【「エマ、愛の罠」評論】悪魔か?女神か? 凝り固まった常識に火炎放射器をぶっ放す新しいヒロインに注目
2020年10月3日 18:30

昨今、既婚男女の色恋沙汰に厳しい社会的制裁が与えられるようになった日本の裏側、南米チリで驚くべき映画が誕生した。アンドロギュノスのようにジェンダーレスな魅力を持つヒロインが、新たな愛の形を提示する衝撃作だ。
ピノチェト独裁政権反対派のキャンペーン活動を描いた「NO」、共産主義の政治家で詩人のパブロ・ネルーダを描いた「ネルーダ 大いなる愛の逃亡者」など、政治的視点を交えたドラマを得意とし、ナタリー・ポートマン主演「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」で世界的な注目を集めたチリの鬼才、パブロ・ラライン監督が、新進女優マリアーナ・ディ・ジローラモを抜擢し、初めて現代のチリを舞台にした物語。
コンテンポラリーダンス集団を率いる演出家のガストンを夫に持つ、ダンサーのエマ。夫婦は年の差カップルで、養子の男児ポロを育てていたが、ある事件がきっかけでポロは別の夫婦に引き取られることに。エマ達の夫婦関係は悪化し、ふたりはダンス活動を続けながらも別居する。
夫が演出する観念的かつ前衛な舞台も難なくこなす一方で、ストリートで仲間たちと踊る“レゲトン”というダンスを愛し、すらりと引き締まった身体に、ギリシア時代の彫刻のような中性的な美を備えたエマ。金髪にジャージという、日本だったら激安の殿堂にたむろっていそうな若者が好みそうなコーディネートをスタイリッシュに着こなしている。そんなエマが奪われた息子を取り戻そうと、悪魔のような?企みを着々と実行していくのだ。
夫、ガストン役のラテン系美男子ガエル・ガルシア・ベルナルが、今作では性的不能という設定。普段はだだ洩れの色気を角刈りで封印し、ストイックに芸術的な仕事に打ち込むが、野性的な魅力溢れる若妻に対して、自信のなさからくる若干の卑屈さを併せ持つ“ちょっと面倒くさいインテリおじさん”を好演。エマはガストンを軽蔑するような言動をとりながらも、実は夫のそんなところも愛しているのだと終盤にわかる。
つかの間の我が子だったポロと引き離されてから、エマの行動が過激に、性的に奔放になっていく描写が続く。ダンス仲間たちとともに、火炎放射器で車を焼く事件を自作自演し、アナーキストの仕業にしたりという悪行も。そして、エマはリベラルで良心的な市民代表のような夫婦、ラケルとアニバルに、それぞれ異なるセクシャルな方法を使って接近し、ふたりの心と体を捉えていく。チリは、伝統的に一夫一妻の結婚が重んじられるカトリックの国だが、パートナーからは得られなかった幸福を与えてくれるエマのワルい魅力に、互いを尊敬し、愛し合っている夫婦があっさり陥落していく姿に、深い意味を感じる。
しかし、エマはポロとガストンととともに“作られるはずだった家族”を失った反動でジェンダーを超えたフリーセックスを楽しんでいるわけではなく、自分が好ましく思い、愛する人間たちが満たされていないものを与えながら、自らの欲望もかなえるという彼女なりのロジックで行動していたことが、想像を超えた結末で明らかになる。
赤は止まれ、青は進め。この映画のファーストシーンは、交通ルールの象徴である信号機が燃えている。人間の頭で作られた規則や既成概念を壊して、自らの身体を用いて新たな価値観や生き方を創造したエマ。我々の凝り固まった常識に火炎放射器をぶっ放される一作だ。
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