深田晃司監督、青年団の舞台「ヤルタ会談」を“オンライン化”! 製作に至った理由は?

2020年6月1日 15:00

オンライン映画祭「We Are One:A Global Film Festival」に出品された「ヤルタ会談オンライン」
オンライン映画祭「We Are One:A Global Film Festival」に出品された「ヤルタ会談オンライン」

[映画.com ニュース] 世界各国の映画祭とYouTubeが実施するオンライン映画祭「We Are One:A Global Film Festival」(https://www.youtube.com/WeAreOne)が、5月29日~6月7日の期間で開催中。日本からは東京国際映画祭を通じて、深田晃司監督が「いなべ」(2013)、「ジェファソンの東」(18)とともに「ヤルタ会談オンライン」を出品している。未曾有のコロナ渦で製作された新作に、深田監督はどのような意図を込めたのだろうか。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)

本作は、第2次世界大戦の終戦間際、戦後世界の支配をめぐり米英ソ首脳によって行われた「ヤルタ会談」を痛快にパロディ化。劇団「青年団」の人気レパートリーとなっている演劇を、コロナ禍のさなかに置き換え、そのままオンライン化した作品だ。歴史的な「ヤルタ会談」を、何故“リモート会議”という体裁で描こうとしたのか。

「コロナ禍の自粛期間が始まり、リモートでの映画作りが映画作家の間で手探りで行われ、同時に演劇人も演劇をZoomやオンラインで演じることが度々試されました。ただ、オンラインでの作品の多くが、ZoomのTV電話システムに無理に合わせた印象があり、またアプリのシステム由来の白々しいほどの生っぽさに負けてると感じていました。その中で演劇『ヤルタ会談』は、そもそもが“会談”の様子を描いていることと、その虚構性の強さから、オンライン作品の持つ前述の問題をクリアできるのではないかと考えました」

冒頭では、楽曲「インターナショナル」の替え歌をスターリン(松田弘子)が歌い、どんな映画になっているか理解できるようになっている。「前提として『ヤルタ会談オンライン』は平田オリザの戯曲で青年団の人気レパートリーでもある演劇『ヤルタ会談』を、ほぼそのままオンラインで撮影したものです。『インターナショナル』の替え歌も原作通りです。この作品自体が、現実の政治や社会、歴史のパロディであるという枠組みが端的に示されているよい出だしだと思いました」。

史実における「ヤルタ会談」は、戦後のドイツ占領地域の処理、極東の戦略に関する具体的な合意、「国際連合」の設立などが協議され、日本に関することは“秘密協定”とされた。だが、劇中では日本についての対応が面白く、そして皮肉的な想像が膨らまされている。

「演劇『ヤルタ会談』の日本人についての描写には、私は二重の面白さがあると感じています。ひとつは、戯画化された3カ国の首脳を通じて、当時西欧社会に根強くあったであろう日本やアジアへの偏見や差別が浮き彫りになる面白さです。コロナ禍は、これほど世界中の多くの国が同時にひとつの災禍に巻き込まれたという点で、第2次世界大戦以来の歴史的な出来事だと感じています」

「大きな災禍の後には、差別と分断が訪れます。実際、現在欧米社会ではアジア人への差別が増加していると聞きます。そういった最中に、欧米主導による『We Are One』と打ち出す映画祭でアジア人への差別意識を描いた『ヤルタ会談オンライン』が配信されるのは無意味ではないと思います。ふたつ目は、その首脳を日本人の俳優が演じ、日本の作家が描くことで、美化されやすい戦中の特攻精神を日本人自らが内省し相対化していくことです。これもとても大きな意味を持つと考えています」

スターリン役の松田のほか、島田曜蔵がチャーチル、緑川史絵がルーズベルトを演じている点について「(配役は)演劇と同じです。ただ、松田さんと島田さんには以前『東京人間喜劇』にご出演頂き、皆さんとても上手く魅力的な俳優だと感じています。今回、オンラインで描くにあたり、彼らにお願いすることに躊躇はありませんでした。歴史上の人物を、容姿も性別もまったく異なる3人が演じることで、パロディ化の強度が増したと感じてます」と説明する。

現在の日本映画界への思いも吐露してもらった。アメリカの映画業界と比較した際に浮かび上がってくるのは、さまざまな問題点だ。

「実は、映画業界が非常に市場原理主義的である点でアメリカと日本は似ています。しかし、そこにこそ日本映画界の歪みと苦しさがあります。まず、公的な助成金についてはどちらの国もあまりありませんが、民間の寄付文化には大差があり、アメリカで施行されているような寄付に対する税額控除は日本でももっと整備されて欲しいです。また、日本は市場原理主義的でありながら、アメリカのような世界規模の広大な市場は持たず、そのうえ国内においても健全な競争を成り立たせるための市場環境の整備は遅れています」

最後にコロナ渦収束後の映画製作に関して尋ねると「数年前から準備している、ある夫婦に関する映画を来年には撮影したいと考えています」と告白。さらに、コロナ禍後の世界と、その“記憶の影響”を受けたものになると明かしてくれた。

「ヤルタ会談オンライン」は、本日6月1日午後8時からYouTube(https://www.youtube.com/watch?v=bep0bjf1ZF4&feature=youtu.be)でプレミア配信。深田監督作品のほか、湯浅政明監督作「夢見るキカイ」、大九明子監督作「勝手にふるえてろ」、松居大悟監督作「アイスと雨音」も視聴できる。

(映画.com速報)

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