【ホラー映画コラム】心臓がいくつあっても足りない!極悪オカルトホラー「ジェーン・ドウの解剖」
2020年2月9日 21:00
[映画.com ニュース] ブラムハウス一派にマイク・フラナガンやアリ・アスターなど、ホラー映画界に次々と才能あるクリエイターが誕生している。そんなホラー群雄割拠の中でも、他に引けを取らず強い存在感を放つ男がいる。それがアンドレ・ウーヴレダルである。
ノルウェー出身の彼は、2000年に初の長編「Future Murder」の共同監督を務めると、2作目で超ド傑作の「トロールハンター」を世に放ち、世界中のジャンル映画ファンのハートを一気に射抜いた。
その後も順調にキャリアを重ね、直近では、ギレルモ・デル・トロと手を組んで最恐絵本「だれかが墓地からやってくる」を映像化した「スケアリーストーリーズ 怖い本」の公開も控えている。今回は、この要注目監督が手掛けた極悪オカルトホラー映画「ジェーン・ドウの解剖」について紹介したい。
とある一家が惨殺された状態で発見された。現場検証で不可解な点がいくつも発見されたが、中でも一番の謎は、事件現場となった家の地下で発見された身元不明の女性の死体であった。
遺体安置所と火葬場を営むベテラン検視官のトミーとその息子オースティンは、警察から謎に包まれた女性の死体<ジェーン・ドウ>の検死を依頼される。外で嵐が吹き荒れる中、二人はジェーン・ドウの解剖を進めていくが、やがて予想外の恐ろしい事態に発展していく……。
この映画の最大の特徴は、物語の展開と死体解剖が密接にリンクしている点だ。本編の大部分が死体解剖に費やされており、検死の進行と合わせて話が展開する構成となっている。かなりチャレンジングな作りだが、これがメチャクチャ怖くて面白い。
親子のもとに届けられた死体の様子がどこかおかしい。例えば、全身の皮膚は綺麗なままなのに、体を開くと肺が真っ黒に焼け焦げているし内臓もズタズタ、というような感じ。解剖していくうちに「あれ、この死体は異常では?」という疑問が膨らみ、そのまま更に進めていくと、この死体が何者なのか真相に近づく手掛かりが得られる構成となっている。
この文章だけだと難しい内容なのかと思ってしまうかもしれないが、劇中さりげなく親子の会話の中でここがこういう理由で異常だという解説も入るし、なにより素人目に見ても明らかにヤバい死体なので、解剖知識がなくても問題なく入り込める。私自身もそういう知識があるわけではないが、しっかりと恐怖を味わう事ができた。
また、死体と検死の様子を丁寧に詳細に描写することで、劇中発生する様々な異常事態に対して説得力を持たせることにも成功している。ファンタジーに足を突っ込むような設定や事象を、身元不明の死体を使って、本当に起こり得そうな形に落とし込んでいる。この監督は、「トロールハンター」での伝説の妖精狩りをPOV形式で描く手法もだけど、現実離れしたものを「本当にありそう」と思わせるのが抜群に巧い。
死体推しの構成を支える、精巧に作られた死体や内臓一式の造形と、ジェーン・ドウ役のオルウェン・ケリーの瞬き一つしない迫真の死体演技も素晴らしい。特に彼女の異常死体のなりきりっぷりは見事なもので、最後まで表情を一切変えず、言葉はもちろん生気すらも発しないで、この世ならざる異質感を見事に表現している。
私がアカデミーの会員だったら彼女に助演女優賞を与えていたところだ。あれだけ凄みのある死体演技をやって、なぜ賞に掠らなかったのか疑問でならない。死体だって賞を取っていいんだよ!!
また、鈴の音やここぞというところで流れるMcGuire Sistersの楽曲など、音の使い方も印象的であった。序盤で死体の足首に鈴を巻き付ける下りをサラッと説明して振りを作り、後半に入って廊下の奥から鈴をチリーンと鳴らせて恐怖を爆発させる流れの鮮やかさ! 音が鳴った瞬間死ぬかと思ったわ!!
このような恐怖を煽る演出がそこかしこに詰め込まれており、鑑賞中は心臓がいくつあっても足りない。この映画は、死体だけじゃなくて音も本当に凶悪なんですよ。
限られた舞台の中、あらゆる工夫で恐怖を爆発させる、匠の技が光るハイレベルなホラーである。OPクレジットからもう既にただならぬ雰囲気が漂っており、鑑賞中は思わず背筋が伸びる仕上がり。
3作目にしてここまで熟練した手腕を見せつけたウーヴレダル監督が、今後どんな進化を見せるのか楽しみだし、今後もこの監督は追いかけていきたい。とりあえず今は「スケアリーストーリーズ 怖い本」(2月28日劇場公開)を早く観たいという思いでいっぱいです。
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