【「クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」評論】伝説の236分。エドワード・ヤンが遺した、暗闇にほとばしる青春の輝き
2020年4月10日 16:00

[映画.com ニュース] 新型コロナウイルスの影響により、多くの新作映画が公開延期となり、映画ファンの鑑賞機会は減るばかりです。映画.comでは、「映画.comオールタイム・ベスト」(近日一覧を発表予定)に選ばれた、ネットですぐ見られる作品の評論を毎週お届けいたします。今回は「クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」です。
誰もが一度はタイトルを耳にしたことがあるはず。これは映画ファンにとっていつか必ず挑むべき236分に及ぶ高い山だ。筆者も恥ずかしながら初鑑賞。動画サイトの再生ボタンを押す時、さすがに微かな緊張が身を貫いたことを告白しておく。が、淡々と紡がれる1961年の台北の風景を見つめるうち、あらゆるディテールが水となり空気となって体にじっくりと沁み込んでいくのを感じた。
主人公は小四(チャン・チェン)という男子中学生。親世代はみな様々な葛藤を抱えており、その姿を見て育った子世代もまた、彼らなりの言い知れぬ不安や反抗心を抱えながら生きている。そんな中、小四は不良集団のリーダーの彼女とも目される小明(リサ・ヤン)と出会い、ほのかな恋心を抱くのだが……。
本作は台湾ニューシネマの旗手、エドワード・ヤン監督が10代の頃に衝撃を受けたという事件をベースにしている。が、見どころは「事件」そのものよりも、むしろそこへ辿り着くまでの「道程」にあると見るべきだろう。スポットが当たるのは小四だけではない。彼を見守る家族、同級生、不良仲間、ガールフレンドといった一人一人を陰影深く際立たせ、そこからは点や面ではなく、社会や歴史さえも俯瞰した立体的な人間ドラマが浮かび上がってくる。
そして特筆すべきは本作に香る“青春グラフィティ”的な要素である。映画スタジオの天井裏から見下ろす撮影風景。雑音だらけのラジオ。エルヴィス・プレスリーへの憧れ。淡い思いを抱えた男女の帰り道。とりわけ、ブラスバンドの音色が鳴り響く校内で「僕は一生、君から離れない!」と声を張り上げる少年の純情に心を震わせぬ者などいまい。これらの光景がまるで暗闇を照らす光のように尊く、神々しい。
そう、光。とりわけ懐中電灯のもたらす光がこれほど身を貫くのはなぜだろう。足元の見えない暗闇では、バットや刀以上に、その光こそが力となり、大きな助けとなる。エドワード・ヤンが逝去して13年が経つが、もしかすると主人公の小四と世代を同じくする彼は、この懐中電灯をバトンのように受け取り、照射するような気持ちで自身の映画を作り続けてきたのではないかと、ふと思った。それは一筋の存在証明であり、心の叫び。私の胸のスクリーンには今なお、少年たちのあどけなくも生き急ぐ表情が、ほのかな残像を刻み続けている。
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