【「ホムンクルス」評論】進化する綾野剛の左目を通して異様な世界が視覚化される映画的なサイコミステリー
2021年3月28日 11:00
俳優・綾野剛の進化が止まらない。今年1月29日に公開されヒットした「ヤクザと家族 The Family」に続く主演最新作「ホムンクルス」は、綾野の役者としてのカメレオンぶりを改めて堪能できる作品となっている。役を生きる彼の凄みがスクリーンから伝わってくるのだ。
「ホムンクルス」は、浅野忠信主演で2001年に映画化された「殺し屋1」などで知られる山本英夫による累計発行部数400万部を超える同名カルト漫画を、綾野主演、「呪怨」シリーズなどのヒットで、国内外で活躍し、ジャパニーズホラーの旗手となった清水崇監督のメガホンによって実写映画化したサイコミステリーだ。その独創的な内容から“映像化不可能”とも言われていたが、山本×綾野×清水監督が融合し、化学反応を引き起こすことで映像化を実現した。
頭蓋骨に穴を開けると第六感が芽生えるという“トレパネーション”手術を受けた記憶がない主人公・名越は、右目をつむって左目で見ると、なんと人間が異様な形=ホムンクルスに見えるようになる。この名越が見えるようになる視覚的で、心理的でもある異様な世界を、観客がスクリーンを通して見ることになる二重三重のこの構造は、「見る」という行為においても実は非常に映画的であると言える。
そして、この非現実的な設定と記憶がないという主人公に綾野がリアリティを与えている。名越を演じる綾野の左目から、異様な人間の形と世界が見えていることが伝わってくるのだ。役になり切った立ち居振る舞いや独特な台詞まわしはもちろんだが、極端に言えば左目だけで演じ、この物語世界を成立させていると言っても過言ではない。我々観客はいつしか、綾野の時に憂いを帯びた左目の中に主人公の揺れ動く感情や混乱する頭(脳)の中、彼の記憶、心の闇を見ることになる。冒頭で綾野の進化に言及した所以だ。
名越にトレパネーションを施す研修医を、成田凌が綾野に負けじとサイコに演じたほか、映画オリジナルの役柄“謎の女”を岸井ゆきの、さらに石井杏奈、内野聖陽といった個性派俳優陣が共演。また、「ヤクザと家族 The Family」に続き、常田大希が率いる音楽集団millennium paradeが劇中音楽とメインテーマを担当。清水監督による大胆で独特な映像表現と繊細な心理描写による世界観を彩っているのも見どころ、聞きどころとなっている。
本作が特異なのは、「他人の深層心理が、視覚化されて見える」というビジュアル的な面白さの表現に陥るのではなく、主人公の能力によって、見えているものが果たして現実なのか、それとも覚醒した脳によって作り出された虚構の世界なのか、社会の深部にまで鋭く切り込み、綾野が演じる主人公の狂気とともに、人間の正体に迫っていることだ。見る者の視点や心理によって、見え方が変わる映画かもしれない。
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