魔夜峰央×加藤諒×小林顕作監督が語り尽くす「劇場版パタリロ!」
2019年6月27日 11:00
[映画.com ニュース] 「奇想天外」「ハンパない!」――。そんな言葉で形容するほかない、この「劇場版パタリロ!」を生み出した原作者と主演俳優と監督。彼らに共通するのは、周りの目や前例にとらわれず、己の信じたことをやり抜くパワーだろうか。最終的に“どこ”にたどり着くかなど、ハナから問題にしていない。漫画家・魔夜峰央、俳優・加藤諒、監督・小林顕作の言葉、いや、何よりも作品から、そんな意思が伝わってくる。
「翔んで埼玉」が社会現象となった魔夜の言わずと知れた代表作であり、1978年の連載開始から40年以上を経て、単行本は100巻を超える名作少女ギャグ漫画「パタリロ!」。今回の映画は、2016年に2.5次元ミュージカルとして舞台化された作品を、加藤をはじめ同じキャスト、そして舞台に続き小林が監督を務め、映像化したものだ。
映画化決定の一報に対する受け止め方はまさに三者三様。加藤は舞台初演を終える頃に映像化の話をウワサ程度に耳にしていたという。
「その時は『ホントに?』という感じで、本当に決まった時はびっくりしたし嬉しかったですね。2.5次元の舞台をこういう形で映画化する事例も決して多くはないので。不安はあんまりなかったです。正直、舞台の初演時は不安でしたけど、それを最後までやり切ったことが自信になったし、そのメンバーで舞台とはまた違うものを作るという楽しみが大きかったです」。
一方、小林監督は俳優として近年、大河ドラマ「真田丸」への出演や、Eテレ「みいつけた!」の人気キャラ・オフロスキーなど映像でも活躍しているが、基本的に自他共に認める“舞台人”であり、そもそも、長編映画の監督もこれまで未経験。
「まあ正直、映画化のオファーが自分に来た時は『正気かな?』と思いましたね(笑)。ただ、自分の中に『映像にするならこうしたい』というビジョンやアイデアはありました。でも、それは『できるわけないでしょ』って即却下されたんですけど…。例えばラストは、パタリロとバンコランを円谷スタジオで巨大化させて、街をぶっ壊しながら戦わせたかったんです。ヒモをつけて飛ばしたり、爆竹で爆発を起こしたりしながら。『そのシーンの予算だけでもう1本、映画が作れちゃいますから』って一蹴されました(苦笑)。そこからは、舞台のスタッフ、キャストと一緒に森へ冒険の旅に出たような感じでしたね」。
魔夜は、原作がここまで長く続いている理由について「行き当たりばったりで何でもあり。何を描いてもいいと思ってやって来たから」と説明する。そんな彼にとって、アニメや舞台は原作とは「全く別のモノ」。そんな彼が制作陣につけた唯一の注文は「バンコランとマライヒのキスシーンは入れてほしい」ということで、それは、彼自身のこだわりや美学によるものなどではなく「ファンが喜びそうだから」という理由だった。
「最初に舞台の話が来ましたが、いま、2.5次元の作品がたくさんあるということ、そして顕作さんがすごい方であるとうかがい『お任せします』と体よく丸投げしました。そうしたら素晴らしい舞台が出来上がったんです。次に映画化と聞いて、また顕作さんが監督をすると聞いた時は『え? 畑が違うでしょ? 大丈夫?』と思いました(笑)。でも、他の人に任せるのもおかしな話だし、この作品の世界観を誰よりわかっているのは顕作さんですからやっぱり『お任せします』と。そうしたら、いい意味でも悪い意味でも(笑)、バカバカしい映画ができたなという感じです」
小林監督が「パタリロ!」を表現する上で、舞台時から一貫して大切にしてきたこと――それは「大切にすべき軸を持たないこと。こだわりを持たないこと」だった。それは監督が考える「パタリロ!」という原作の魅力、40年にわたって愛されてきた理由につながる。
「意味が存在しないところが『パタリロ!』の最大の魅力。“無意味”の中にいろんな意味や設定を埋め込んでいくことで出来上がる、この実体のなさが『パタリロ!』なんです。いろんな要素の奥にあるもの――それはバックボーンじゃなく、“無意味”。それは作品を見るお客さんに委ねるということで、お客さんがそこに何かを見出すんじゃないかと思います。一切のこだわりも軸も持たず、あるシーンで『こうしたい』と思ったら、勇気を持って突き進んで、やり過ぎてわけがわからなくなるくらいでしたが、自分が面白いと思うことを全部やりました」
“実体がない”――その言葉通り、加藤は一切、“パタリロらしさ”を求められることはなかった。
「監督に言われたのは『諒くんのまんま、諒くんの性格の悪さを全部出してくれ』ってこと(笑)。ミーちゃん先生(=魔夜)からも『もっと諒くん自身に寄せればいい』って言われました。映画に関しては、舞台と何も変えることなくそのまま! ただ、当日になって急に寅さんのパロディのセリフを急に手渡されたりして、焦ったことはありましたけど(笑)。必死に食らいつきました」。
原作者が「原作通りにやってくれ」ではなく「もっと自分に寄せていい」と言うキャラクターもなかなかいないが、魔夜は「それは諒くんだから」と加藤に全幅の信頼を置く。
「それこそ寅さんが渥美清さんにしかできないのと同じで、パタリロは諒くんにしかできない。舞台の前に初めて会った時から『生まれついてのパタリロだ。パタリロをやるためにこの人は生まれてきたんだ』と思いましたから。諒くんが好きなように動けば、それがパタリロになるんです」。
ちなみに映画「翔んで埼玉」が地元の埼玉で圧倒的な動員数を叩き出したことが話題になっているが、魔夜はかつて「パタリロ!」のアニメ版が放送された際、関西圏では関東圏の約2倍の視聴率を記録したと明かし「関西、特に大阪の笑いに対する需要の大きさに合っているのかも」と分析する。
小林監督は「舞台版第1弾で、オジサマのファンの方々が紀伊國屋ホールで狂喜乱舞されているのを見て『イケるかも』と手応えを感じたんです。だから今回の映画を作る上で『あのオジサマたちのために!』という思いがありました(笑)。僕自身、出来上がった映画を何度見ても、見るたびに感想が変わるし、実態がつかめない。でも、そここそがお客さんに楽しんでもらえる部分だと思ってます!」と観客の元に届いたのちの化学変化、いや、爆発への期待を口にする。
小林監督が練り上げ、加藤諒が仲間たちと共に体現した“魔夜ワールド”を存分に味わってほしい。
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