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路上生活者が生み出す身体表現を映す「ダンシングホームレス」 振付のアオキ氏「新しい価値観を提供したい」

2020年3月6日 14:00

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「新人Hソケリッサ!」主宰(左)のアオキ裕キ氏と三浦渉監督
「新人Hソケリッサ!」主宰(左)のアオキ裕キ氏と三浦渉監督

衣装が華やかなわけではない。演者が見目麗しいわけでもない。舞台には屋根もなく、雨に打たれながらの公演も珍しくない。それなのに、見る人を惹きつけてやまないダンスカンパニーがある。振付師のアオキ裕キと路上生活経験者の“おじさん”たちからなる「新人Hソケリッサ!」だ。米同時多発テロに遭遇し、これまでの華やかなエンターテインメントの世界のダンスから一転、生きることと直結したダンスを模索したアオキが出会ったのが路上生活者だった。そうして2007年に誕生したソケリッサの活動が、この程ドキュメンタリー映画「ダンシングホームレス」として3月7日より劇場公開される。カメラを通してメンバーの躍動を捉えた監督の三浦渉と、主宰のアオキ裕キ氏が彼らとの日々を振り返る。(取材・文/木村奈緒)

画像2(C)Tokyo Video Center
■ 「ホームレス」の「ダンス」
三浦 2017年の7月ぐらいにネットでソケリッサを知りました。正直ホームレスのダンスって、社会復帰の一環だったり、踊りのレベルも高くないだろうと思ってたんですけど、YouTubeで見たら全然違って。すごく魅力的で面白いと思いました。普段はテレビ番組の制作をしてるんですけど、たまたま取材先の人がアオキさんと知り合いだったので、紹介してもらって、練習も見たことがないのに「取材させてください」と。
アオキ そういう状況で取材されるのは困るなと思って断りました(笑)。今までも何度か取材を受けたことがあるんですけど、すぐにおじさんたちの寝ているところを撮りたいと言われたり、おじさんたちが普通に歩いているだけなのに、すごく悲しい曲をつけられたりして(笑)。そうやってパッケージングされるのがすごく嫌で、基本的に短期間での取材は断っていたんですけど、三浦さんは長いスパンで取材をしたいと言ってくれたので、まずは本番を見たら違うものが得られると思うよと伝えて。
三浦 それで実際に公演を見に行って、やっぱりやりたいと思いを伝えました。仕事をしながらの撮影だったので、3カ月くらい空いてしまったり、逆に1週間密着して撮ったりを繰り返して1年半程撮影しました。(大阪市の)西成に行ったシーンがありますが、あそこでみなさんと同じ部屋に泊まらせてもらって、ようやく関係が近づいた感じがありました。
アオキ 自分たちも格好悪いところを見せるので、ありのままをすべて撮ってほしいとか、監督とは撮影中に色々話をしました。西成の公演はヤジが飛んできたり、東京ではできない経験だったので、それをちゃんと入れてくれて良かったです。楽しく踊ってるだけじゃなくて、自分たちがチャレンジして四苦八苦している姿も見てほしいと思っていたので。本当は海外にも行きたかったので、今後、資金を集めて実現させたいですね。
画像3(C)Tokyo Video Center
■ 路上生活者の視点
三浦 僕、仙台出身なんですけど、18歳で上京するまで自分の導線にホームレスの人がいなくて、どういう生活をしているのか全然知らなかったんです。今回撮影でおじさんたちと寝泊まりしたんですけど、やっぱり見てるだけでは分からないことっていっぱいあるんだなと。
アオキ (メンバーの)西さんは今も路上生活をしていますね。今は寒いからネットカフェとかにいるみたいですけど。
三浦 本当に暑いし寒いんですよ。しかも、基本動かないんです。ベンチに座っているか、ビッグイシューを販売しているかなので。そうすると撮影している僕も動かないから、とにかく暑い、寒い。バスターミナルで西さんと一緒に寝泊まりしたときは死ぬほど寒かったです。深夜でもスーツケースの音がうるさくて全然寝れないし、1時間に1回警備員が来て起こされるし、こんな生活を毎日してるのかと。それでも西さんは路上生活を続けてる。それはなぜかと言うと、ソケリッサがあって踊りをしたいから。だから俺は路上にいるんだと言うんです。西さん自身も自分が可哀想と思われることにすごく拒否感があるから、寒くないし辛くないと言うんですけど、最後の最後でようやく生の声が聞けて、西さんという人を映画の中で見せられたのかなとは思っています。
アオキ 西さんみたいにずっと路上にいる人と、ちょっとだけしか路上にいなかった人に共通しているのは「お金がなくなった、どうしよう、ヤバい」とか、何もかも捨てざるを得ない状況で、人間が生きるために何かしら開かざるを得ないというのかな……自分なんかは、いくらでも守られたり助けてもらえる存在だから、それに比べたら、おじさんたちにはそういう感覚があるのかなと思います。
画像4(C)Tokyo Video Center
■ 絶えず変化し続けて、新しい価値観を提示する
三浦 ソケリッサをやめようと思ったことはないんですか。
アオキ 稽古に誰も来なかったらやめようかなと思ったことはありますけど、今までゼロはなかったです。本当は3年で区切りをつけて、周囲やおじさんたちの反応を見てから、続けるか考えようと思って始めたんですけど、メンバーも踊ることが楽しいだけじゃなくて、ダンスが躍動を感じるツールになっていたから、ここで終わりますって取り上げることはできないなと。皆がやりたがらない日が来るまでやり続けようと思ってます。
三浦 日々生きることに向き合わざるを得ない路上生活者の身体から出てくるものが魅力的で、僕はすごく好きなんですけど、路上生活だからこそなのは何故なんだろうってずっと考えていました。アオキさんに「彼らの踊りには原始的なものがあるんじゃないか」と言われて、ようやく腑に落ちたというか。言葉を持っていない時代の人間は、喜怒哀楽を体全体で表現していて、ソケリッサの踊りはそうした感覚と共通するところがあるから魅力的なのかなと。
アオキ ソケリッサをやってきて一番感じたのは、予定調和に行かないことです。昔やったCMの仕事は完璧にコンテがあって、秒数も合わせてはめ込んでいく。ソケリッサはそれとは真逆で、出ている人をいかに生かすかで、どんどん変わっていくし、メンバーが急にいなくなったりすることもある。実際に自分もすごく変化しています。ダンサー・振付師という肩書ですけど、型から入った自分の踊りや身体と、おじさんたちの“内から出る存在”と言うのかな、その対比を見せるために、自分はプロデューサーであり演出家であり小さくダンサーという、ある意味、中途半端な存在に変化してきました。世の中の変化で言えば、当初は自分より年下のメンバーはいなかったけど、若い路上生活経験者が増えてきたのは大きいですね。バリアフリーとかダイバーシティという声も広く聞こえてくるようになったけど、人間の中には全然浸透していなくて形式だけが独り歩きしているんじゃないか。実際、路上生活者をどんどん排除する方向に向かってますから、彼らやソケリッサの存在が、ひとつの新しい価値観として今の日本に提供できたらと思います。そうなれば、おじさんたちも喜ぶと思うしね。
三浦 映画も、ようやく自分の元を離れて色んな人に見てもらえるので、良くても悪くても、どんな反応があるのか楽しみでしょうがないです。
アオキ 「ダンス」と「ホームレス」って言葉はあるけど、それに興味がない人にも見てもらえるとすごくいいなと思います。面白いと思うし、きっと感じてもらえることがあるはずです。

ダンシングホームレス」は、3月7日からシアター・イメージフォーラムで公開。

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