震災で家族を失った少女描く「風の電話」 諏訪敦彦監督らがベルリンでQ&A
2020年2月25日 15:30
[映画.com ニュース]第70回ベルリン国際映画祭で、ハイティーンを描いた作品を対象にしたジェネレーション14プラス部門で、諏訪敦彦監督の「風の電話」が披露され、喝采を浴びた。現地には、諏訪監督とともにモトーラ世理奈と渡辺真起子が登壇した。渡辺は、前日にフォーラム部門でワールドプレミアを迎えたソン・ファン監督による中国映画の出演作「平静」に続く、2夜連続の登壇となった。
上映後のQ&Aで舞台に立った諏訪監督は、岩手県に風の電話が実在することを説明し、「主人公のハルの旅を通して、今の日本のポートレートを撮りたいと思いました。東日本大震災から9年たち、見た目にはそのときの傷はなくなっているが、人の心の中には残っている。実際見えなくなっているからこそ、映画でさまざまなことを感じさせられるのではないかと思いました」と語った。
観客から津波と原発に関しての意見を尋ねられると、「この映画の前は福島に行かなかったですし、距離感を持っていた。でも9年たって、向き合ってみようと思いました。個人的には広島、長崎の(被爆の)国で、原子力の問題が起きたことに対して大きな問題意識を持っています。ただこの映画では、ハルの視線を通してそれを描こうと思いました。一人の人間が受ける悲劇はどこであっても、変わらないと思います」と答え、会場に拍手が沸き起こった。
一方モトーラは震災について、ゆっくりと言葉を選びながら、「当時12歳で小学校に行っていて、大変と感じたけれど、直接何かを無くしたわけではなかったので、遠くで起こっていることのように思っていました。でも二十歳になって、撮影で震災の地に初めて行って、被災地のあまり変わっていない様子を見て衝撃を受けました。これまでは自分のことに精一杯で、意識ができなかったけれど、いまわたしたちの世代がそういうことに気づくことが大事なんだと、この映画を撮りながら感じました」と語り、再び拍手に包まれた。
東日本大震災で家族を失ったハルは、叔母が倒れて入院したのを機に、震災以来、足を踏み入れていなかった故郷を訪れる。さまざまな旅を経ながら、故郷にある「風の電話」にたどり着いたハルは、ひとり受話器を取る。
ラストシーンにおけるハルのモノローグの長回しに感銘を受けた観客に、撮影期間を尋ねられ、諏訪監督が3週間で撮ったと語ると会場には驚きの声が。さらに「それが日本では普通なんです」と言うと、笑いと拍手が巻き起こった。最後に監督が、「撮影自体は楽しく、心温まる経験で、つらくはありませんでした。地元の人々が、これを食べていきなさい、などと歓待してくれて、こうやって人々はまた生きていくんだな、と感じました」と語ると、会場は再び温かい拍手に包まれた。
実際Q&Aでこれほどたびたび拍手が起こることは珍しく、観客が本作と一体となり、心を動かされている様子が伝わってくるようだった。(佐藤久理子)
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