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【「罪の声」評論】原作を凌駕する、作り手の覚悟が滲み出た本気の社会派作品

2020年10月29日 19:00

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映画では初共演となった小栗旬と星野源
映画では初共演となった小栗旬と星野源

142分という尺をどう感じるか。鑑賞者にどれほどの余韻をもたらすかによって解釈は千差万別だろうが、「罪の声」は冒頭からグイグイと観る者を惹きつけ、片時も目を離すことを許さない力感がある。それは、多くの日本人にとって忘れることができない実在の事件を題材にするなかで、作り手ひとりひとりの覚悟がそうさせていると言っても良いかもしれない。

ベストセラーとなった塩田武士氏の原作小説は、元新聞記者だった著者による緻密な取材、検証が織り交ぜられ、理論武装する必要がないほどの説得力、そして創造力に溢れた意欲作である。1984~85年に発生した昭和史における衝撃の未解決事件は、既に公訴時効が成立している。誘拐、身代金要求、毒物混入など卑劣な犯罪を繰り返す一方で、警察やマスコミを挑発し続けた犯人グループは忽然と姿を消してしまった。

今作は、“声”をきっかけに始まる物語だ。同事件では、身代金受け渡しの指示書代わりに子どもの声が入った録音テープが実際に使用されている。本人の意思とは関係なく犯罪に加担させられ、巻き込まれたであろう子どもたちがその後、どのような人生を歩むことになったのか。その疑問と向き合った原作の魂を、真相を追う新聞記者・阿久津英士役の小栗旬、幼少期に自分の声を脅迫テープに使われたテーラー・曽根俊也役の星野源が、どこまでも地に足のついた演技で引き継いでいる。

画像2

事件発生当時の記憶がない人(小栗と星野も該当)、平成以降に生まれた人に対して、事件の背景を説明する“語り部”の役割も果たしているのが小栗だ。阿久津は事件記者としての在り方に疑問を抱き文化部へ異動したが、奇しくも未解決事件を追う社会部の特別企画班に組み込まれ、取材を通して「過去を掘り起こすことの意義」を見出していく姿に、いつしか観客の眼差しは重なっていく。

「追う側」の阿久津と「追われる側」の曽根が必然的に出会い、ともに事件の真相に迫る過程で心の距離を縮めていくうちに、友情に近い感情が芽生えていく。象徴的なのが夕暮れの瀬戸大橋をバックにしたシーンだが、これは原作にはない映画オリジナルのもの。原作の完成度が高ければ高いほど、映像化に際し製作サイドにプレッシャーがつきまとうことは想像に難くない。しかし行間に潜むメッセージを読み解き、良い意味での余白を効果的に使ったからこそ、今作は原作を凌駕するほどの出来栄えになった稀有な作品といえよう。

小栗扮する阿久津は、本編終盤で自分なりの「記者の矜持」「過去を掘り起こすことの意義」に辿り着く。だがこれは、記者に限ったことではない。現代を生きる全ての人々に向けた、作り手たちからのメッセージと受け取ることもできる。それがどんなものなのかは、ぜひ劇場で確認していただきたい。

(大塚史貴)

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