長澤まさみ&奥平大兼、壮絶な母子を体現した「MOTHER マザー」で芽生えた覚悟
2020年7月2日 09:00
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大森立嗣監督が、実際に起きた“少年による祖父母殺害事件”をベースに描く人間ドラマ「MOTHER マザー」。社会の闇へと堕ちていく“母と息子”という難役を託されたのは、今年で女優生活20周年を迎え、ますますその魅力に磨きがかかる長澤まさみと、映画初出演にして初めてのオーディションで抜てきされた17歳の新星、奥平大兼だ。「奥平くんにすごく助けられました」(長澤)、「本作に出て、役者を続けていきたいと思いました」(奥平)と刺激を受け合った2人。女優・俳優業の醍醐味を味わった本作の撮影を語るとともに、長澤が“17歳から今”への歩みについて明かした。(取材・文/成田おり枝 撮影/堀弥生)
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長澤が演じたのは、男たちとゆきずりの関係を持ち、その場しのぎで生きてきたシングルマザーの秋子。秋子が息子の周平(奥平)に奇妙な執着を見せる一方、母からの歪んだ愛に応えようとする周平。次第に社会から孤立していく中で、母と息子にはある絆が生まれていく……。息子が殺害事件に至る過程を明らかにし、既成の価値観では測れない親子関係のあり方を世に問いかけるセンセーショナルな内容となる。製作は、「新聞記者」などを手掛けた映画会社スターサンズが担った。
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息子を学校にも行かせず、自分に忠実であることを強いる秋子は、世間や観客からも憎まれるような役どころだ。これまでの長澤の演じてきたどの役柄とも違う、新たな挑戦。引き受けるには覚悟を要するような役にも感じるが、どのような思いで、本作に身を投じたのだろうか。
「すごく危険な役。弱さの裏返しとして、強がっているような女性です。私自身、これまで演じてきたことのないような役で、演じることができるのかと不安もありました」と率直な思いを打ち明けつつ、「台本を読んで、プロデューサーさんたちがいかにこの作品を世に届けたいと思っているかが伝わってきました。私が秋子のような役柄を演じることは驚きもあると思いますが、そういった表面的なことだけではなく、作品に対してとても誠実な思いを感じたんです。だからこそ、私も信頼できる方々と一緒に作品を世に送り届ける、最高の機会をいただけたと感じることができたんです」と、製作陣の誠実な思いに背中を押された。
一方の奥平は、演技未経験ながら、周平の過酷な青春を演じ切った。2003年生まれで、スカウトされたことをきっかけに芸能界入り。オーディションも今回が初経験で、合格の報せを受けたときは「びっくりしすぎてしまって、何がなんだか。ドッキリかなと思いました」と屈託のない笑顔を見せる。
さらに「そのときは、まだ他の出演者の方について何も知らなかったので、そんなに不安はなかったんです。でも『お母さん役が長澤さんだ』と聞いたときに、『大変だ!』と思って。僕はもともとピアノや空手を習っていたので、人前に出ることにあまり抵抗がなく、緊張もしないタイプなんです。でも、長澤さんに初めてお会いするときは、なんとか普通にしていようと思っても、実際にお会いしたらものすごくきれいで、驚いてしまって…。緊張しすぎて何もお話できないくらいでした」と振り返ると、長澤は「でも次に会ったときは、もう慣れていたよね。最初だけ初々しかった。奥平くんは、本当に堂々としているんですよ!」とぶっちゃけ、2人で大笑いする。
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笑顔いっぱいに語り合い、2人の間をなんとも心地の良い空気が流れるが、劇中では壮絶な関係性を体現した。長澤は「撮影中、奥平くんにものすごく助けられました」と彼の印象とともに撮影を振り返る。
「奥平くんは、その場で起きたことにきちんと、素直に反応することができる。純粋で無垢だから、誠実にセリフも返してくれます。すべての思いに嘘がないから、なんだかベテランの役者さんと演技をしているようでした」と微笑み、「秋子はどこかフワフワとした役でもあって、私は『これでいいのかな』と考え込んでしまうこともありました。その分、奥平くんだけでなく、周平の幼少期を演じた郡司翔くん、妹役の浅田芭路ちゃんといった子どもたちが、揺るがずどっしりとしていてくれたことで、私はすごく助けられました」と告白。子どもたちから新しい刺激ももらったようで、「やはり、純粋無垢な感情に勝るものはないなと思いました。だからこそ、こういった事件が起きてしまったのかもしれないとも感じて、人間というものについて改めていろいろと考えさせられました」と打ち明ける。
長澤から絶賛された奥平は、“嘘のない芝居”ができたのは大森監督のおかげだと感謝する。「撮影前からワークショップを通じて、大森監督がお芝居というものを教えてくれました。最初の1カ月は、大森監督が1対1で教えてくださったんです。周平という役は自分がしたことのないような経験をする少年ですし、最初は何をどうすればいいかもわからない状況でしたが、監督は『自分が感じることを大事にしてほしい』『その場で自然に出てきたことを大事に』と自由に演じさせてくれました」。すると、長澤も「大森監督は生々しさを大事にしていて、子どもたちからも自然な感情が出てくるよう、とても熱心に付き合っていました。信頼関係を作るのがお上手なので、子どもたちもリラックスして現場にいることができたんだと思います。そんな姿を見て私もとても救われました」と大きくうなずく。
奥平にとっては、長澤と過ごした時間も宝物だ。とりわけ印象深いのが、周平が秋子にビンタされるシーンなのだとか。奥平が「実は僕、本当にビンタされると思っていなくて。“ビンタの振り”をするのかと思っていたんです(笑)。そうしたら本当に叩かれたので驚いてしまって!」と振り返ると、長澤も「あはは!」と大きな笑顔。奥平は「台本には“泣く”と書いてはいなかったんですが、叩かれた痛みやお母さんの言葉から、お母さんの気持ちがじわじわと伝わってきて、涙が出てきてしまったんです。僕は普段から泣くことはほとんどないので、カットがかかった後には放心状態になってしまいました」と芝居の化学反応をたっぷりと味わった。
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大役を担った映画初出演を経て、奥平は「できるなら、これからも役者を続けていきたいです」と夢を膨らませる。「まさか自分が役者になるなんて思ってもいませんでした。服が好きなので、デザインの仕事ができたらとか、空手も好きなので、空手に関わったことをやりたいなど、将来は何か自分の好きなことができたらいいなと思っていました。でもスカウトをしてもらって、こういう役を演じる機会をいただいて、たくさんの方々に出会えて、本当に縁に恵まれたなと思っています」としみじみ。
「撮影前のワークショップで、大森監督から『演技することは面白い?』と聞かれたときは、よく面白さがわからなかったんです。実際に撮影が進むと、失敗もたくさんしましたが、自分から湧き出てくるものをお芝居にしてくことが、ものすごく楽しいと思えたんです。本作に出たからこそ、もっとお芝居の勉強がしたいと思えたし、映画を見て『もしこの役を演じるとしたら』と考えたりするようになりました」と瞳を輝かせる。
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長澤は「奥平くんは、“自分”というものをしっかりと持っているので、母としては心配していません(笑)」と母心を見せ、「自分が“好きだ”と思える仕事と出合えることって、実はあまりないことだと思うんです。“自分に向いているか、向いていないか”を判断するのは、大人になってからじゃないとできないけれど、“好きなことをやる”というのは、若くても選択できる事。そういう気持ちがあるって、とても大事なこと」とニッコリ。
現在17歳の奥平だが、長澤にとっての17歳は「世界の中心で、愛をさけぶ」など話題作にヒロインとして出演を果たした時期だ。「当時の私は、とにかく目の前のことに必死でした」と述懐した長澤は、「大きな役を任されて、『頑張らなければ』と責任も感じていて。もちろん興味があって入った世界ですが、楽しいと思えるようになったのは、大人になってからかもしれません。年を重ねるごとに、この仕事の魅力を感じています」と確かな意志をのぞかせる。
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「今回はいろいろな問題を考えさせてくれる作品となりましたが、私にとってはいい息子や娘に恵まれて、たくさんのいい出会いのあった作品でもあります」と思い入れの深さを明かしつつ、「この撮影のあとに、『コンフィデンスマンJP プリンセス編』の撮影があって。とても明るい作品なので、落差から『私は一体、なんなんだ?』と思ったりして(笑)。どの役を演じていても面白いし、本当に楽しい。いろいろな人生を味わえますから」と楽しみは尽きない様子。
長澤が美しく輝いているのは、まっすぐに信じる道を歩んでいるから。奥平が「僕もたくさん味わえるように頑張ります!」と宣言すると、長澤は「今、『頑張ります』って言ったからね!」としっかりと見守る所存。頼もしい“母”からのエールは、これからも彼を励ますことだろう。
「MOTHER マザー」は7月3日から全国公開。
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