【「男はつらいよ」評論】名優の贅沢な“話芸”に酔いしれる 50年続く下町人情喜劇の原点
2020年7月25日 22:00
[映画.com ニュース] 新型コロナウイルスの影響により、多くの新作映画が公開延期となり、映画ファンの鑑賞機会は減るばかりです。映画.comでは、「映画.comオールタイム・ベスト」(https://eiga.com/alltime-best/)に選ばれた、ネットですぐ見られる作品の評論をお届けいたします。今回は「男はつらいよ」です。
国民的人気映画シリーズの第1作封切りから50周年という節目となった2019年、最新作となるシリーズ50作目が公開された「男はつらいよ」。その原点となるのが今作で、公開は1969(昭和44)年8月だった。
「男はつらいよ」は68~69年、フジテレビで連続ドラマとして放送されていた。しかし、最終話で渥美清演じる寅次郎が奄美大島でハブにかまれて死ぬという結末に抗議が殺到し、これが映画化へと繋がる。この成り立ちを考えれば、生みの親である山田洋次監督ですら、50年も続くことになるとは当時考えていなかったはずである。
父親とケンカして家を飛び出し、旅回りのテキ屋となった寅次郎が故郷・柴又へ20年ぶりに戻るところから始まる。改めて見直してみると、この時の寅次郎は鯉口シャツに腹巻き、チェックのセットアップというお馴染みのスタイルではなく、白シャツにネクタイを結んでいる。寅次郎なりに襟を正したのだろうが、余所行きの顔が長く続くはずもない。
親戚のおいちゃん(森川信)、おばちゃん(三崎千恵子)、そして倍賞千恵子演じる妹・さくらと涙の再会を果たした翌日には、さくらの見合いに同行した挙句、泥酔して縁談をぶち壊してしまう。この時の「結構毛だらけ猫灰だらけ……」のくだりは、いつ見ても笑いを誘う。今作は、さくらと博(前田吟)、寅次郎と幼馴染みの冬子(光本幸子)の恋模様を描いているが、そこには「家族とはいつの時代も厄介なもの」という、山田監督が描き続けていくことになる一貫したテーマが付随する。
そして本シリーズが尻上がりに評価を高めていったのは、当時から名の知れたコメディアンだった渥美の口から放たれる、聞きほれてしまうほどテンポの良い話芸の虜になったファンが増えていったからに他ならない。品性に欠けているなどという指摘はナンセンスであり、そんなことは誰もが承知のうえでのことである。渥美だけでなく初代マドンナ・冬子役の光本、タコ社長役の太宰久雄も鬼籍に入り、もういない。御前様に扮した笠智衆、さくらの夫となる博の父親役として特別出演した志村喬の存在感は、出番が少なかろうが作品をギュッと引き締め、実に贅沢な91分へと昇華させている。
また、今ほど便利ではなかったかもしれないが、日本中が溌剌と元気だった空気感がそのまま映し出されている。京都、奈良がロケ地になっているが、スクラップ&ビルドを繰り返しながら今も変化を続ける東京の当時の姿を切り取っていることも見逃すことができない。たった50年でこんなにも変貌を遂げてしまった東京を寅次郎が見たら、一体どんな言葉が飛び出てくるだろうか。想像するだけで、ニヤニヤが止まらなくなる。
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