【ホラー映画コラム】「アイム・ノット・シリアルキラー」鬱屈した青春物語として観ると超最高な仕上がり
2021年1月23日 20:00
Twitterのホラー界隈で知らぬ者はいない人間食べ食べカエル氏(@TABECHAUYO)によるホラー映画コラム「人間食べ食べカエル テラー小屋」では、“人喰いツイッタラー”が、ホラー映画専門の動画配信サービス「OSOREZONE」の配信中のオススメ作品を厳選し、その見どころを語り尽くす! 今回は、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドク役でおなじみのクリストファー・ロイドが、そのパブリックイメージとは真逆の連続猟奇殺人犯を演じた「アイム・ノット・シリアルキラー」をご紹介。
イヤー寒い! 一歩外に出ると身を切り裂かれそうなほど空気が冷たい。新年1発目は、そんな死ぬほど寒い日に観るのにピッタリな映画「アイム・ノット・シリアルキラー」をご紹介。このタイトルだけで既にロクなことにならなそうと思うだろうけど、ご想像の通りドス黒い闇が広がる作品です。
アメリカ中西部の田舎町で葬儀屋を営む母親と暮らす16歳の少年ジョン(マックス・レコーズ)は、ある大きな問題を抱えていた。死体や殺人に異常なまでの興味を持ってしまうのだ。彼は社会病質者(ソシオパス)であった。一方、町では奇妙で恐ろしい殺人事件が連続して発生。どの死体も切り裂かれ、内臓の一部が持ち去られていた。そのあまりに残虐な事件に、ジョンは強い興味を惹かれてしまう。彼は犯人を知りたいという思いと犯行を止めたい葛藤を抱きながら、一人で事件を追い始める。そうするうちに、ジョンは偶然にも犯行現場を目撃してしまう。そこで彼は、一連の事件を引き起こした連続殺人鬼(シリアルキラー)が、自分の家の隣に住む老人クローリー(クリストファー・ロイド)だと知る……。
シリアルキラーVSソシオパスという設定だけ聞くと、血みどろかつド派手に狂人同士が殺し合う「フレディVSジェイソン」的なスラッシャーアクションなのかなと思うかもしれないが、実際の中身は、残酷なモノや出来事にどうしようもなく惹かれてしまう少年と人を残虐に殺す老人の奇妙な交流を描く人間ドラマである。最初から最後まで冷たく抑えた演出で統一されているため、アグレッシブな展開を期待すると肩透かしを食らうかもしれないが、鬱屈した青春物語として観ると超最高な仕上がりだ。
物語の焦点は、主にソシオパスと診断された少年ジョンの日常にあてられている。ソシオパスの性質に悩まされながらも、何とか普通の生活を送ろうとするジョン。周りには奇怪な目で見られ、母親とも上手くいかない。そんな決して楽しいとは言えない青春生活を、凍てつく景色と共共に丁寧に描写している。そしてある日、連続殺人事件が発生。ジョンが送る辛い日常は、良くも悪くもこれを機に終焉を迎える事となる。
中盤以降は、少年と老人が互いの腹の内を隠しながら続ける交流劇が中心となる。この一連のシーンは、異常なまでの緊迫感があると共に、奇妙だがどこか心が温まるものがある。典型的なジャンル系の枠に嵌らない、異質な雰囲気を堪能できる。
ここで、この殺人おじいちゃん役クリストファー・ロイドが見せる怪演の素晴らしさについて触れておきたい。ロイドと言えば、皆さんご存じの通り「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドクを演じた超ベテラン俳優だ。ジャンル問わず数多くの作品に出演しているが、特にこのドクのイメージが強烈なため、なんとなく昔から陽気かつ優しいおじいちゃん的なイメージを持っている人も多いと思う。
本作でも、表向きは妻を気遣い、常に穏やかな表情を浮かべている。その姿はパッと見はいかにも優しい老人という感じだが、一旦本性を見せるとガラッと人が変わる。いたいけな少年にマジのトーンで剥き出しの殺意を突き付ける様は、完全に殺人鬼にしか見えない。その時の表情の凄みといったら!! 豹変したロイドが獣のような唸り声をあげながら容赦なく人を惨殺する場面も、彼の普段のイメージも相まって、かなりショック度が高い。意表を突き、それでいて完璧にハマっている見事なキャスティングだ。それにロイドも見事に応えている。
やがて、二人の何とも言い難い関係性に、突如としてすさまじい方向転換を持って終止符が打たれる。初見時は、このラストは本当に予測することが出来なかった。きっと多くの人があっけにとられたと思う。実際、このラストが原因で評価を下げているレビューはいくつもある。だが、冷静に見返してみると、決して本作が迷走したわけではないことが分かる。よく見ると終盤の展開に繋がるヒントは明確に出されているし、テーマ自体は最初からブレていない。タイトルである「アイム・ノット・シリアルキラー」は、最初こそソシオパスである少年の葛藤を現したタイトルかと思ったが、実はもう一つ意味があることに気づかされる。最後までどこに転がるか分からない異様なストーリーを締めくくる、見事なラストであったと思う。
青春という言葉を聞くと、ポ〇リスエットのCMに出てくるような爽やか極まりない青空がイメージされるが、本作の青春劇はそんな青に黒をブチまけたような感じだ。劇中、一度も青空は出てこない。日中の曇り空とほぼ夜に近い夕暮れと完全なる夜だけだ。明らかに日照時間の足りないダーク極まりない青春物語。これを観れば気分も冷え込むこと請け合い。とにかく身も心も寒くなるので、暖房の温度をガンガンに上げて鑑賞することをお勧めする。
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