【「地獄の黙示録」評論】この怪物が孕む狂気は、今も不変。戦争映画の外殻をまとう哲学作品
2020年4月11日 19:00

[映画.com ニュース] 新型コロナウイルスの影響により、多くの新作映画が公開延期となり、映画ファンの鑑賞機会は減るばかりです。映画.comでは、「映画.comオールタイム・ベスト」(近日一覧を発表予定)に選ばれた、ネットですぐ見られる作品の評論を毎週お届けいたします。今回は「地獄の黙示録」です。
戦争ジャンルの秀でた作品を選ぶとき、あるいは名匠フランシス・コッポラ監督の代表作を挙げるとき、このタイトルが筆頭となっているのは言を俟たない。CIAの指令を受けた米陸軍大尉が、国家反逆者の統べる密林の王国へと赴き、彼の暗躍に終止符を打とうとする。カリスマ的人物の植民地支配を描いたコンラッドの古典小説を、ベトナム戦争時の軍事ミッションものへと翻案し、ギリシア神話(オデュッセイアの帰還)と絡めた叙事詩として完成させた本作。その破格のスケールや、血を滲ませた作り手の執念を経て、70年代アメリカ映画史の重要作として君臨する。
主人公は任務遂行の過程において、さまざまなカオスと遭遇する。慰問の美女に兵士が群がる前哨基地での狂騒や、現地で農園を構え、アメリカの欺瞞を説くフランス入植者たちの存在etc。中でもサーフィン愛好家の中佐が絶好のポイントを求め、ワグナーの「ワルキューレの騎行」を鳴らして村を一掃し、ナパームで焼き払うヘリ急襲の序盤は、本作を象徴する“狂気”の最たる体現だ。同時に映画最大級のスペクタキュラーとして、アンビバレンツな興奮を覚えさせる。
また未公開シーン挿入や再編集を施したバージョンが経年と共に発表されてきたが、新しくなるほどに迫真性を増す質感の向上が、現在のライド型で受動性の高い映画にも似た没入感をもたらす。そして作品は登場人物たちの奇態きわまる体験と、夢魔のような時間感覚を観客に容赦なく共有させるのだ。初公開時には賛否の割れがちだった観念的な世界を、生々しさを増した映像を経てすんなりと?み下すことができる。その果てに誰もが気づかされるに違いない。輪郭をより明瞭なものとした国家の道徳的な墜落や、闘争の愚行、そして人間が持っている暗部への畏れが、現在にも通底していることを。
こうして主人公の地獄巡りは時代を越境し、より我々の眼前へと迫る。ベトナム戦争映画という外殻の隙間から、哲学作品としての真核をむき出しにしながら。それがまさに原題どおりの“アポカリプス・ナウ(現代の黙示録)”を立証しているといえるだろう。劇中のキャラクターたちが戦争の毒気によって自己を失っていったように、観る者も正気に立ち戻れぬような試練のひとときを味わうことになる。それが映画の最後に唱えられる“恐怖”の一端かもしれない。
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