元祖バイプレイヤーズの田口トモロヲ×松重豊×光石研×遠藤憲一、大杉漣さんを追い求めながら更なる高みへ
2021年4月8日 19:00
精神的支柱でもあったリーダー不在の穴は埋められない。だからこそシリーズの継続には懐疑的で、さまざまな葛藤もあった。それでも田口トモロヲ、松重豊、光石研、遠藤憲一はドラマのシーズン3「バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~」、そして映画「バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら」で顔をそろえた。4人それぞれが大杉漣さん(享年66)への寂寥(せきりょう)感を抱えつつも、共通していたのは次世代へ継承するという思い。さらに松重からは、今後の展開について全員納得の妙案も飛び出した。(取材・文/鈴木元)
大杉さんが急逝したのは18年2月、ドラマのシーズン2「バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~」の撮影終盤だった。ドラマは脚本を変更するなどして最終話まで放送されたが、残された4人にとってはシリーズの終えんを意味するものでもあった。それだけに映画化へのアプローチにも否定的な見解しか浮かばなかった。
田口「元祖バイプレイヤーズとしてはなかなか立ち上がれない気持ちでいたら、企画が通りました、(配給が)東宝さんでと周りを固められてしまって、重い腰を上げざるを得なかった」
松重「大杉さんを失って、4人で以前のようなことはできない。無理という答えしか出なかった。奇跡的にこういう展開になって、参加させていただくしかないという気持ちにならざるを得なかった」
光石「さあ、もう1回という気持ちにはさすがになれなかったけれど、周りの皆さんが頑張ってくれてこういう形にしていただいたので、参加しない理由がなかった」
遠藤に至っては、はっきりと拒否の姿勢を示したほどだ。
「漣さんはいないし、絶対に無理だと思っていたのでイヤだって言ったの。それでは済まされない状況になったから1日だけだったらいいですと。どういう形で出たいか聞かれたので、ふと思いついてフィリピンに行っちゃっているのはどうですかと言ったら、それでいいということになった」
1月にスタートしたドラマ、映画とも舞台は郊外にあるスタジオ・バイプレウッド。既に関係性のでき上がっている4人は事前に打ち合わせをすることもなく、自然に撮影へと溶け込んでいく。
松重「4人でいるとそこで空気ができちゃうので、何もないままカメラを回してくれた方がそれっぽく画(え)には収まると思う。遠藤さんのスケジュールが取れないという噂は回ってきても、暇だったら来ればという感じ(全員爆笑)。それが楽しいし、本人役で役と本人の境目のあいまいさも含めたものものがこの作品の面白味ですから」
光石「皆がなんとなく自分のポジションに入って、サッカーに例えると誰かが(前線に)上がると誰かがディフェンスに回るようなことを自然にやっている気がすごくするんです」
映画は4人に加え小沢仁志、近藤芳正、津田寛治、渡辺いっけいら“おじさんバイプレイヤー”たちが入り乱れる列車の銃撃シーンで幕を開ける。クエンティン・タランティーノ監督の「レザボア・ドッグス」のパロディで、これがベースとなる番組「小さいおじさん」へとつながっていく。
遠藤「何をやっているのかさっぱり分からなかったし、どういうふうになるのかも全く分からなかった。指示されるままにやっていたけれど、そこで一生懸命やっているのが楽しいんですよ」
光石「特にグリーンバックのところは全然分からなかった」
松重「クランクインが、鉛筆を持たされるシーンだったから」
田口「何が面白いの?と思いながらも、やっていくうちにどんどん楽しくなっちゃう」
撮影所内の食堂が「さざなみ(漣)庵」、映画のカギを握る撮影所長が飼っている犬の名前も大杉さんの愛犬と同じ「風(ふう)」など、随所に大杉さんへのオマージュがちりばめられている。だが、田口は複雑な表情を浮かべる。
「漣さんの不在に関しては、正直に言ってまだ消化しきれていない。4人で顔を合わせるといろいろと思っていたことが吹っ飛んですごく楽しい状態になるんですけれど、ふとした瞬間に漣さんがいたからやっていたということに気づいてしまうと心の中に寂しい風が吹く。だから僕は、客観的に見られる余裕はなかったですね」
17年のドラマ第1作「バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」では、撮影後は当たり前のように居酒屋に集まってミーティング。いいアイデアが出るとその場でプロデューサーや演出家に連絡して脚本を修正することもあったという。
田口「おじさんたちの加齢臭がするような、たたずまいだけのドラマの方が面白いといったアイデアをたくさん出して、脚本もどんどんセリフを間引いてもらったりして、1、2ですごくいい戦いができたんです。だから3をやるとなった時に、僕にとっては続編ではないなと思った。新しいバイプレイヤーズという独立したものと考えて、そこでの我々の役割は次の人たちにバトンを渡すことなんだろうと納得してやりました」
光石「バイプレイヤーズは漣さんありき、それがなくなったらもうあのバイプレイヤーズはできないという思いは皆にあったと思うんです。だから今回の映画はバトンを渡す映画だったかもしれないですね」
映画は濱田岳が監督し、主役は風、柄本時生、役所広司が出演し菜々緒、芳根京子、高杉真宙がスタッフで参加する自主映画「月のない夜の銀河鉄道」の撮影がさまざまな騒動を巻き起こしていく。映画化は、大杉さんが強く望んでいたとされる。
松重「昔から映画を支えてきたメンバーが一つの作品でリーダーシップを取れるようになり、それが永遠に続くものとして残す一つの方法として映画化というものがあったと思うんです。大杉さんが生きていたら次の展開を考えていたかもしれないし、本当に大杉さんに委ねているところがあった。今回の映画に関しては若い人たちがメインで出ているので、その人たちが映画を支えていけば大杉さんにとってもいい弔いになる。僕らだけになってしまうと、どうしても面影を追ってしまいます。精神だけは誰か次の世代に託したぞというところがあればそれでいいと思います」
光石「4人で集まると、漣さんのことになってしまうんです。今回は昔、Vシネマで漣さんと一緒だった人も、全然知らない若い人もいっぱい出ていて、現場ではその気持ちを緩和していただいたんです」
遠藤「漣さんがいたらどういう形になったのかなと思うし、スタートを切る時に4人で会って『今回はどうする?』って話してからやってみても面白かったかもしれないですね。後の祭りなんだけれど」
光石「そう思うけれど、一番イヤがっていたじゃない」
ドラマで登場する各局のドラマのメンバーも顔を出し、バイプレウッドの買収問題が持ち上がると天海祐希が率先して真相を探る。主役級も加わって、まさに役者たちの華やかな宴が繰り広げられる。本当に100人いるか、数えながら見るのも一興かもしれない。
田口「コロナ禍だから100人集められたと思っているんです。ほかにはないお祭り映画になっているので、いやされていただけたら」
光石「多分、このメンバーが集まって映画を撮ることは二度とないと思うので、ぜひ楽しんでいただきたい」
遠藤「普通の人がやると成立しないだろうというシーンも、達者な人たちばかりなので生きてくる。そこを楽しんでもらえればいいんじゃないかな」
ひとつの集大成ともいえる映画化。大杉さんが亡くなって3年、バイプレイヤーズはこの先、どこに向かうのだろうか。
松重「大杉漣さんがつくり上げた、バイプレイヤーと言われている人たちが実名をさらしながらリアリティとウソの入り混じった日常を淡々と描くというフォーマットが残ればいいと思うんです。30代や40代、女性版のバイプレイヤーズがあってもいい。韓国版、フランス版、中国版などが作られても面白いですね。ただその時に、僕たちは元祖の特権として1シーンだけ出していただく。このコンテンツでいかに遊んでいただくかということは大杉さん発祥ですから、僕らが見届け人として出させていただきます」
光石「いいですね。元祖だから、ちょっと偉そうにできるようにしてもらって」
田口「来たら面倒は見るけれど、来るまでは自腹ってなったら? そこは“呑(の)ミーティング”だね」
光石「嫌がらないでよね」
遠藤「1シーンならいいよ」
ここで再び全員が爆笑する。1人が発言すると、気兼ねなく合いの手を入れたりツッコんだり…。これぞ長年にわたりライバル、盟友として日本映画を支えてきた元祖だからこその空気感。4人は大杉さんの影を追い続けながらも、前に進んでいく。
遠藤「漣さんがいなくなってシリーズが成立するのかなって思っていたけれど、終わってみたら漣さんが敷いてくれたレールをこの先もずっと進み続けることが可能なのかなと感じました」
田口「それぞれが『またどこかの現場で』と言って別れるので、そういう出会い、チャンスはきっとあると思います。ただ、皆もう伸びしろがないんで。この年代で健康っておかしいし、ある程度不健康でないといい芝居はできないんだから」
光石「名言だなあ。なんとなく分かります」
自虐ですらポジティブに感じさせる、元祖バイプレイヤーズの矜持(きょうじ)が垣間見えた。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
時代は変わった。映画は“タテ”で観る時代。 NEW
年に数100本映画を鑑賞する人が、半信半疑で“タテ”で映画を観てみた結果…【意外な傑作、続々】
提供:TikTok Japan
年末年始は“地球滅亡” NEW
【完全無料で大満足の映画体験】ここは、映画を愛する者たちの“安住の地”――
提供:BS12
【推しの子】 The Final Act NEW
【忖度なし本音レビュー】原作ガチファン&原作未見が観たら…想像以上の“観るべき良作”だった――!
提供:東映
オススメ“新傑作”
【物語が超・面白い】大犯罪者が田舎へ左遷→一般人と犯罪、暴力、やりたい放題…ヤバい爽快!!
提供:Paramount+
外道の歌
強姦、児童虐待殺人、一家洗脳殺人…犯人への壮絶な復しゅう【安心・安全に飽きたらここに来い】
提供:DMM TV
全「ロード・オブ・ザ・リング」ファン必見の伝説的一作
【超重要作】あれもこれも出てくる! 大歓喜、大興奮、大満足、感動すら覚える極上体験!
提供:ワーナー・ブラザース映画
ライオン・キング ムファサ
【全世界史上最高ヒット“エンタメの王”】この“超実写”は何がすごい? 魂揺さぶる究極映画体験!
提供:ディズニー
映画を500円で観る“裏ワザ”
【知らないと損】「2000円は高い」というあなたに…“エグい安くなる神割り引き”、教えます
提供:KDDI
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。