「ドゥ・ザ・ライト・シング」公開30周年! スパイク・リー、フランク・シナトラとの接点を明かす
2019年8月3日 10:00
[映画.com ニュース]1989年に発表された「ドゥ・ザ・ライト・シング」の公開30周年(日本公開は90年4月)を記念した展示会が、ニューヨーク・ブルックリンにある「モカダ・ミュージアム」で開催され、メガホンをとったスパイク・リー監督(「マルコムX」「ブラック・クランズマン」)が出席し、同作への熱い想いを語った。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
人種間の関係を通して、社会的・政治的な問題を浮き彫りにしてきた“ニュー・ブラックシネマの旗手”リー監督。ブルックリンのベッドフォード・スタイベサントを舞台にした本作は、ピザ屋の宅配人・ムーキー(リー監督)を中心に、彼の近所で暮らすヒップな活動家、ストリートの飲んだくれの哲人、ピザ屋を経営するイタリア人親子など、さまざまな人々の日常を追いながら、アメリカ社会が抱える人種問題を描いた意欲作だ。
展示会では、リー監督の兄であるデビッド・リーが撮影した当時のスチール写真、インタビュー映像、サル(ダニー・アイエロ)が経営するピザ屋「Sal’s Famous Pizzaria」の看板、ムーキーが暴動の際にピザ屋に投げ入れたゴミ箱、ストリートで飲んだくれる老人たちが座っていたビーチチェアなどが展示されていた。
本作のコンセプトは、リー監督の少年時代の体験によるもの。「僕の家族が、ブルックリンのフォートグリーン地区に引っ越す前に住んでいたのが、ブルックリンのコブルヒル(Cobble Hill) という場所。実は、僕らがその区域で一番最初に住み始めた黒人だったんだ。その頃のコブルヒルは、イタリア系アメリカ人ばかりが住んでいた」と述懐するリー監督。「最初の2、3カ月は、僕ら家族は周りのイタリア系アメリカ人から“Nワード”で呼ばれていたが、しばらくして、多くの黒人たちがコブルヒルに住み始めてからは、急にクールな地域と評価されるようになった」と語り、そんな“人種が交錯する地域”から着想を得たそうだ。さらに「昔からニューヨークでは、アフリカ系アメリカ人とイタリア系アメリカ人の間に、愛憎の入り混じった関係があった」「この2つの人種は似ている点が多い」と明かしてくれた。
最も印象深いキャラクターのひとりとして挙げられるのは、ビル・ナン演じるラジオ・ラヒームだ。同キャラクターが生まれた背景には、実際に起きた事件の影響があった。
「劇中にラジオ・ラヒームが警官によって窒息死させられるシーンがあるが、あれは83年に起きた事件を基にしている。マイケル・スチュワートという男が、地下鉄でスプレー塗装のグラフィティを描いていたところを逮捕された。抵抗した際に数人の警官に殴られ、最終的に窒息死したんだ。今から5年前にも、黒人男性エリック・ガーナーが、マイケルと全く同じような状況で亡くなっている。結局、ガーナーを窒息死させた警官は不起訴になった。多くの点で83年と変わっていないのは、とても悲しいことだと思っている」
「本作は、ある夏の一番暑い1日を、8週間で撮影していた。そのため、映画内の時間経過に合わせて、撮影を行っていかなければならなかった。時には雨が降り、設定的に撮影ができなかった日もあった。サルのピザ屋が最初のテイクで、すべて燃えてしまったたため、1テイクしか撮れなかったこともあったね」と語るリー監督は、「実は、この“火災シーン”によって、大きな問題が生じたんだ」と告白。そのトラブルによって、ある偉大な歌手との接点が生まれていた。
「サルのピザ屋には、イタリア系アメリカ人の有名人の写真だけが飾られていた。ラスト、暴動によってピザ屋が崩壊した際、それらの写真が燃えてしまうシーンがある。やがて『ジャングル・フィーバー』を撮影していた頃、フランク・シナトラの3つの楽曲を使おうと考え、楽曲の著作権を管理する彼の娘ティナに許可を得ようとしたんだが……ティナは『フランクは、あなたに楽曲を使用させないわ』と言ってきたんだ。その理由を聞き返すと「ドゥ・ザ・ライト・シングで、フランクの写真を燃やしたからよ!』と言われたんだ(笑)。僕は素直に受け止めて、彼女に謝ったよ。すると『父親に手紙を書いてみたら?』とアドバイスされたので、“いかにフランクの楽曲が好きか”ということを長文でつづった手紙を送ったら、すぐに許可を出してくれたよ」
「(公開当時の)評価は良かったが、ほとんどの批評家の記事の“ある部分”が気になった」と打ち明ける。「サルのピザ屋での暴動事件を“黒人が白人の店を崩壊させた”と記していたものの、ほとんどの批評家が“ラジオ・ラヒームが殺された”ことを記していなかった。それが、君たちにはどういう意味かわかるかい? 白人の所有する店の方が、黒人ひとりの死より重要視されているということだよ」と不満を抱いていたようだ。最後に、当時の風潮と対比させた“現代アメリカの変化”について話してくれた。
「僕が少年だった頃、悪いことをすれば、近所に住む大人たちが叱ってくれて、両親はその叱咤に対して『ありがとう!』と感謝していた。でも、今では親が『なぜ私の子どもに触っているのか?』『自分の子どもには、私が大人として注意するから、あなたは黙ってて!』と言うんだ。“人と人の関係”が、今の社会では薄れている。そんな“人付き合い”こそが、今の時代にはもっと必要だと思っている」
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