西島秀俊＆西田敏行、日本映画界の未来を見据えた“反省会”は「幸せな時間」

ヤクザでありながら、社会のルールを絶対に守り、義理人情で社会貢献をしていく「阿岐本組」が、経営難に陥った高校を立て直すために、生徒たちとともに奮闘する姿を描いた本作。西田は組長の阿岐本雄蔵を、西島は組のナンバー2で若頭の日村誠司を演じる。

西田と言えばコミカルな演技から、重厚な芝居までどんな役柄でも圧倒的な存在感を出す大ベテラン。西島は「作品名を出すのもおこがましいですが、僕はこの映画は『釣りバカ日誌』meets『アウトレイジ』というイメージがあり、西田さんはものすごく楽しい部分と、真剣に戦う部分の両方を映画の中で表現されていて。そんななかで、自分にヤクザの若頭が務まるのかというプレッシャーがありました」とオファーを受けたときの率直な胸の内を明かす。

それでも西島は「ヤクザとはいうものの、ファンタジー要素も強く“全員善人”という特殊なヤクザ。そこを西田さん自身がしっかり体現されているので、そこについていければ……」と不安は消し去って現場に臨んだ。

2013年放送のNHK大河ドラマ「八重の桜」で共演経験があった西田と西島。本作でも、西田の圧倒的な存在感に驚きを隠せなかったという西島は、「シーンの終わりに、絶妙なアドリブがバンバン入ってきます。同時に、シリアスな部分でも説得力を持ってアドリブを入れてこられる。その西田さんのひと言で物語やキャラクターが膨らむんです。すごく勉強になりましたが、参考にもならない、まねもできない」と脱帽する。

西島の発言に照れ笑いを浮かべていた西田。こうしたスタンスをとるようになったのは、若かりし頃、先輩からかけられた言葉が大きく影響しているという。

「最初の劇団時代（青年座）、脚本家の書いたセリフは宝だから、一行たりとも崩してはいけないと教わったので、真面目な芝居をしていたんです。そうすると『お前の芝居はつまらない』と言われる。そんなとき、一度だけセリフは変えずに、長谷川一夫という俳優さんの物まねをしたら、劇評で『西田敏行という役者は面白い』と書かれたんです。その劇評を見たある先輩が『うまいとか見事だという褒められ方をする俳優は世の中にたくさんいるけれど、面白いと評価される人はめったにいない。これからお前が役者として生きていくうえで“面白い”を命題にしろ』と言われたんです」（西田）

20代前半の時の話だという。そこから西田は「役者としていいアイデアをもらった」と感じた。“面白い”という言葉には広い意味があるため、とにかく“面白い俳優”と呼ばれるように鍛錬していった。そこには脚本家や演出家との戦いもあったようだ。

「自由にやらせてくれる組もあれば、それを良しとしない人もいました。でもアドリブなんていらないぐらい素晴らしい脚本に出合えれば、こちらはそんなことをしません。脚本家もクリエイターとしてプライドがあるのは分かりますが、こちらもただの“セリフしゃべり機”ではない。俺もクリエイターなんだぞという思いは一緒。でもお互いがそういう気持ちで臨むからこそ、相互作用で良い作品ができると思うんです」（西田）

試行錯誤しつつも、数々の作品で結果を残し、現在の地位を確立した西田。収録が終わると「反省会」と称して、西島はもちろん若手俳優たちが、西田のもとへ集っていた。西島は「毎日のように西田さんの周りに集まり話を聞くのが習慣になっていました。若いときからスターとして活躍されていた西田さんですが、お話を聞くといろいろ大変な経験をされている。そのひとつひとつがあって、今の西田敏行さんという俳優になっているんだなと実感できました」と楽しそうに語る。

そして「『任侠学園』の現場は、本当に『幸せな時間』でした。みんな帰らないし、この映画に出演していない役者も『反省会に参加したい』って来てくれたりして」と笑う西島。「反省会」で西田が語るレジェンドたちのエピソードは、魅力的なものばかりだ。

「大島（渚）組の俳優さんたち、丹波哲郎さん、三國連太郎さんなどのエピソードを、西田さんが物まねを交えて語られるので、若い俳優たちは興味を持って、過去の作品を見ようとする。世代を超えて作品が繋がっていったり、俳優としての考え方について話したりするのは幸せな時間です」（西島）

西島自身は「僕は若いころ、あまり仕事をしていない時もあったので、こういう場は貴重ですね」と語っていたが、西田は「西島君は、オンタイムではない映画の知識もしっかりあるし、本当によく映画のことを勉強しています。それが今に繋がっている。彼自身の努力によって作り上げられてきた役者人生だと思う」と称賛。さらに「若い俳優がみな西島秀俊に憧れている。彼は、硬質な映画も柔らかい映画もなんでもできるし、役柄もバラエティに富んでいる。今の日本映画界の中心で、これからも牽引していく人物です」と西島の“未来”に太鼓判を押していた。