スコセッシが製作総指揮「ザ・バンド」のドキュメンタリー、20代の新鋭監督が撮った理由
2020年10月22日 20:00
マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード、ブライアン・グレイザーらが製作総指揮として参加し、1967年から76にかけて主に米国で活動した音楽グループのドキュメンタリー「ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった」が10月23日公開される。ボブ・ディランら世界的なミュージシャンたちからリスペクトされるバンドの軌跡に追ったダニエル・ロアー監督に話を聞いた。
映画は「ザ・バンド」メンバーのロビー・ロバートソンが2016年に発表した自伝「ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春」をもとに、バンドの誕生から、彼らがボブ・ディランとともに借りていた住居「ビッグ・ピンク」でのレコーディング、そして伝説的解散ライブの「ラスト・ワルツ」まで、バンドがたどった足跡をたどるほか、ブルース・スプリングスティーンやエリック・クラプトンをはじめとした大物ミュージシャンが多数登場し、「ザ・バンド」の唯一無二の魅力を語る。
僕はカナダのオンタリオ州出身で、自然の豊かな土地で生まれ育ちました。毎年、夏になると、父が僕と兄をキャンプに連れて行ってくれたんです。その時、湖でボートに乗せてくれた父がいつも歌ってくれる歌があり、それがザ・バンドの有名な曲のひとつである「Up On Cripple Creek(アップ・オン・クリップル・クリーク)」でした。僕はその曲が大好きで自然と覚えるようになり、歳を重ねる毎にバンドへの興味もどんどん大きくなっていったんです。
そして4年前(2016年)になりますが、ギターのロビー・ロバートソンによる自伝本が出版されました。早速、読んでみたところ、あまりに素晴らしく「これを映画化するなら自分しかいない!」と思いました。それで、映画の企画をあちこちへ持ち込み、耳を貸してくれる人にアピールしたんです。しかし残念ながら、当初は僕ではなく別の監督に話がいってしまったんですね。その時はがっかりしました。でも、後になってその監督が降りることになり、結果的に僕のところに話がもどってきたので、その時は夢のように感じました。
「スコセッシ監督と同じテーマで、同じ楽曲をモチーフに映画を撮りました」と言えたら最高なのですが、実際は偶然なんです。でも、「ONCE WERE BROTHERS」という曲は「兄弟愛」をテーマにしている曲で、ロビー・ロバートソンはそれをテーマに音楽を作り続けている人です。同様に、スコセッシ監督も「義兄弟」をテーマに映画を作り続けているので、「アイリッシュマン」でロビーの楽曲が使われることは自然なことなんだと思います。
良い質問ばかりで嬉しいです。実は、ロビーと初めて会った時、ロビーは僕に昔の自分の面影を見たと話していました。僕は「この映画を作るためだったら何でもする」と伝えていたんですが、そうした情熱にかつての自分を見てとったようでした。僕自身、本作を通じて、ザ・バンドの魅力を自分と同じ、それより若い世代に広められると確信していましたし、ロビーもそれをとてもクールなことだと捉えてくれたんです。同様に、僕も改めて自分と同世代のザ・バンドのファンと出会えたことは大変嬉しいことでした。
僕はカナダのトロントで育ちましたが、トロント映画祭はカナダでも最も文化的に重要なイベントです。大勢のお客さんやセレブリティも数多く来場します。オープニングをホームタウンで迎えられるということは、素晴らしすぎて言葉もありませんでした。会場となったトンプソン・ホールのステージに立った時は、感動で涙が出てくるほどでした。その時、頭に浮かんだのは、ドキュメンタリー作家になりたいという僕を応援してくれた両親のことだったり、制作で大変なときに助けてくれたガールフレンドや兄のことでした。
実は、今朝、ロビーのマネージャーからメールが送られてきて、エリック・クラプトンがこの映画を見てくれて、「最高だったよ!」とのことでした。彼は気に入って2度も見てくれたんだそうです。トロントのオープニング上映の時は、上映後にQ&Aがあって観客から感想を聞けたのも素晴らしい経験でした。「自分たちの若かった頃に戻れたようだった」とか、「ザ・バンドへの愛がより深まった」とか言ってくれて、どのくらい自分の作品を愛してくれたか伝えてくれて嬉しかったです。
変わりました。もともとザ・バンドは僕のヒーローで伝説の存在でした。絶対的なアイコンみたいなものです。でも、本作を通じて理解したことは、彼らは同時にごく普通の不安も抱えた壊れやすい若者たちでもあったということです。しかし、そのことによって、より彼らに共感することができ、より人間的に感じることができました。4人はそれぞれに美しくユニークな人間で、彼らの友情は音楽の力を通じて育まれたものなんだなとあらためて思いました。
やはり、ザ・バンドの音楽がどのように生まれてきたのか、彼らの音楽のルーツを知ることを楽しんでいただきたいです。1時間41分の間、このバンドが持っていた神秘的な部分、彼らの世界観、そして、ザ・バンド以降の音楽に対して彼らの存在がいかに大きいか、音楽にどんな風に影響を与え貢献したのか、新鮮な目で体験してもらえればと思っています。
10月23日から角川シネマ有楽町、渋谷WHITE CINE QUINTOほか全国順次公開。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。