【若林ゆり 舞台.com】衝撃のミュージカル「パレード」で、石丸幹二が再び観客の胸をえぐる!
2021年1月17日 11:00
世に“衝撃作”と銘打たれた作品は数あれど、これほど鮮烈な衝撃を与える作品は稀だと思う。個人的には映画「ジョーカー」を見た時と同じくらいの重みとインパクト、そして魅力を感じ、胸をえぐられるようなショックと感動を味わった。ミュージカル「パレード」は、その華やかなタイトルとは大きくかけ離れた、骨太の社会派人間ドラマ。これは1913年、アメリカ南部のジョージア・アトランタで実際に起こった冤罪事件を題材にした作品なのだ。
脚本を「ドライビング・MISS・デイジー」で知られるピューリッツァー賞受賞作家アルフレッド・ウーリーが、作詞・作曲を「ラスト5イヤーズ」のジェイソン・ロバート・ブラウンが手がけた本作は、2017年に日本で初演された。内容もさることながら、新劇系の「演劇集団円」に軸足を置く気鋭の演出家・森新太郎による斬新な演出で、観客の心をわしづかみに。石丸幹二、堀内敬子をはじめとする俳優陣の充実もものを言って、ミュージカル界のみならず演劇界全体に旋風を巻き起こした“事件”のような公演である。開幕当初、チケットは完売していなかったのだが、千秋楽が近づくにつれ話題騒然となり、立ち見を出したことがクオリティの証明だ。
この作品が、21年1月より再演される。真に見る価値のある「パレード」について、主演の石丸に語ってもらった。
「僕にとってもこの作品は、非常に意義のある、忘れられない体験になりましたね。深いテーマを訴えるのに、ミュージカルがストレートプレイと何ら変わらない、いや、それ以上に演劇的な力があるんだと実感することができた。音楽や踊りといったオブラートに包んで、より鋭いことを突きつけられますから。普通の演劇だったら悲惨すぎて観客を選んでしまうところ、ミュージカルだとより広く一般の方々に見てもらえるんです」
1913年、アトランタで13歳の白人少女が犠牲となる強姦殺人事件が起きた。容疑者として逮捕されたのは、ニューヨークから移住したユダヤ人のレオ・フランク。少女が働いていた鉛筆工場の工場長だ。妻のルシールは夫の無実を証明しようと奔走するが、レオを取り巻く人々の意識と思惑が絡まり合い、レオを追いつめていく。恐ろしいのは人間の悪意や狡猾さだけではなく、善良な人間でさえ最悪の結果を生み出す一助になりうるということ。
「どの人たちの考えをよしとすべきか、どの人たちの考えを悪とするかは、個人によって違うんです。時代も社会背景もありますからね。100年前のアメリカでは、黒人の存在や立場に、南部と北部で歴然たる格差があった。ユダヤ人に対する考え方、ユダヤ人の立場も違う。登場人物の多くに悪気はないし、愚かな判断をしたとも思っていない。ただ、それぞれ置かれている立場がある。上からプレッシャーをかけられたりすると従わざるをえない。政治家や新聞記者もいて、彼らが扇動したためにレオの不幸が起こっているんですけど、それもみんな、よかれと思ってやっていますからね」
陰惨な物語の中にも、光り輝くような救いがある。それはレオとルシールという夫婦の深まりゆく愛情だ。
「日本でも50年くらい前、僕らの親の世代って、恋愛よりもお見合いで結婚する人が多かったでしょう。このミュージカルで描かれているレオとルシールも、どうもお見合いで結婚したという感じがします。お互いをよく知らないまま結婚したふたりが、この事件をきっかけにどんどん絆を深め、お互いを必要とする関係になっていく。そこにあるのは夫婦の成長物語なんですよね。ルシール役の堀内敬子さんと、『その軸はぶれないようにしようね』と話し合いました」
妻役を演じる堀内は、キャリアのスタートを切った劇団四季時代の同期。初演時には、ふたりの17年ぶりの共演も話題となった。
「彼女が劇団四季に入ったのは高校を卒業してすぐの頃。ピカピカの、はじけ飛ぶゴムまりのような存在で(笑)。その時から踊りも素晴らしいし、お芝居の勘も鋭いし、歌も上手に歌うし、感心させられてばかりでした。17年後に円熟味が加わって、硬軟併せもつ業をいっぱい身につけた彼女を『すごい女優になったな』と思いましたね。自分の中で湧き起こるものを、演技の中にどんどん出していくところは、やはり舞台人ならでは。日常はすごくチャーミングで、それが演技の中にも滲んできます。彼女とは劇団四季で一緒に育ったので、俳優としてのメソッドが同じなんですね。なおかつ投げたらポンと投げ返してくれる。お互い、手立てがわかっているし、遠慮なくできるし信頼できる。彼女が相手で本当によかったなと思います」
「パレード」でとにかく度肝を抜かれたのは、演出の斬新さだ。八百屋舞台(傾斜がある舞台のこと)には大きな木が1本、どっしりと立っていて動かない。そして冒頭、南軍戦没者追悼記念日に誇らしげに行進する南軍の帰還兵に降り注いだ紙吹雪。これが、片付かないばかりか終幕までずーっと降り続け、いろいろなものを象徴するのだ。これには演劇の力を痛感させられたが、演じる方は大変なのでは?
「演劇って、リスクを伴う方が刺激的だと思うんです。上から降り続いた紙吹雪は、最後には晩秋の落ち葉くらいに積もります。そこで俳優に何が起こるかというと、自分の立ち位置を示す印が見えない。その上、すごく滑るんです。なおかつ舞台には傾斜があって、さらには盆(劇場の床が円形にくりぬかれ、回転する部分のこと)が回る(笑)。その三重苦、四重苦の中で、何事もないように演じて次の場面へスムーズにいかなくちゃいけない。非常に難易度が高かったのですが、森さんがそのセットと演出に挑んだ結果、最後にすごい効果を生み出したわけで。エンディングも強くて、お客さんがもう、どう心の中で処理していいかわからなくなるような幕切れなんです。初演の時は『森新太郎、勝利!』という感じでしたね。演劇界、ミュージカル界の人たちもたくさん見に来てくれて『頭をハンマーで殴られたようなショックを受けた』『こんなミュージカル作品が日本でも上演できるようになったんだね』など、すごい反応をもらいました」
公演チラシには「まだ終わりじゃない――」という文字が躍っているが、森による演出は、まさに「終わりがない」ものだそう。
「森さんは、稽古中にその場で湧きあがったものを取り入れて、どんどんチャレンジしていく演出家。『よりよくしよう』という思いがそうさせるんでしょう。前回、幕が開いてからも劇場にできる限り来てくださり、そのたびに次の課題を残していかれるんです。普通は幕が開いたらもうそれで決まりですよね。でも森さんはそうじゃない。つねに『まだ何か新しいことができるんじゃないか』と思いながら挑み続ける演出家なんです。僕ら俳優は彼の出してくる課題にどう対応しようかと必死でしたけれど、それが必ずいい効果を生むので、彼を信じて臨みました。僕もそうですが森さん自身、ゴールを決めない人間ですし、情熱の灯が絶えることがない。だからこそ、まだ終わりじゃないと思いましたし、この作品をもう一度世に問いたかった」
今、世の中は激変し、アメリカ社会では「BLACK LIVES MATTER」運動など、相も変わらず人種問題に揺れている。そして世界中でSNSによる誹謗中傷がはびこり、人の命を奪う事件も急増。この作品が訴えるテーマは今、また新しい意味を持つのではないか。
「トランプ政権になってアメリカはずいぶん変わり、民族間の溝はより深まったんじゃないでしょうか。他の国の状況ですけれども、他人事ではない感じがしています。人間ってやっぱり人を区別したり差別したりする生き物ですから。アメリカを知るという意味でも意義があるし、人間という存在の脆弱さを我々に訴えかけてくる作品だと思います。日本でも顔の見えない中傷が増えたと思います。差別や分断の問題は、レオ・フランクが生きた100年前と何ら変わっていないんです」
再演がこのコロナ禍という時代に重なったが、「僕らが今、これをやる意味はあると思う」と、石丸は言う。彼自身、舞台生活30周年を迎えた今年、中止になったステージも多く「人が生きるために必要ではないこの仕事が真っ先になくなるのでは」と、不安を感じる日々を過ごしたそう。それでも「待っていてくれる人がいる」ということだけは信じられた。
「今、劇場に足を向ける決心がつかない人がいるのもよくわかります。でも、もし劇場に来られる条件を揃えられたなら、迷った末にもし見てくださったなら、きっと演劇の力を感じていただけるはずです。必ず心に『なぜ?』『自分ならどうしていた?』という問いが生まれると思うので、ぜひその答えをご自分の中で出してほしいと思います」
ミュージカル「パレード」は2021年1月15日~31日に、東京芸術劇場プレイハウスで上演される。以後、大阪、愛知、富山公演あり。詳しい情報は公式サイト(https://horipro-stage.jp/stage/parade2021/)で確認できる。
このインタビューの後、1月2日に石丸幹二を含む公演関係者2名の新型コロナウィルス感染が確認され、全員がPCR検査を受けた結果、4日にはさらに2名の感染が確認された。いずれもその後の経過は良好で、石丸は10日に稽古復帰。しかし保健所・医療機関の指導に基づき、15日の初日から17日の昼の回(12時30分開演)まで4公演の中止を発表した。その後、新たに17日の夜の回(18時開演)から公演が実施されることが決定。今後のスケジュールや、中止された公演のチケット払い戻し方法などは、公式サイトで確認できる。
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