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「ウディ・アレン追放」著者・猿渡由紀氏に聞く 公正な視点で執筆して覚えた違和感の正体

2021年6月5日 12:00

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6月10日に発売
6月10日に発売

米ロサンゼルスをベースに活躍する映画ジャーナリストの猿渡由紀氏が執筆した「ウディ・アレン追放」(文藝春秋刊/税込1760円)が、6月10日に発売される。全米を騒然とさせたウッディ・アレンミア・ファローの愛憎劇を、公正な眼差しで分析し、切り込んだノンフィクションに仕上がっている。

同書は、「二度の結婚と二度の失敗」「ダイアン・キートンと17歳の少女」「ミア・ファローと子供たち」「スンニと禁断の愛」「八月四日とマスコミの大騒ぎ」「刑事捜査と親権裁判の行方」「ディランの叫びとローナンの台頭」「モーゼスの告白とアマゾンの裏切り」という8章で構成されている。アレンとファローは米映画界きってのおしどりカップルとして知られていたが、1992年に状況が一変する。ファローの養女スンニとアレンが男女の仲となり、さらに当時7歳だったファローの養女ディランへの性的虐待容疑で、アレンはファローに告発される。

この騒動は、全米はおろか世界中で報道されたが、アレンは証拠不十分で無罪となり、その後も精力的に映画製作を続ける。しかし、アレンとファローのあいだに生まれた息子、ローナン・ファローが父の人生を破滅へと追いやることになる。ローナンはニューヨーカー誌でハーベイ・ワインスタインのセクハラ疑惑を暴き、ピューリッツァー賞を受賞。「#MeToo」運動に火をつけた立役者として評価を上げていく一方で、アレンは映画界を追われることになっていく……。

猿渡氏が本書を執筆するに至った経緯は「あとがき」に記述されているが、1冊の書籍にまとめるうえで猿渡氏を駆り立てた最大の原動力はどのようなものだったのだろうか。

「ウディ・アレンが『#MeToo』男なのかどうか、ということについては、はっきりわからないという人が大半だと感じたからです。例えばハーベイ・ワインスタインは完全に真っ黒。疑いの余地もありません。捜査で有罪とされたロマン・ポランスキーも同様。しかし、ウディはわからないのです。彼は、捜査では無罪となっています。ですが、娘のディラン・ファローは被害を訴えています。被害者女性を信じるのは鉄則で、私ももちろん基本的にはそうです。しかし、ウディの息子で、事件が起きたとされる日に現場にずっといたモーゼスは、『事件はなかった』とはっきり言っているのです。彼は黒なのか、白なのかを、なんとなく決めつけてしまうのでなく、探ってみたいと思いました」

本書はジャーナリスティックな視点で、どこまでも公正な立ち位置で紡がれている。パートナーの養女と男女の仲になってしまうアレンには、弁解の余地などどこにもない。だが、実子に愛情を注ぐ一方で養子に迎えた子どもたちに虐待の疑いが持たれているファローも、清廉潔白とは言い難い一面がある。猿渡氏は、この一連の騒動のなかでどこに違和感を覚えただろうか。

「まさにおっしゃる通りで、どちらも潔白ではありません。そこを説明したかったので、核心の部分(事件)に入る前に、ふたりの過去を説明しました。ウディは過去の結婚の間にも不倫をしていますし、40代の時に17歳の少女と肉体関係をもったりしています。そもそも、恋人の娘に手を出すなんて、信じられないことです。だから彼は批判されて当たり前なのですが、年齢差について言うなら、ミアも最初の結婚相手は30歳も年上のフランク・シナトラで、つまり同じこと。それに彼女の2番目の夫は、知り合った時、既婚者だったのに奪いました。また、ミアとウディの実の子であるローナンは、もしかしたらシナトラの子供かもしれないとミアは示唆しています(実際、ローナンの顔はウディよりシナトラに似ています)。何事にも背景というものがあるわけですが、この騒動も、そこだけ切り離して見ることはできず、そこに至った要素を見る必要があると思いました」

真相は当人たちしか知り得ないが、ひとつの家族を完全に崩壊させてしまったという事実だけが残る。猿渡氏が本書を通し、読者に最も伝えたかったことを聞いてみた。

「日本に限らずアメリカでも、あの騒動についてしっかり知識を持っている人は多くありません。たいていの人は、よくわからないと思っているはずです。それは業界も同じ。『#MeToo』の流れでウディ・アレンは失業に追いやられてしまいましたが、『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』を配給しないと決めたアマゾンですら、ほかのウディの映画は今も配信しています。HBOも同様。ウディは『やった』と決めつけるドキュメンタリーを放映していながら、彼の別の映画も配信しているのです。みんなどっちつかず、なのです。『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』が日本公開される時に、『アメリカでは上映されなかったものを日本が上映するのは良いことなのか?』という声も聞きました。それが本書を書いたきっかけになったのですが、それは情報をできるかぎり得た上で、読者の方それぞれに判断していただきたいと思いました。そしてまた、これはギリシャ神話のような悲劇だなとも思います。家族を分断させた、その答を本当に知るのはふたりだけ。そしてそれは墓まで持って行かれるのでしょう」

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