真田広之&美波がにじませるジョニー・デップへの謝意 「MINAMATA」で再認識した日本人の“心”
2020年3月11日 12:00
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[映画.com ニュース] 第70回ベルリン国際映画祭の招待作としてワールドプレミアを迎えた、ジョニー・デップ主演、真田広之、美波出演の新作「MINAMATA」。熊本の水俣病患者を撮影した著名な写真家ユージン・スミスを主人公に、彼の目を通して水俣の人々を描く。以前からスミスの写真のファンだったというデップが、自身でプロデュースも手掛け、監督に「ララバイ」の若手監督アンドリュー・レビタスを抜擢。社会派ドラマの側面と、スミスの鮮烈な写真のアーティスティックな要素とが融合した、重厚で美しく、胸を突く作品となっている。デップとともにベルリンを訪れた真田と美波に、タフな撮影の経験、そして本作に寄せる思いを語ってもらった。ふたりのやりとりを聞いていても、本作がスタッフ・キャストの特別な思いに支えられていたということが十分に伝わってきた。(佐藤久理子)
一般観客も参加したベルリンの公式上映では、エンドクレジットとともに会場を揺るがす拍手が鳴り響き、真田と美波は目に涙を浮かべた。作品の全貌を見たのはベルリンが初めてだったという。
真田「撮影当時のことが走馬灯のように蘇ってきて、なんというか、懐かしかったです」
美波「あらためて大変だったなあ、と(笑)」
真田「あの涙はそれだったんだ(笑)」
美波「キャサリン(・ジェンキンス/共演)が言うには、まず真田さんが泣いたそうですよ。それからキャサリンが泣いて、そのふたりを見てわたしがドミノのように泣いてしまったんです。いろいろと思い出して、こみ上げてくるものがあって。映画のメッセージがダイレクトに伝わってきたのも心に響きました。シンプルで、キャラクター全員がしっかり描かれていて、とても温かい映画だと」
真田「そうだね。みんながテーマに賛同して、それぞれの役割に徹して、エゴを出さず、自分を捧げている感じがして、気持ちがよかったですね。とくに全体のバランスがいいなと思いました。いい意味で外からの、とても大人の視点で日本を描いていて、偏らず、いろいろなところがいいバランスで仕上がったなという感慨があった。本当に参加して良かったというのが、見終わったあとの実感でした」
美波「絶対悪の話になっていないところが、アンドリューは巧いなあと思いましたね。役者さんひとりひとりも輝いていて、みんなで抗議をするシーンはすごくエネルギーを感じますし、撮影自体、とてもエネルギッシュだったんですよ」
戦場のルポルタージュをアメリカのライフ誌に発表し、世界的に評価されたスミスは、50代を迎え、鬱とアルコールに浸り写真への情熱を失くしていた。そんなとき、日本から訪れた記者のアイリーン・美緒子(後にスミスと結婚)から、熊本の漁村、水俣で発生している病について、患者たちの写真を撮って欲しいと頼まれる。当初は金稼ぎぐらいのつもりだったにもかかわらず、やがてそれは、スミスの後の人生を変えるほどの契機となる。
アイリーン(美波)がスミスを伴って水俣を訪れると、そこでは有毒水銀を海に排水しているチッソ水俣工場に対して、リーダー格の山崎(真田)率いる抗議運動がおこなわれており、スミスも徐々に地元民に受け入れられていくとともに、抗議運動に同行するようになる。
撮影は、日本に近い風景がいまも残るところとして、主にセルビアで撮影されたという。
真田「現地の日本人の方々がエキストラで参加して下さり、子どもからお年寄りまで、みなさん本当に頑張ってくれて感動しました。1日の労働時間も長いし、テンションも高く、かなりきつかったはずなんですが、みなさんテーマに意義を感じて名乗りをあげてくれた人たちだったので、寒いなか文句ひとつ言わずに、本当に素晴らしかった。僕も裏方としてサポートしていたんですが、どこの国でも日本人の奉仕の精神というのは同じなんだなと、誇りに思いました」
美波「真田さんのサポートもすごかったんですよ。撮影の早い段階から、オフの日も現場に参加して下さって。美術を含めて日本に関係するものに間違いがないか、言葉は大丈夫かなど、全部チェックされて。監督から絶対的な信頼を得ていらっしゃったので、真田さんがいらっしゃらなかったら同じにはならなかったと思いますし、本当に真田さんがいて下さったからこそ、この映画のメッセージがちゃんと伝わるのだと思います。そういう賞があったらぜひ、差し上げたいぐらいです(笑)」
真田「(照れながら)裏方賞? こういうテーマだけに、なるべくオーセンティックな形で描かないと失礼になるし、ユージン・スミスの目を通してこの出来事が世界に伝わっていくときに、本来の日本の姿であって欲しいというのが、やはり映画に関わった者としてはあるので。監督のほうからも、それも含めて現場に来て欲しいという要望があったので、監督が来る前に全部チェックしたりしていました。僕の役は活動家のリーダーとして奔走していた男なので、たとえばみんなのタスキの文字を書くとか、そういう裏方としてやっているボランティアのすべてが、自分の役作りに役立っていたと思います。逆にカメラの前にいるときが一番ラクでしたね(笑)。何も考えず、芝居もしないで、ただいるだけの感じでした」
真田もデップも、役作りには並々ならぬ準備をする一方で、現場では柔軟に、その場の空気や感情に対応する。デップとの共演シーンが多かった美波は、彼の即興的な側面が印象的だったと語る。
美波「彼と芝居をすること自体には、そんなに気後れやストレスはなかったんですが、英語で芝居をするのがまずきつくて。とくに彼はインプロビゼーションをするので、それも大変だったんですよ」
真田「テイクごとに演技が新鮮に変わるからね」
美波「時々なにを喋っているか、こっちがわからなかったりするんですけれど(笑)、感情って音に出るので、それで理解できるんだなあと。正直一生懸命すぎてわたしは反省する余裕がなかったですが(笑)、彼の現場に対する思いとか、そこにいる在り方というのは、すごく勉強になりました。ジョニーはやはり、みんなに愛されるスターだなと(笑)。それってすごいことですし、そういうエネルギーがいい芝居にも繋がると思いました。彼は愛されキャラなんですよ(笑)」
真田「それに彼の企画・主演でこういう作品が実現したことには、とても感謝しています。おそらくこの題材は日本映画では撮れなかっただろうし、撮れたとしても、もっとマイルドなものになると思うんです。日本の場合、どうしてもドメスティックなマーケット中心になりますよね。ということは予算もあまり掛けられない。たとえば中国、韓国は世界マーケットをターゲットにして、国をあげてサポートしている。それを羨ましくも思いますし、日本もいずれそうなって欲しいと感じますね」
日本公開は未定だが、いずれ披露される日が来ることを祈りながら、待つことにしよう。
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