大杉漣さんとサーフィンと種子島と… 「ライフ・オン・ザ・ロングボード」続編、現場レポート
2019年5月26日 12:00
[映画.com ニュース] 故大杉漣さんが主演したサーフィン映画「ライフ・オン・ザ・ロングボード」(2005)は、定年後に突然サーフィンに目覚め、鹿児島・種子島に移り住んだ中年男性の“第2の人生”を鮮やかかつ爽やかに描ききった。公開から13年。続編「ライフ・オン・ザ・ロングボード 2nd Wave」が、2018年5~6月に種子島で撮影された。前作から引き続きメガホンをとった喜多一郎監督らが、ロケに密着した映画.comの取材に応じてくれた。
島の南東に位置する「種子島いわさきホテルコスモリゾート」付近のビーチで、撮影は行われていた。今作主演の吉沢悠が、泉谷しげるらとともにサーフボードを抱えて海に入っていく。海面をゆったりとパドリングしていた吉沢は、やおら急旋回するとやがて波をとらえ、身の丈ほどもあるショートボードに颯爽と立ち上がった。滑走するボードの先端が水しぶきを跳ね上げ、太陽の光を反射しキラキラと輝く。泉谷たちの歓声と拍手の音が柔らかな風に運ばれ、紺碧の空へ吹き抜けていった。
空と海は遥かな水平線でその境目を消失させ混ざり合っている。白い砂浜にはさざ波が絶え間なく押し寄せ、心地よい破裂音を残して返っていく。さえぎるものなど何もない海面はあちこちで隆起し、絶好の波を次々と形成していた。サーフィンの聖地――。鉄砲伝来と宇宙開発で知られる種子島に、近年、多くのサーファーが移り住んでいる。
今作の主人公・梅原光太郎(吉沢)は、一流サーファーだが自身のいい加減な性格が災いし、住居を含め何もかも失ってしまう。かつて自分を愛弟子のように可愛がってくれたサーファー・工藤銀二を頼って種子島にやってきたが、銀二はすでに死去しており、娘の工藤美夏(馬場ふみか)がサーフショップを切り盛りしていた。邪険に追い払われた光太郎だったが、目の前には“最高の波”を予感する美しい海が広がっており、この島で暮すことを決意する。
「はっきり言って、あまりにも神がかり的なんです」。喜多監督が驚いたのは、晴天に対してだった。天気予報は連日、傘マークと90%の文字を表示していたが、「この1週間、ほとんど撮影中に雨が降らなかった」という。島の住民たちも「奇跡に近い」と口をそろえるなか、喜多監督は大杉さんへの思いを募らせていた。
「撮影前に、大杉さんのマネージャーさんから『大杉も天国から応援しています』とメッセージをもらっていました。今日撮影したこの海は、ちょうど前作で大杉さんがランディングできた場所なんです。ポスターに写っていたあのシーン。しかも今日、泉谷さんが同じところで、すごくいいランディングができた。天候にも恵まれて、撮影は順調に進んでいる。いろいろ感じるものがあった。急きょ、全く予定外でしたがみんなを集めて、大杉さんを偲んで黙祷を捧げたんです」
前作の撮影中、大杉さんは「俺にとって芝居というよりドキュメンタリーだ」とつぶやいていたという。サーフィンを一から本気で特訓し、実際に乗れるようにもなった。その過程で生まれた感情を、カメラの前でてらうことなく表現すればよかったからだ。
喜多監督の「現地の営みを使わせてもらう」という演出法も、ドキュメンタリーとの思いを深める要因だった。ちゃんぽんが絶品の「あやの食堂」(ももいろクローバーZ・玉井詩織の親族が経営)や、看板ネコの“ナサケ”がキュートなサーフショップ「ORIGIN」など、ほとんどの施設が実名で登場している。
「地域に根付いているものをそのまま使うことがすごく多いんです。そのほうが味が出るからで、ロケーションにもほとんど手を付けません。役者さんも、いかに地元に馴染んで見えるかが僕にとって重要。近くで芝居を見るのではなく、モニターよりも離れたところで見ることもよくやります。いかに背景に馴染んでいて、島に溶け込んでいるかを確認するんです」
映像を通じ、そこで日常を送る人々の“息づかい”がにじみ出てくる。撮影の1カ月ほど前から種子島で生活を始めた吉沢は、「島民よりも島民っぽい」と評されるほどで、現場の誰よりも風景に馴染んでいる。自然の原風景と素朴な生活が残る一方で、ロケットの打ち上げが日常の一部となっている種子島。過去と現在と未来が混在するこの島を背負い、キャスト陣はカメラの前に立っていた。
10年ほど前にプライベートで種子島を訪れたという香里奈は、今作では島でも随一の人気を誇る鉄浜(かねはま)海岸にあるレストランカフェ「イーストコースト」の店長を演じた。撮影の日々を「すごく濃い時間を過ごしています。島の人たちもあたたかくて、みんなの団結力を感じました」と振り返り、「島の人たちは、どこか東京とは違う温かさがありますよね。そんな親しみやすさを表現できたらと思っています」と明かした。
泉谷は70歳を迎えながらも、サーフィンに初挑戦。「経験しないとわからないことがあるよな」。そう言いながら、「この映画の僕らは、種子島をどう良く紹介するかという“スポークスマン”でもある。大事なのは(住民たちとの)交流。その意識がないと、この仕事は出来ないですよ。ただ東京の感じを持ってきても、押し付けになるからな。基本交流。ここのものを食べて、ここのじいちゃん、ばあちゃんと話す。そうじゃないとクソ面白くない。地元の人たちに応援してもらえないとな」とニカッと笑った。
鉄浜海岸での撮影後は、地元住民の厚意でバイキング形式の食事会も催された。スタッフ・キャストたちは波音に耳を傾けながら、住民たちと気心の知れた会話を交わし、トコブシの煮付けやニガダケのてんぷらなど絶品料理に舌鼓を打つ。そんな輪に加わり、映画がその土地にもたらす影響を垣間見た気がした。
「ライフ・オン・ザ・ロングボード 2nd Wave」は、ほか立石ケン、大方斐紗子、森高愛、榎木孝明、竹中直人らが出演。5月31日から東京・新宿バルト9、鹿児島ミッテ10ほか全国で公開される。
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