【「ステージ・マザー」評論】“本当の声”を手にしたドラァグクイーンたちがいま、ステージにあがる
2021年6月20日 23:00

きらびやかな衣装とメーク、大胆なダンス、ユニークな世界観で魅せる、ドラァグクイーンたちの華やかなステージ。しかし、完璧に見えるパフォーマンスにもひとつだけ、欠けているものがある――それは、彼女たち自身の声だ。
保守的なテキサスの田舎町に住む平凡な主婦メイベリンは、疎遠になっていた息子リッキーの訃報を受け、彼が住んでいたサンフランシスコへ向かう。そこで彼女は、息子がドラァグクイーンで、ゲイバーの経営者でもあったことを知る。メイベリンは、はからずもこのバーを相続することになるが、経営は破綻寸前であった。彼女はある思いを胸に、バーの再建を目指して立ち上がる。
メイベリンをパワフルに演じたのは、「アニマル・キングダム」「世界にひとつのプレイブック」で2度オスカーにノミネートされた名優ジャッキー・ウィーバー。彼女のもとには、様々な悩みを抱えたドラァグクイーンたちが身を寄せる。カミングアウトによる親や妻との不和、愛する人を失った喪失感、ドラッグ依存、シングルマザーとして生きる不安……。メイベリンはただそっと彼女たちを受け入れ、寄り添い、温もりを与える。
その優しさが決してうわべだけの同情などではなく、誠実で真摯なものだと感じられるのは、メイベリン自身もまた、一生取り戻すことのできない深い後悔を抱えているからだ。リッキーのパートナーであり、彼が愛した場所を守ろうと、バーの経営不振に心を砕くネイサン。寂しさのあまりドラッグに依存してしまうジョアン。母と絶縁状態にあるテキーラ。メイベリンは亡き息子の面影を、仲間たちのなかに見出す。本作はメイベリンが彼女たちとともに過ごし、導くことで、息子との時間を取り戻していく物語なのだ。
突如ドラァグクイーンの世界に現れた“ステージ・マザー”の提案は、これまで口パクで音楽に合わせていたパフォーマンスを、全て生歌に変えること。この変革が象徴的だ。気丈に振る舞いながらも、心に傷を抱え、“本当の自分”でいることをどこかで恐れていたドラァグクイーンたち。ゲイである息子を受け入れられなかった夫に従い、息子に会うことさえ許されなかったメイベリンもまた、自分自身の声を押し殺していた。
終盤にある、メイベリンとドラァグクイーンたちの圧巻のステージを目に焼きつけてほしい。“本当の声”を手にした彼女たちはもう、自分自身を偽らない。誰にも邪魔されず、いかなる悩みからも解放された、どこまでも伸びやかな歌声に、胸が熱くなるはずだ。
関連ニュース






映画.com注目特集をチェック

映画「F1(R) エフワン」
【語れば語るほど、より“傑作”になっていく】上がりきったハードルを超えてきた…胸アツをこえて胸炎上
提供:ワーナー・ブラザース映画

でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男
【あり得ないほど素晴らしい一作】この映画は心を撃ち抜く。刺すような冷たさと、雷のような感動で。
提供:東映

たった1秒のシーンが爆発的に話題になった映画
【この夏、絶対に観るやつ】全世界が瞬時に“観るリスト”に入れた…魅力を徹底検証!
提供:ワーナー・ブラザース映画

186億円の自腹で製作した狂気の一作
【100年後まで語り継がれるはず】この映画体験、生涯に一度あるかないか…
提供:ハーク、松竹

なんだこの映画は!?
【異常な超高評価】観たくて観たくて仕方なかった“悪魔的超ヒット作”ついに日本上陸!
提供:ワーナー・ブラザース映画

すさまじい映画だった――
【あまりにも早すぎる超最速レビュー】全身で感じる、圧倒的熱量の体験。
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

“生涯ベスト”の絶賛!
「愛しくて涙が止まらない」…笑って泣いて前を向く、最高のエール贈る極上作【1人でも多くの人へ】
提供:KDDI

究極・至高の“昭和の角川映画”傑作選!
「野獣死すべし」「探偵物語」「人間の証明」…傑作を一挙大放出!(提供:BS10 スターチャンネル)