映画.comでできることを探す
作品を探す
映画館・スケジュールを探す
最新のニュースを見る
ランキングを見る
映画の知識を深める
映画レビューを見る
プレゼントに応募する
最新のアニメ情報をチェック
その他情報をチェック

フォローして最新情報を受け取ろう

検索

【特別インタビュー】永瀬正敏が抱える、喪失への思い

2021年6月10日 14:00

リンクをコピーしました。
取材に応じた永瀬正敏
取材に応じた永瀬正敏

肉親、パートナー、親友、恩人……、生きていく中で、誰しもが大切な存在の死に直面する。その悲しみ、喪失をどう受け止めればいいのか? 映画「名も無い日」は日比遊一監督自身の体験を元に、弟の突然の死をきっかけにシャッターを切ることができなくなったカメラマンが、故郷の街で静かにその死に向き合っていくさまを描く。

「僕自身、向き合えていない気がするんですよね……」。主人公・達也を演じた永瀬正敏はそう語る。約3年前、この映画に出演した後に母親を亡くした。そしてもうひとつ、向き合えぬまま約20年を過ごしてきたという喪失がある。永瀬のデビュー作「ションベン・ライダー」のメガホンをとった恩人・相米慎二監督の死――。改めて永瀬に本作について、そして自らの内に抱える喪失への思いについて話を聞いた。(取材・文・写真/黒豆直樹)

画像2

永瀬は数年前に本作の企画のオファーを受け、日比監督と直接会い、話をする中で出演を決めたという。

「だんだん年を取ってくると、タナトス(フロイトが提唱した死の衝動)を感じることが増えてくるんですよね。身近な人が次々と天国に向かってしまう。それを忘れることなんてできないんですよね。監督も恐らく同じで、まさにモーニングワーク(直訳すると“喪の作業”。喪失の哀しみ、ショックから、やがて立ち直っていくまでの心理的なプロセスを指す言葉)の中にあったんだと思います。彼はアーティストなので、弟さんの死というものに作品を通して向き合わなければ、前に進めないと思っていらっしゃったんだと思います。そんな思いが、お会いして話をする中で伝わってきました」

画像3

永瀬自身、自ら展覧会を開くほどの写真の腕前を持ち、過去にフォトグラファー役を演じたこともある。ただ、本作の達也という役を演じる上で参考にし、思いをはせたのは自らの経験ではなく、祖父の存在だった。

「祖父は写真館をやっていた写真師だったんです。戦後のゴタゴタの中でいろんなことがあり、周囲の裏切りに遭ったりもして写真が撮れなくなってしまい、それから一切、カメラを持つことがなかったんですね。そこに思いをはせる部分が大きかった気がしますね」。

映画の中で、達也は故郷の名古屋へと戻り、そこで多くの人々と顔を合わせる。入院中の祖母、同級生、かつて亡くなった友人の母親。街にとどまりながら、さまざまな人と話をし、少しずつ救われていく。決して遠くには行くわけではないのに、ロードムービーのようにも感じさせる。

「たしかに心のロードムービーと言えるかもしれませんね。いろんな人と会い、会話する中で少しずつ何かをもらって、一歩を踏み出す。自分のことはあまりしゃべらないんだけど、相手の言葉が自分の心情を代弁してくれることが多い作品なんです。相手の言葉、人肌の温かさに背中を押してもらえたんだなと思います」

画像4

不思議なのは、かつての同級生の息子であったり、年の離れた姪であったり、決して関係性が近くない相手とのやりとりのほうが、達也の表情、そして心が動いているように感じられること。

「あまりにも近いと逆に、ちょっとカッコつけてしまって本音が吐露できないというのはあるのかもしれませんね(笑)。距離感がより自分を素直にさせてくれるというか。親友の息子からは『(達也が拠点とする)ニューヨークってどんなところ?』と問いかけられますけど、まさに亡くなった弟が以前発した『いつかニューヨークに行きたいな』という言葉と重なって、その存在が心にドスンと落ちてくる。姪っ子は陶芸の道に進んでいて、ものを作る同じアーティストとして、その言葉から一歩、いや半歩進むきっかけをもらえたのかなと思います」

画像5

本作の大きな見どころ、ミニシアターで永瀬の躍動を見てきた映画ファンにとって見逃せないのが、永瀬とオダギリジョーの共演である。オダギリは、精神を蝕まれ、ゆっくりと死に向かっていく達也の弟・章人を演じているが、永瀬はオダギリとの決して多くはない、回想シーンでの共演に「心が震えた」という。

「これまで、同じ作品に出たことはあったし、離れた距離で芝居をしたことはあったけど、ここまでがっちりと共演したのは、これがほぼ初めてだったんです。だから僕自身、ものすごく楽しみにしていて。一緒のシーンを撮ったのは、名古屋の監督のお宅、つまり弟さんが実際に亡くなられた家でした。章人が部屋に籠もっていて、僕はドアを蹴破って入っていき、背中越しに対峙するんですけど、オダギリくんは撮影のずいぶん前から、部屋に入ったまま出てこないんです。しかも、彼の背中越しに演技するので、撮影のあいだ一切、オダギリくんの表情が見えないんです。見えないんだけど、一緒にいてゾクゾクしましたね。章人があそこに本当にいるんです。あのとき、オダギリくんが涙を流していることも撮影中は僕にはまったく見えてなかったんですけど、それでもビンビン何かが伝わってきて、震えましたね」

画像6

こうした心を震わせてくれる共演者やスタッフとの出会いこそ、永瀬が映画に出続ける理由だという。達也は弟の死の重さに耐えかね、シャッターを押せなくなってしまうが、永瀬自身は「演じられない」という状態になったことは一度もないという。むしろ「そこで立ち止まってしまったら、もう前に進めなくなってしまう気がする」という。そんな、話の流れの中で、話してくれたのが恩師・相米慎二監督の話である。1983年の永瀬のデビュー作「ションベン・ライダー」を手がけた相米監督は2001年、最後の作品となった「風花」の公開から数カ月後に肺がんでこの世を去った。

「相米さんも本当に急にこの世を去ってしまって、そこに僕は全然向き合えていない気がしています。最後の現場の陣中見舞いに行った時に、相米さんが『次はチャンバラをやりたい』と言っていたんです。『チャンバラはいろいろめんどくせぇから、気心の知れた役者を使いたいんだよ。お前もそろそろ、いいんじゃねぇか?』って。僕は『ションベン・ライダー』の時に相米さんから一度もOKをもらえなくて『ま、そんなもんだろ』だけだったんです。だから僕はいつか相米さんに『OK』をもらえる役者になることが目標で、相米さんの言葉を聞いて心の中では小躍りしていたんです。それがプツっと切れてしまって、それをずっと引きずっているんですよね。永遠に『そんなもんだろ』の役者になってしまって、そこを越えたいけど越えられない。相米さんだけでなく、そういう方はたくさんいます。この映画でご一緒した木内(みどり/2019年逝去)さんもそうだし、樹木(希林)さん、田中邦衛さんもそう。まだまだご一緒したかったのに…という思いはずっと残っていますね」

画像7

後悔や喪失、悲しみを抱えつつ、それでも、ゆっくりと前に進んでいく。昨年、54歳を迎えて、相米監督の享年(53)を上回った。年齢を重ねると「いろんなところにガタはきますけど(苦笑)、それはそれで楽しい」とも。

「一度きりの人生なので楽しまなきゃダメだなと。死ぬまで現場にいられたらいいですね。まあ現場で死んだら迷惑かけちゃいますけど(笑)。そうやって旅は続いていくんだなと思うし、役者としてもまだまだですから。ようやく一歩目を踏めたかな? という感じです」

若い世代への思いを尋ねると「素直に楽しいです」という言葉が返ってきた。“優しく見守る”というよりも“勉強させてもらっている”というのが永瀬の基本姿勢である。

「もちろん、同世代や先輩の人たちとお会いして改めて発見があったりもして、それはそれで楽しいんですけど、若いジェネレーションの方とご一緒すると勉強になるんですよね。以前、園子温さんの作品で、現場のスタッフのほとんどが公募のボランティアだったことがあって、高校生の女の子がいたんです。その子が『映画を作りたいんです。出てほしいんです』と言うので、その場で『いいよ』って。どんな映画を作りたいのか? と聞いたら自分自身に置き換えて、母と娘の話を撮りたいと。それは実は僕自身、すごく興味のあるテーマでした。若いジェネレーションの子が、自分というフィルタを通して親子という関係をどのように見ていて、どう表現するのか? それ以外にも、大学のゼミの作品に呼んでもらったこともありましたけど、この子たちはどんな表現をするのか? という興味が勝ってしまうんですね(笑)。それで、実際にやってみると、僕のほうが受け取ること、勉強させてもらえることが多かったりするんです。そういう現場は楽しいですねぇ」

画像8

自身が若い頃は“とがっている”と言われた。「いやぁ、意味わかんないですけどね」と笑いつつ、むしろ、いまの若い世代の持つ“素直さ”に頼もしささえ感じていると語る。

「彼らは自分の気持ちに素直で、自分が欲するものをきちんと具現化していく行動力もありますよね。それはうらやましいなと思うし、見習わないといけないなと思います。それこそ僕らが若い頃は『そうは言っても、そんなことできねぇだろ』と思いながら、なんとかしてやってきた、そんな世代。いまの子たちは、環境が変わったところもあるかもしれませんが、どんどん自分のやりたいことを実現していきますよね。自分で企画したり、プロデュース、監督もやったり。素晴らしいと思います。それこそ、オダギリくんは監督としても素晴らしいですよね。すごい役者さんなので、もちろんお芝居も続けてほしいけど、できるなら数年に1本でいいので監督をしてほしい。斎藤工くんは映画館のない地域に映画を届けようって活動もしているし、山田孝之くんも自分で監督やプロデュースをしている。周りの理解を得るということも含めて、形にするってすごいことだし、それを見てさらに下の世代が育っていく。彼らに僕らが感謝しているし、僕らも頑張らなきゃって思っています」

永瀬正敏 の関連作を観る


Amazonで関連商品を見る

関連ニュース

映画.com注目特集をチェック

関連コンテンツをチェック

シネマ映画.comで今すぐ見る

aftersun アフターサン

aftersun アフターサン NEW

父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。

HOW TO HAVE SEX

HOW TO HAVE SEX NEW

ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。

愛のぬくもり

愛のぬくもり NEW

「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。

痴人の愛 リバース

痴人の愛 リバース NEW

奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。

卍 リバース

卍 リバース NEW

文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。

蒲団

蒲団 NEW

文豪・田山花袋が明治40年に発表した代表作で、日本の私小説の出発点とも言われる「蒲団」を原案に描いた人間ドラマ。物語の舞台を明治から現代の令和に、主人公を小説家から脚本家に置き換えて映画化した。 仕事への情熱を失い、妻のまどかとの関係も冷え切っていた脚本家の竹中時雄は、彼の作品のファンで脚本家を目指しているという若い女性・横山芳美に弟子入りを懇願され、彼女と師弟関係を結ぶ。一緒に仕事をするうちに芳美に物書きとしてのセンスを認め、同時に彼女に対して恋愛感情を抱くようになる時雄。芳美とともにいることで自身も納得する文章が書けるようになり、公私ともに充実していくが、芳美の恋人が上京してくるという話を聞き、嫉妬心と焦燥感に駆られる。 監督は「テイクオーバーゾーン」の山嵜晋平、脚本は「戦争と一人の女」「花腐し」などで共同脚本を手がけた中野太。主人公の時雄役を斉藤陽一郎が務め、芳子役は「ベイビーわるきゅーれ」の秋谷百音、まどか役は片岡礼子がそれぞれ演じた。

おすすめ情報

映画ニュースアクセスランキング

映画ニュースアクセスランキングをもっと見る

シネマ映画.comで今すぐ見る

他配信中作品を見る