ツァイ・ミンリャン新作「あなたの顔」4月公開 坂本龍一がオリジナル楽曲提供
2020年1月24日 10:00

[映画.com ニュース]第70回ベネチア国際映画祭審査員特別大賞を受賞した長編第10作「郊遊 ピクニック」で商業映画からの引退を公言したツァイ・ミンリャン監督が、5年ぶりに発表した新作が、「あなたの顔」の邦題で4月に公開される。
台湾に暮らす市井の人々と、俳優、監督のリー・カンションが出演するドキュメンタリー。カメラの前で自由に話し、動く登場人物の顔を、クロースアップと洗練されたライティングによって細部まで映し出す。目や口元、そしてそれぞれに刻まれた皺 が、人々の生きてきた時間を象徴するような作品だ。
ベネチア国際映画祭でワールドプレミア上映され、台北電影節で最優秀ドキュメンタリー賞と監督賞、音楽賞を、金馬奨で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。また、長編第2作「愛情萬歳」以降、既成楽曲のみを使用してきたツァイ監督にとって、24年ぶりとなるオリジナル劇伴を坂本龍一が担当。ツァイ監督から直々に連絡をとり実現し、坂本は台北電影節の音楽賞を受賞した。
「あなたの顔」は、4月からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
3年前のある日、僕はヴェニスの浜辺をぶらぶら歩いていたのだが、遠くで「サカモトー」と呼ぶ声が聞こえた気がして、ふと振り返るとツァイさんが満面の笑顔でこちらに手を振っている。警戒心の微塵も感じられない、なんと親愛に溢れた表情なんだろうと、なかば呆気にとられる。その時、この人のためなら何でもしてやろうと思ったのだった。
それから数ヶ月後にツァイさんのオフィスから連絡があり、新しい映画のために音楽を作ってくれと。ぼくはすぐにもちろんと返事をする。音楽の方向性はと聞くと、何もない、好きにやってくれという答え。
送られてきた映像を見、早速いろいろな音を試してみる。いわゆる「音楽」は似合わない。音と間が必要だ。あのミニマルな映像に適切な音、間とはなにか。最初にピアノで試し、それを映像に合わせてみると、非常にせわしない。だめだ、忙しすぎる。音楽独自の時間が映像の邪魔をしてしまう。今度は映像を見ながら、音を出していく。そういうプロセスを繰り返しながら、納得のいく間をとっていく。この作業にはどんな理論も役に立たない。ひたすら感覚の命ずるところによって決めるのだ。
数日して、音と間による12のピースができ、それを監督に送る、「自由にお使いください。切り刻んでも、全く使わなくても自由です」というメッセージを添えて。
完成した「あなたの顔」を観て、特に嬉しかったのは、最後の室内のシーンのために作った音を、ツァイさんはやはりそのシーンに使っていたことだ。言葉を交わさず、映像と音だけで意思が通じたと確信できる出来事だった。このように幸福な映画音楽プロジェクトは人生で度々あるものではない。
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