「文化とは他者と一緒にいること」ダルデンヌ兄弟、カンヌ受賞の新作とコロナ禍の生活語る

2020年6月11日 18:00

ダルデンヌ兄弟
ダルデンヌ兄弟

ベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟が、過激な宗教思想にのめりこみ、教師を殺害しようと試みた少年の姿を描き、2019年のカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した人間ドラマ「その手に触れるまで」が6月12日公開される。これまで、同映画祭で2度のパルムドール、脚本賞、グランプリを受賞してきたダルデンヌ兄弟が、思春期の少年の不安定な心の動きを見事にとらえた本作と、コロナ禍での生活を語った。

――異文化を受け入れることに慣れていない日本人にも大きなヒントを与えてくれる映画です。

リュック・ダルデンヌ(以下、L)
私たちはこの映画を汚れや不浄に対する称賛のような映画にしたいと思っていました。汚れとは人生だからです。文化が違っても、いろんな人と出会って、敵とみなさないことの大切さを描きたかった。不浄だと思っていたものを受け入れることから、自分の知らない文化を受け入れる、そんな平和の映画にしたかったのです。

――これまでの作品でも、頑なな主人公を描いていますが、今作ほど、状況の変化が難しい主人公は珍しいのではないでしょうか。

ジャン=ピエール・ダルデンヌ(以下、JP)
この作品では、狂信化したアメッドを多くの人が説得しようとするがうまくいきません。これまで手掛けてきた他の作品では人と出会うことで苦境から抜け出すことが可能だったのですが、今回は成功しないのです。アメッドは心だけでなく、身体全体が支配されている。宗教は身体を支配するのです。「女性は不浄である」「こうしないといけない」「動物に触らない」といったドグマに縛られたアメッドの身体が映画の中心にあります。

L
狂信とは麻薬のようなもので依存性があります。彼はラストシーンでようやく人生を取り戻します。「狂信」は難しい主題で、簡単ではありません。真剣に受け止めて製作しました。

JP
イマーム(導師)はテロで人を殺し、殉教した従兄を「ヒーロー」だとアメッドに刷り込んでいます。企画の初期段階では17歳くらいの少年を設定していましたが、企画を進めるにつれ、その年齢では脱狂信化できないのではないか、と考えるようになりました。その年齢の子は変われないと思ったのです。でも、13歳の子供から思春期にかけて成長途中の子供であれば、人生の誘惑、純潔の理想から離れられるのではないかと思いました。

――主人公のように過激な思想に染まった少年をリサーチしたのでしょうか?

JP
もちろん行ないました。私たちにとって、イスラム教は遠いものだったので、まず勉強をしました。そして、儀式や禊について、罪の考え方、イスラムにとっての純潔について調べました。また、実際に狂信化したイスラム過激派と接触した判事や心理士、教育官などに話を聞きました。

画像2

――新人のイディル・ベン・アディを選んだ決め手はどういったものでしょうか?

JP
イディル自身、主人公と同じような思春期に入る年頃でした。また、身体的な要素も非常に選んだ理由にあります。笑顔は子供のようで、少しぽっちゃりしている。変わりつつある自分の身体を制御し切れてない、不器用な感じがします。また、顔に悪人的な暴力性がなく、人を殺しそうにない。人生経験が顔に出ていない点に惹かれ、彼を主人公アメッドに抜擢しました。

――ラストシーンは緊張感のある長回しで撮られています。テイク数はどれくらいだったのでしょうか?

L
大体10回くらいです。イディルはすべて完璧に演じてくれたのですが、私たちがリズムを試したかったのです。採用したものは、およそ3分40秒くらいのものですが、6分で撮ってみたり、3分で撮ってみたり、と色々試しました。

――各シーンのテイク数はどれくらいの数だったのでしょうか?

JP
子供が主人公ということもあって、他の作品ほど多くありません。「サンドラの週末」のマリオン・コティヤールが部屋に入って倒れるシーンはこれまでの最高で81回やりました(笑)。でも、今回は子供なので、最初に演じたものを信じたのです。何回もやると失われるものがあるので、全体を平均すると10回くらいでしょうか。

――撮影スタッフは何名くらいで撮っているのでしょうか?

L
日中働いた人、夜働いた人、を足すとトータルでスタッフは30人くらいです。でも、撮影現場にいるのは7人前後です。撮影監督、カメラオペレーター、マイク、録音技師、カメラアシスタント、私たちのアシスタントです。

――撮影中はどのようなことを心がけていますか?

JP
まずは、シーンを時間通り撮ること、そして、俳優たちが自分たちがイメージした通りの演技をするように演出することです(笑)。でも、撮影では天候に左右される場合があります。今作の撮影は夏でしたので、なるべく陽が注ぐ場所で撮りたいと思っていました。特に農場のシーンは風や自然物が重要で、アメッドが自分の姿を取り戻します。幸い、撮影した年のベルギーはいい天候でした。ラッキーでした。

――いつも手持ちカメラで撮影を続ける理由はどういったことにあるのでしょうか?

L
あなたを想う」という作品では、三脚で撮影しました。でも、違った。完成した作品を観て、ふたりとも失敗作だと思いました。それから、ゼロからやり直しました。いわゆる映画の技巧は使わない。それで手持ちカメラで行くことにしました。でも、ルポルタージュの印象を与える映画にしたい、役者の即興演技を撮りたいわけではありません。手持ちカメラならば、体の近くで撮影することができます。身体的だけでなく、役者の生活のリズムにも近いものになります。

私たちは死を撮らない、という強迫観念を持ってこれまで撮ってきました。こうなると分かっているものは撮りたくないのです。先がどうなるかわからないものしか撮りたくないのです。そのためには、手持ちカメラが合っていました。

役者の身体に合わせて、振り付けをするようにカメラを動かします。カメラマンが役者にあわせて体を動かすのです。そこで人生の揺れのようなものを感じることができるようになりました。映画と人生は繋がらないといけません。

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――コロナウイルス感染予防対策がとられているベルギー、そして映画業界はどのような状況でしょうか?

JP
映画館も撮影もすべて中止しています。批評家はみんな家に待機して映画の公開を待っている状態です。政府は食品店と薬局のみ、支援を始めています。私たちはベルギーのフランス語圏のことしかわかりませんが、劇場の仕事に関わる人、ダンサーなどに失業手当が支払われています。映画については保障されるかは、まだわかりません。プロデューサーや配給会社は厳しい状況にあります。ベルギーの映画館は7月まで閉館したままだと思います。

L
文化とは他者と一緒にいること、関係だと思います。映画とは、映画館に入って、何人もの人たちと同じ映画を見ること、社会生活です。たとえひとりで映画館に行ったとしても、他の人と映画を語り合うことができる。今後も映画を観るという行為はなくならないでしょう。この危機の中、人はパソコンを通して、コミュニケーションを取ることは可能です。ですが、生身の人間同士が会うこと、触れること、抱き合って、キスをすること以上のことはありません。

その手に触れるまで」は、6月12日からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国で順次公開。

(映画.com速報)

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