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森達也監督、東京新聞記者・望月衣塑子氏を「泣かせたかった」 勝負の行方は「完敗」

2019年11月4日 22:10

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東京新聞社会部記者・望月衣塑子氏(右)と森達也監督
東京新聞社会部記者・望月衣塑子氏(右)と森達也監督

[映画.com ニュース]第32回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門に出品されたドキュメンタリー「i 新聞記者ドキュメント」が11月4日、東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで上映され、出演した東京新聞社会部記者・望月衣塑子氏、メガホンをとった森達也監督が舞台挨拶に登壇した。

映画「新聞記者」の原案者としても話題を集めた望月氏を追った社会派ドキュメンタリー。望月氏の姿を通して、日本の報道の問題点、ジャーナリズムの地盤沈下、そして、日本社会が抱える同調圧力や忖度の正体に迫っていく。「シネコンとは、ほとんど縁がない監督だったので、悪夢を見ているような、天にも昇るような……非常に落ち着かない気持ちですが、同時にとても嬉しいです」と感慨深げな森監督。「よくぞこの映画を、東京国際映画祭で上映するという決意をしてくれた。矢田部(吉彦)さんの決断――色々責任問題になると思います」と感謝を示していた。

「あいちトリエンナーレ2019」補助金不交付問題、映画「宮本から君へ」助成金不交付問題、そしてKAWASAKIしんゆり映画祭2019での「主戦場」上映中止問題(現在は上映中止を撤回)の話題を絡めて挨拶した望月氏。「伝えたいこと、変えなくてはいけないのではないかと思うことを、ひとりひとりが自身で問いかけ、気づくことで、少しずつ社会や政治が変化していく。映画がそのきっかけになっていれば」と作品への思いを吐露した。また、森監督について「マルかバツかの描き方じゃない、非常に多面的な見方をされる。全体主義のなかで“個”を埋没させてはいけないというテーマを一貫して追ってきた方」「私の色々な面を出すために”仕掛け”をしてくる。若干『怖いな』という気持ちは常にあった」という印象を抱いていたようだ。

一方、森監督は「(望月氏を)1回は泣かせたかった」と告白。「でもなかなか泣かなかった。最後に目薬を無理矢理渡して撮ったんだけど『なんでこんなことをしなきゃいけないの?』という顔をされるので、全然使えるカットじゃなかった。色々手を尽くしたけど、僕のやり方は通用せず。完敗しました」と振り返っていた。質問タイムで際立ったのは、森監督の回答だ。質問者に対して「あなたはどう思いましたか?」「(質問者の回答を受け)それが正解です」と切り返す。「映画は見た瞬間に、皆さんのものです。それぞれが色んなことを思い、色んなことを考えればいい。僕も皆さんの意見を受けて発見することもある。だからこそ、シーンの意味は口が裂けても言いたくない。どんどん質問していただいていいですよ。かわしますから」と答えていた。

「映画を見た後に、何かアクションを起こしたいと思うはず。しかし、対するものが“大きすぎる”。私たちは何をしたらいいのか?」と問いかけられた望月氏は、「私が嫌がらせをされ続けながらも、会見に向かうことができるのは、日々会社に届く電話、FAX、応援のメールのおかげ」と説明。「それが結果として編集局長、局次長の目に留まる。『もっと声をあげ、質問をし、記事を書いてほしい』という市民や視聴者の声がある限り、それを無にすることはできない。『あいつの背中を押し続ける』という判断となり、会見に行かせ続けるという判断になったんです。叱咤激励の声が『記事を書こう』『質問をしてみよう』と踏み出せるきっかけになる」と思いの丈を述べていた。

やがて、森監督は望月氏に投げかけられた「これからも“空気”を読まないでください」という観客のメッセージを引用し、中国メディアの取材を述懐。「(中国メディアの)話を要約すれば『中国は、共産党の影響で言論が不自由。国民はその事実をわかっている。しかし、日本は共産党のような存在はないけれど“空気”が、それを支配している。そして、ほとんどの国民が気づいていない。そこが大きな違い』というもの。“空気”を作っているのは誰か? 僕たちですよ。最初はこんな場所で上映できるとは、思ってもいなかった。でも、やればできるんですよ。100%ではないかもしれないけど、言えば形になる。もっとわがままに、自由に、言いたいことを言う、やりたいことをやる――それが、今ちょっと足りないんじゃないかな」と語っていた。

i 新聞記者ドキュメント」は、11月15日より東京・新宿ピカデリーほか全国順次公開。第32回東京国際映画祭は、11月5日まで開催される。

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