初は話し方を意識して、女性の色っぽさもあるけれど、少女のようなあどけなさもある天真爛漫さが伝わるように、監督たちに相談して。本読みのときはおしとやかに演じていたんですが、『もうちょっと元気があった方がいいね』ということで、素直というか、女性らしいかわいらしさが垣間見えるように演じました」
かつては美容部員だったが、業界に飛びこむ乃木と、シーズン2から「全裸監督」に参加した恒松。新しい世界に不安な気持ちを抱えながらも、憧れを胸に歩みだす姿には、どこか重なる部分がある。
「現場では、皆さんが1カット1カットにこだわりを持っていて、面白かったですね。また伊藤沙莉ちゃんや柄本時生くんたちは、素に近い役をやっている印象があって、そうした『村西軍団』の仲間意識や、新人女優の緊張感は、リアルとフィクションの狭間をカメラにおさめられたのかなと。だからこそ魅力的な作品になっているのかなと思います。またシーズン1から出演されている方たちは、現場で誰よりも役のことを分かっているので、自ら『(このキャラクターは)こういう行動をするんじゃないか』と提案されていました。山田さんは自分でセリフを付け加えて、それこそ山田さんが演じる村西からしか出ない言葉を、アドリブでおっしゃっていて。本当にそれが役を極めること、突きつめることなんだなと、すごく勉強になりました」
この言葉の通り、山田との共演は大いに刺激になり、学びも多かったようだ。恒松が山田の“すさまじさ”を体感したのは、借金を重ねた村西が、女優やスタッフの前で熱弁するあるシーン。
「そのシーンの山田さんは、すごく鬼気迫るものがあって。ひとりで語っている姿が、本当に圧巻でした。私も段取りで初めて、皆のお芝居を照らし合わせるんですが、『え~! こんなお芝居をされるんだ』と、私としても、乃木という役としても、心を揺さぶられました。それを毎カット毎カット、私たちにも伝わるように、同じ熱量で演じてくださっていたので、すごいパワーのある俳優さんだなと思いました」
また、シーズン1での熱演が高く評価され、一躍スターダムを駆け上がった森田演じる黒木香と乃木の、緊張感を帯びた関係も気になるところ。
「森田さんとは、お互いに“見えない嫉妬心”を抱えながら撮影していたのかなと思います。乃木真梨子として、黒木香という大きな壁に対して抱く思い。私自身として、シーズン1で森田さんのお芝居を見て、『すごいな。黒木さんという役を全うされているな』と感じたこと。そうした役の思いと自分の思いをリンクさせて、芝居をしました。でもたぶん、森田さんも、『来週乃木さんと村西さんのラブシーンの撮影があるね』という話が出たときに、『え~やだ、見たくない(笑)!』とおっしゃっていたので、森田さんも森田さんで、私の乃木真梨子という役を意識していたのかなと思いますね。たぶん、お互いに意識し合っていたと思います」
恒松は本作で、大胆な濡れ場にも挑んだ。撮影を終えた彼女は、「アクションシーン」という表現で、難しさを語ってくれた。
「アクションシーンみたいに振りが全部決まっていながら、お芝居もする。制限があるからこそ難しくて、『たくさんのボールを持って、ジャグリングをしている気分だった』というのが、終わって最初に出た感想でした。例えば体の使い方、表情、声の出し方、カメラワークも意識しないといけなくて、本当に大変だなと思いましたね」
恒松は、乃木役は「女性のしたたかさ、野心、美しさを表現する役」だったと振り返る。黒木に憧れて業界に入り、初々しい雰囲気を湛えながらも、ふとした瞬間に「何者かになりたい」という激しい欲望がのぞく。そんな乃木を全身で体現した恒松に、「全裸監督」が自身の役者人生にとって、どのような作品になったのか、聞いてみた。
「世間的にも大きな話題作ですし、撮影期間も半年という、いままでにやったことのないスケールでの撮影だったので、そのなかで役を演じきったことは、私のなかでも自信になり、ひとつステップアップすることができたように感じます。以前『タイトル、拒絶』で演じたまひるちゃんを見て、『勇気をもらった』『自分ひとりじゃないんだと思えた』『昔の私を見ているみたいだった』と言って頂いたことがあって。まひるちゃんのような痛みを抱える女性って、多かれ少なかれいると思うんです。私が感じた悲しみだったり、怒りだったり、モヤモヤだったりを、役を通して演じることで、同じような感情を抱えたことがある方たちを、少しでも勇気づけられたらいいなと思います。私のお芝居が救いになってくれたらいいなと思うので、そういう表現や役に出会って、人の心を動かせる女優になりたいなと思います」
シーズン1に続き総監督を務めた武正晴監督は、恒松について、「『私、やります』と最初に会った時の彼女の言い方が素敵だった。言いきったなと。忘れない」といい、「恒松祐里の挑戦は『全裸監督』の真骨頂である」と、最大級の賛辞をおくった。その言葉の通り作品には、恒松の並々ならぬ覚悟、重圧に打ち勝ったからこその輝きが、しっかりと刻みつけられている。
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