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「ミッドナイトスワン」内田英治監督&森谷雄プロデューサー対談・後編/オリジナル映画の成功が意味すること

2020年12月30日 10:00

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内田×森谷コンビはまだ続く
内田×森谷コンビはまだ続く

内田英治監督が脚本も兼ね、草なぎ剛を主演に迎えたオリジナル映画「ミッドナイトスワン」が、観客動員50万人、興行収入6.9億円を突破するスマッシュヒットを飾っている。リピーターが続出するほど熱い支持を得た今作がいかにして誕生し、いま、どのような光景が作り手たちの目線には映っているのか、内田監督と森谷雄プロデューサーに話を聞いた。2時間以上にわたる対談となったため、3回に分けて展開していく。今回は第3弾となる後編をお届けする。

前回の中編では、日本映画の型について話題が及んだが、「ミッドナイトスワン」がここまで評価されている理由のひとつに、オリジナル作品であるということが挙げられる。監督、プロデューサーとして、オリジナルの企画に対する思いを聞いてみた。

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内田「僕は原作ものをやったこともありますし、オリジナルじゃなきゃ絶対に嫌だというわけではありません。ただ、原作ものは単純に悔しいですね(笑)。描くものが決まっているわけですから。僕は撮影以上に脚本を書いている時の方が楽しいので、必然的にオリジナルにいくんです。今回はノベライズで小説も発表しましたが、発行部数は8万部にまで伸びました。日本の型は原作重視ですが、オリジナルで小説も出して逆に型にはめていくことも可能なんだなと思いました。原作ものじゃなければ企画が通り難いんだったら、オリジナルで原作を書けばいいじゃんということ。オリジナル=当たらないという刷り込みを解除したい一心ですよ。売れなくてもオリジナルをやらなきゃいけないんだ!というのも違う。やはり多くの人に見てもらい、次に繋げなければ意味がないんです」

森谷「オリジナルに対するこだわりは、もともと強いです。それは、一番いい時期にフジテレビで連ドラ(『沙粧妙子-最後の事件-』『天体観測』など)を作れていたから。オンエアできる枠の中で、何を作るかは局の色が出せた。基本的にオリジナル作品でしたし、脚本家さんと一緒に原作のないものを作っていくという時代でした。それが映画をやりたいということで、映画業界に自分を移してやり始めたら『原作がないと映画なんか作れないよ』みたいな雰囲気が既にありました。それでも、オリジナルでやりたいと思ってきた。今回のようにオリジナルでヒット作を生み出せたならば、それを突破口として作り続けなければいけない。内田さんとも、次にオリジナルで何を作っていくかということを意識しなくてはいけないと思っています」

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「オリジナルの方が金になるよっていうのを流布しようかな」と笑う内田監督だが、その裏には小説家や漫画家に対するリスペクトの念がある。日本の小説、漫画のクオリティの高さを挙げ、愛読するものがあることも認める。だからこそ、「原作ものを取り敢えず買い漁るようなやり方は、原作者に失礼な気がするんですよ。やはりそこは強い意志を持って、その原作を映像化する人がやるべきじゃないですかね」と持論を展開する。

一方で、森谷氏は業界全体にも目を向ける。「日本映画がいま、ガラパゴス化しているじゃないですか。ドメスティックな産業として、それが成立してしまっている。国民約1億2500万人のうち、何パーセントかが見てくれればOKという作り方、届け方をしてきたから、日本映画の価値が落ちてしまうのは当たり前の話です。隣の韓国は人口5000万人ほどなので、自国だけではビジネスが成立しない。海外に打って出ても負けない作品をオリジナルで作らないといけないという強靭さとの違いでしょうね」。

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ミッドナイトスワン」のヒットもあって、2人にも徐々にではあるが、変化を体感する出来事があったようだ。

内田「最近、急に色んな人から連絡がきて感じたんですが、『何か企画ない?』って聞かれることは今までなかった。『何か原作ない?』はあったけれど、企画ということは、オリジナルということですよね。そんな事は今までなかった。これが広まっていく方が、絶対に面白い映画が生まれていきますよ」

森谷「かつて業界を牽引していたテレビが、いまは後追いのメディアになってしまった。いまは映画が後追いになりつつあります。『こういう話をやりたい!』と思いついた時に、『これに近い原作はないかな?』という発想、終わっていますよね。これをオリジナルとして構築していいんだという土壌、業界のシステムを見直さないとまずいです」

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内田「変革の時期ですよね。だってもう、飽きましたよ(笑)。邦画の出口のない長い道筋。最近の若い子たちの作品を見て思ったのは、凄く狭い世界しか描いていない。それは、上に夢を持てないからだと思うんです。映画っぽいストーリーがまるでなく、半径3メートル映画。きっとオリジナルで大きいイメージのものを諦めているんですよ。大きいものといえば売れている漫画か小説しかないって、悲しすぎる。みんな映画が好きで始めたはずなのに、これでは若い子たちがかわいそうですよ」

森谷「内田さんも『下衆の愛』とかインディーズをガツっと手掛けてきて、その流れが今に繋がっている。『ちょっと待て、原作ものじゃないと勝負できないなんてことはないよ』という方向に進んでいくといいなあ。インディーズで撮りたいものを撮っている人たちって、僕からすると宝の山。メジャーの偉い人たち、この箱を開けてみません? と思っちゃう。大きいとか小さいとか口にするのは嫌だけど、ビッグバジェットが必ずしも正義ではないと目の当たりにしてきているだけにね……」

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内田「本当に、その通りですよ。目指せ、ハイバジェットインディーズ。インディーズ=1000万映画じゃなくて、3億くらいでインディーズがやれるようにならないと。監督はカット割りをする人、みたいなところを脱却したいですね」

森谷「映画監督は、世界観を作る人だと思うんですよね。僕は、『この人と仕事がしたい』と思うとき、どういう世界観を持っているかを一番気にします。『下衆の愛』を観たとき、面白いことを考える人だなあ、日本人っぽくないなあと感じたんです」

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内田「500万で撮った『下衆の愛』、ある程度の予算があった『全裸監督』『ミッドナイトスワン』も何も変わらないですよ。僕はかつて自分を殺して本意ではない映画を撮ってきました。それよりも、自分の色を出した作品の方が数字が出ている。ということは、そっちに舵を切った方がいいんじゃないの? と思うんです。原作ものの方が赤字が多いって、そういうことなんじゃないですかね」

ふたりが瞬きを忘れるほど熱く語るのには、理由がある。今回のヒットを単発で終わらせてしまっては元も子もないという共通の思いがあるからだ。

森谷「僕の立場から言わせてもらうと、そういう意識をもった次世代のプロデューサーが育っていかないといけない。『この人のオリジナルが見たい! 一緒にやりましょう!』という気概の人が出てこないと続けるのは大変ですよ」

内田「対立ではなく、共闘できる関係のプロデューサーがもっと増えてほしい。よく助監督たちが『一緒に戦いますから』って言いますけど、戦う必要ないですよ。同じチームなんだから。それもまた、古い認識ですよね」

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ちなみに、2人の“旅路”がこれからも続くことを願うのは、何も筆者だけではないだろう。森谷氏はニヤリと笑いながら、「オリジナルの新作の動きは始まっています。これからプロットを作り始めます。この記事を読んだ、本当に映画が好きという投資家の皆さん、ご連絡をお待ちしています!」と語る。

内田「『ミッドナイトスワン』とは、ちょっと毛色が違いますかね。伝えたいこと、届けたいことを、ちゃんとお金を使って作っていきます」

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