【コラム/細野真宏の試写室日記】20年公開作興収世界一「鬼滅の刃」配給アニプレックス最新作「FGO 後編」のポテンシャルは?
2021年5月14日 11:00
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映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
先週の予想通りの展開(https://eiga.com/extra/hosono/122/)となり、遂に「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、5月10日に2020年公開作品で「世界興行収入1位」となりました。
この快挙を成し遂げた背景の一つに配給のアニプレックスの戦略の上手さがあったのは間違いないと思います。
そんなアニプレックスが、この緊急事態宣言下で新作の公開延期が相次ぐ中、「劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 後編 Paladin; Agateram」を5月15日(土)から公開することを決定しました。
ただ、課題になりそうなのは、アニプレックスが得意とする「入場者特典」ですが、これは配給会社によって判断が分かれる結果となっています。
3月8日公開の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の第3弾となる入場者特典【ミニポスター】は、5月15日(土)から全国の劇場で100万部を配布することが5月10日に発表されました。
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その一方で、アニプレックスの新作「劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 後編 Paladin; Agateram」については、5月11日に、【都府県境をまたぐ移動を伴わずに劇場へ足を運んでいただける時期】が来るまで入場者特典の配布をしないと発表したのです。
これは正直、意外な判断でした。
どちらの作品もコアなファンは多いので、いくら「休業を継続する劇場については、営業再開次第の配布を予定」としても「都府県境をまたぐ移動」は、確実に起こるでしょう。
そのため、入場者特典の実施は、確実に「都府県境をまたぐ移動」を促進させます。
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私の感覚では、3月8日公開の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」より、5月15日(土)公開の「劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 後編 Paladin; Agateram」の方が、配給会社にとっては入場者特典の意味が大きいと思うので、判断は逆になるだろうと想定していたのです。
というのも、3月8日公開の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は公開時に第1弾の300万部の入場者特典、3月27日に第2弾の100万部の入場者特典の効果もあり、すでに興行収入83.5億円を突破し「庵野秀明監督作品の新記録」までの大ヒットを記録しています。
その一方で、5月15日公開の「劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 後編 Paladin; Agateram」については、入場者特典を付けないと初速が大きく落ち込む可能性が高く、トータルの興行収入も落ち込むことが容易に想像できるからです。
この「配給会社による対応が分かれたこと」に対する価値判断はしませんが、「劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 後編 Paladin; Agateram」が不利になってしまうのは避けられないでしょう。
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そこで、今回は、「劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 後編 Paladin; Agateram」の作品の魅力について解説します。
まず、「劇場版 Fate/Grand Order」は、「Fate」シリーズの最新作で、2015年から始まり今や全世界で5900万ダウンロードを突破している人気のスマートフォンゲームがベースとなっています。
そして、12月5日(土)から「劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 前編 Wandering; Agateram」が公開されました。
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この「前編」と「後編」の大きな違いは、制作会社にあると思います。
どちらの作品も「Production I.G」によるものでしたが、「前編」は「SIGNAL.MD」という「Production I.G」の子会社が制作をしていたのです。
そして、本作の「後編」は「Production I.G」本体が制作しています。
そのため、正直に言うと、両作品の完成度に違いが生じています。
「SIGNAL.MD」が制作した「前編」については、良い面で言うと、作画が安定していて、納得の完成度ではありました。
ただ、アクションシーンが弱い面があったりと、どこまで劇場映えするのかは不安もありました。
それもあってか、興行収入的には、期待していたほどは伸びずに終わってしまいました。
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そして、「Production I.G」本体が制作した「後編」ですが、こちらは冒頭の「マシュVSランスロット」の戦闘シーンから、かなり完成度が高いです。
特にこのシーンは、構図のダイナミックさも含め、かなり力量のあるアニメーターの作画だと思われます。
一方、総作画監督などの変更もあってか、全体を通して、作画は必ずしも安定していません。
これは、新型コロナウイルスの影響により制作に余裕がなかったことも関係があるのかもしれません。
ただ、良く解釈すれば、アニメーターの個性をつぶさないように、自由にそれぞれのアクションパートを担当しているようにも見えます。
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では、「前編」と「後編」では、どちらが面白いのかと言うと、私はダントツで「後編」だと思っています。
「前編」は仕組み上、仕方のないことですが、イントロ的な内容であったことに加えて、作画にパワーが欠けていたと思います。
その一方で、「後編」では、「前編」でのイントロが終わっているので、物語や登場人物が終息に向かって派手に動き回るからです。
本作の主役である「ベディヴィエール」の存在も含めて、「前編」の際には疑問が多くありましたが、ようやく「後編」で様々な疑問が解消されていきます。
それぞれの登場人物に終止符がキチンと打たれていき、なぜ本作の“第6「特異点」(時空が異なる領域)”が「最も人気の高いエピソード」となっていたのか、やっと納得がいきました。
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このように、本来的には「後編」は出来が良いので巻き返しが可能になるはずですが、緊急事態宣言の影響で東京と大阪という2大都市での映画館が休館してしまっている状況はかなりのダメージとなります。
というのも、元々が170館規模と、そこまで大規模公開ではないのですが、大きめのシネコンでの公開が多く、東京と大阪だけで40館規模の公開ができなくなっています。
さらに、東京と大阪では、人口自体も多いのですが、「人口以上に映画館に行く割合が高い地域」のため、この2大都市のダメージは相当に大きいものとなることが想定できます。
ただ、新規公開作品が映画館から減っていくと、全国の映画館のダメージは、より大きくなっていきます。
それもあってか、このような不利な状況で、しかも、【都府県境をまたぐ移動を伴わずに劇場へ足を運んでいただける時期】が来るまで入場者特典の配布をしないという決断までした上で公開を決定しています。
この流れでの危惧は、緊急事態宣言期間までに力尽きて、入場者特典などが機能しなくなる事態です。
何とか緊急事態宣言期間を乗り越え、無事に本作「劇場版Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 後編 Paladin; Agateram」の入場者特典が機能する日が来ることを願いたい状況です。
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劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 後編 Paladin; Agateram
劇場公開日 2021年5月15日
上映時間 96分 (G)
評価・レビュー (48件)
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