イザベル・ユペールが旅する、“この世のエデン”ポルトガル世界遺産の町シントラ
2020年8月2日 14:00
[映画.com ニュース] イザベル・ユペール主演、昨年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された合作映画フランス・ポルトガル「ポルトガル、夏の終わり」。物語の舞台となったのは、ポルトガルの世界遺産の町シントラ。英国詩人バイロン卿に“この世のエデン”と称された場所であり、見る者に旅する気分を味わわせてくれるような、同所の魅力を切り取った場面写真を映画.comが入手した。
本作は、「人生は小説よりも奇なり」(14)に惚れ込んだユペールが、アイラ・サックス監督にラブコールを送り、サックス監督がオリジナルの物語を書き下ろした。自らの死期を悟った大女優フランキーが、とある目論みからバケーションと称してこの町に家族や親友を呼び寄せる。早朝から日沈までに繰り広げられるやり取りで、フランキーと彼女を取り巻く人々の人生を、美しくはかない夕映えのように描き出す。
ポルトガルの首都リスボンの近郊にあるシントラは、深い森と美しい海に囲まれ、歴史ある城跡が点在し町全体が世界遺産として認定されている神秘的な町。映画では本作以外にもビム・ベンダース監督作「ことの次第」(82)や、ロマン・ポランスキー監督作「ナインスゲート」(99)など数々の作品の舞台にもなっている。
劇中では、フランキーがかつての夫と口論になった後であてどなくさまよう深い森、人生に迷う家族たちが往来する迷路のような路地、登場人物のうちふたりが水を口にした“結婚の泉”、若者が淡い恋に出逢う“リンゴの浜”、浜と町を繋ぐ赤い路面電車、そしてユーラシア大陸の西の果て・ロカ岬の広大な海に沈む夕日など、このうえなく幻想的な世界が、フランキーたちの人生模様を演出するかのようにスクリーンに映し出される。
2017年に今作のオファーを受けたサックス監督は、10年間ほど温めていた“休暇中の家族”という企画を提案。“休暇を過ごす家族と山”というアイデアだけを携えてシントラを訪れたという。1週間強に及んだこの旅について、監督は「まるで宝探しのようだった」と振り返る。さらに、「物語の枠組みはあれど、どんな映画になるのかは分からない。そんな段階なのに、僕らは既に映画の中にいるような感覚を覚えたんだ。それですぐにシントラでこの映画を撮影しようと決断した」と語り、その滞在中に、映画の基礎となるシントラの3層構造を作った。
1層目は、フランキー一家が滞在し、16世紀のカントリーハウスを利用した美しいゲストハウスである“キンタ・デ・サン・ティアゴ”。中間の層は、ペーナ公園。日常的な感覚から解放される楽園のような場所で、登場人物たちが自身の人生を顧みるシーンとして登場する。そして最高層は、映画の圧巻のラストシーンを飾る、山頂も地平線も含むペニーニャの聖域だ。監督は、俳優を想定して執筆するのと同じようにシントラの地を念頭に置いて、約3カ月かけて脚本を執筆。構造は、映画そのものの時間軸とも一致し、物語に独特な“演劇性”をもたらしている。
ユペールがシントラを舞台にした映画に出演するのは、ニュー・ジャーマン・シネマの奇才ベルナー・シュレーター監督作「Deux」(2002)に続いて2度目。「アイラ・サックス監督にとって、シントラでの撮影が重要であることは明らかだった。一方で、シントラを絵葉書のようには描かず、むしろ重要な登場人物のひとりに見立てて撮影したのよ」と語る。さらに、「特に印象に残っているのは、ラストシーンを撮影したペニーニャの聖域。あの日の日没は、奇跡かと思われる素晴らしさだった。空は海からの並外れた反射を受けてほぼ真っ赤に燃えていたのよ。この映画はスイミングプールの水で始まり、海の水で終わるの」と、物語と同地の魅力が見事にリンクしたとコメントしている。
美しく味わい深い人間模様、そして物語を彩るシントラという“もうひとつの登場人物”をぜひ大スクリーンで堪能してほしい。
「ポルトガル、夏の終わり」は、8月14日から、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
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